349. いつまでも続く死闘 3
空を、ガランビームが切り裂いた。
低い雲が真っ二つに割れる。
『なにをするっ!! カワシマッ!!』
『いくらなんでも、市民を狙ってビームを撃つのは反則だろっ!! それに魔王さまは、げんきを連れてこいって言った! 殺せとか聞いて無いぞっ!!』
はあはあ、ぜいはあ。
なんにせよ、一息付け……。
ちょろちょろとトカゲ君、何号かが、メイリンの方へ走ろうとする。
風の手で土手っ腹をぶち抜く。
アンギョオオオオッ!!
諜報王と川島君が揉めている間に、重魔獣を片付けよう。
『今がチャンスなんだっ!! コルキスを破った勇者ゲンキを私が倒したら、コルキスの面子は丸つぶれだっ!! 諜報部が軍部の上に立てるっ!!』
『あんた、そんなくだらない事でっ!!』
『くだらないとはなんだっ!! どんな手を使っても、勝てば良いんだっ!! なぜそれが解らないっ!! ゲンキを殺せば、今回の勝負も魔王様の勝ちだ!! キルーク市を併呑できるっ!! それが魔王軍にとって、どんな大きな勝利か解らないのかっ!!』
意外とこすい事を考えているんだな、諜報王のくせに。
などと考えながら、はさみ君の首をもぐ。
ぎゃあ、ハリネズミ君が足に針を刺した。
こんにゃろめいっ!
『だからってよお、だからって、市民を巻き込む形でビームを撃って、げんきに体を張って止めさせてさあ、そんなの勝利じゃねえよっ! 自分が嫌にならないのか、あんたはっ!!』
『敵の市民なんかは、何千万人死のうと気にすべきでは無いっ!! いいや、自軍の兵士でも、魔王軍の市民でも、何千万人死のうと気にするべきではないっ!! 勝利、勝利だけが輝く硬い真実であって、どんな手を使おうと、勝利は勝利だっ!!』
ああ僕も、川島君に続いて突っ込みたいのだが、忙しい。
その鬱憤を、はさみ君を倒す方に向けて、風の足で踵落とし。
はさみ君の頭蓋を蹴り壊す。
ぜいぜいっ。
『いくらなんでも限度って物があるだろっ!! やり方が汚すぎるっ!!』
『そんな物はないっ! 良心? 正義? そんな物は誰が決めるのだっ!! 勝った者、最後に地面に立っていた者が決める事だっ!! 敗者には一言も言う権利は無いのだっ!! 状況をよく見ろカワシマ! コルキスが倒せなかったゲンキを、私が、知恵と策で、ここまで追い込んだんだっ!! 武の腕前? 気合い? そんな物は糞食らえだっ!!』
『お、俺は、そうは思わない。いくらなんでもやっちゃいけない事はある気がする。なんだか、そういう事をすれば、どこかの深い穴に真っ逆さまに落ちていく、そんな気がするんだ』
『うるさいっ!! だまれっ!! 貴様が言うなっ!!』
そう言うと、諜報王はビーム発射口をミルコゲールに向け、撃った。
バシュウウウッ!!
紫色のビームが、ミルコゲールの肩口を貫通した。
『うがああっ!!』
『邪魔をするな、お前は、そこで、勇者ゲンキを死ぬ所を見ていろっ!!』
ぜいはあ。
ぜいはあ。
僕は、その諜報王の暴言を、一休みしながら聞いていた。
積み重なった、重魔獣の死骸の上でね。
『あの数の重魔獣を……。きさまーっ!!』
「諜報王、というか、鳥よ、君は、ださい」
『なんだとーっ!!』
「小悪党だ、君は、嘘つき鳥だ」
『そのなまえで、私を、呼ぶんじゃあないっ!!!』
「もの凄く複雑な策を弄するから、尊敬してたけど、勘違いだった。君は単に現場に出れないコミュ障の小物だ、裏で動くのが上手くなったのは、敵と正面切って戦え無いほど屑だからだ」
『きさまーっ!! ゆるさんぞっ!!』
鳥の人間の体は激怒した。
鳥の体もキャーキャーと怒り狂っている。
ガランゲールが片手をつきだして、ビームを放った。
「あやめちゃんっ!!」
「わかったっ!!」
あやめちゃんにコントロールを渡す。
彼女は、キルコゲールの足下のはさみ君の死骸を持ち上げ、ビームを防いだ。
黒く硬いはさみ君の甲殻がビームに溶かされていく。が、貫通はしていない。
さすが、重魔獣の殻、硬いぜ。
キルコゲールの損害は酷い物だ。
両手は砕かれていて、右手は動かない、左手はやっと動かしている。
左太ももの部分に貫通、動きが半減している。
肩にもビームの貫通穴が空いている。
重魔獣たちにも、結構傷つけられた。
でも、まだ、動く。
左手は、あやめちゃんの【友情】を一回かけた。
【友情】の残りはあと二回。
あやめちゃん用の盾と剣を、さっき見つけた。
はさみ君のはさみの半分が剣、はさみ君の体が盾だ。
「にゃおおおおおん」
猫のような動きで、あやめちゃんがキルコゲールを突進させる。
ガランゲールを、メイリンから離すんだ。
『くっそー、小癪な小娘めっ!! カワシマッ!! 手伝えっ!!』
『……』
川島君は答えず、ミルコゲールを座り込ませたままだ。
『攻撃は、攻撃はできないはずだっ!!』
「攻撃なんかしないんだよ、押すだけ、押して押して、どっかにいけなんだよっ!!」
あやめちゃんは、はさみ君の死骸を左手に持ち、右手にはさみ君のはさみを持って、シールドバッシュする!
シールドバッシュは、受けだ。
脳の中で、攻撃に分類されないらしい。
押せる。
押せる。
平原をどんどん押していく。
ガランゲールはメチャクチャに剣を振り回し、ビームを撃つが、全て、あやめちゃんに止められる。
はさみ君の死骸が溶けていく。
ばらけていく。
でも、どんどん押していく。
メイリンから離していく。
「どうする、げんきくん?」
「どうしよう」
いや、押すだけで、僕たちに打開策があるわけじゃなくて、もう、押してるだけ。
とにかく、メイリンから離そうとしているだけだ。
攻撃出来ないガランゲールを倒す方法は思いつかない。
押していく、わ、はさみ君の死骸がビームでばらばらになった。
やばい。
『死ねいっ!!』
「なんの」
ガランゲールの剣を、あやめちゃんのはさみ君の角が迎え撃つ。
ガキンガキンと、剣と角が打ち合わされる。
ガランゲールに角を振り下ろそうとすると、がくんと動きが止まる。
止まった所を剣で狙われ、肩を切り裂かれる。
「あぎゃっ!!」
さらに切りおろそうとするガランゲールに、見ていられず、あやえめちゃんからコントロールを奪い、振り下ろされた剣の腹を叩き、避ける。
「ごめん、げんきくん」
「大丈夫、ちょっと休んでげんきでた!」
あやめちゃんが何いってんだ、という目で見た。
魔力が枯渇しはじめて、僕の顔が冷たくなっている。
ガランゲールが、メイリンの方向へビームを撃とうとする。
その腕にすがりついて、ビームの軸線をずらす。
メイリンの方にはミルコゲールがいて、座り込んで微動だにしない。
『カワシマっ!! 手伝えっ!!』
『……』
「だけど、このままじゃ、千日手だよっ、え、なに、キルコ君、え、うん、うん、そ、それは……」
「どうしたのっ!?」
「なんでもないっ!! うん、うん、そんな、いや、その……、うん」
なんだか、あやめちゃんがキルコの中の人と話し込んでいる。
なにか打開策があるのか?
深刻な顔をして、話し込んでいる。
なんだろう。
そんな事を考える暇は無い。
ガランゲールに密着して、隙を見て、押す。
ビームを出そうとしたら、手に食い下がる。
魔力節約のため、キルコボレアスモードは解除している。
風の手、風の足は使えない。
キルコゲールは満身創痍で、動きが鈍くなっているが、ガランゲールは元々動きがぎこちないので、良い勝負だ。
はあはあ。
打撃技が使えれば。
投げ技が使えれば。
こんな奴、千回でも倒している所なのに。
とにかく、押す、メイリンから離す。
鼻の下がぬるっとした。
下を見ると、コンソールに血がぼたぼた落ちている。
「げんきくんっ!! 魔力の使いすぎだよっ!!」
「え?」
その瞬間、ガランゲールの剣が、キルコゲールの肩口に突き刺さり、オイルが血のように吹きだした。
激痛が間を置いて、僕の肩に突き刺さった。
『やったぞ、これで、終わりだっ!』
「治れ~、治れ~っ!」
あやめちゃんの【友情】で、肩の傷が治っていく。
僕は、タックルの要領で、ガランゲールの腹に突進した。
押すのは出来る。
どこまでも押してやるっ!!
鼻血がぼたぼた落ちるし、もの凄い頭痛がするが、気にするな。
キルーク市までも押してやるっ!!
『くそうっ!! 離せ、離せっ!!』
密接している状態ではまともに剣は使えない。
ビームがバシュバシュと体を打つけど、角度的に深い所は狙えない。
痛み。
激痛。
目がくらくらしてくる。
でも、押す。
押す事しか出来ない。
「治れ~、治れ~」
あやめちゃんが涙声で【友情】を使う。
あれ、もう、【友情】できない?
気を失いそうだ。
駄目だ。
駄目だ。
押せ。
押せ。
どこまでも押せ。
無意味でも押せ。
立ったまま死のう。
魔力切れで死のう。
しかたが無い。
しかたが無い。
なにか手を。
「ふんぐああああっ!!」
意識が朦朧として、何を投げた。
なんか、目の前に黒い霧のような物体がある。
なんか、嫌な物だ。
殴る、殴る!
『なぜだっ!! なぜガランゲールに攻撃できるんだっ!!』
「あ? え?」
殴っているのはガランゲールなのか?
ええと、ガランゲールって、なんだっけ。
魔物の一種か?
なんだっけ。
あ、やばい、思考能力が揮発してる?
ああ、もうでもいい。
なんでもいい。
ぶっ殺す。
ぶっ殺す。
「あああああっ!!」
『やめろっ! やめろっ! 魔王様に借りたガランゲールがっ!!』
「げんきくんっ!! がんばって、目を覚ますんだよっ!!」
バチッと、衝撃が走って、目の前がクリアになった。
【応援】?
え、今何をやってたの?
「たった一つ、最後のお願いだよ。ガランゲールに組み付いてください」
どうして、あやめちゃんは泣いてるの?
「組み付いてください」
「はい?」
ガランゲールはいつのまにか地面に倒れて、剣も遠くに刺さっていた。
装甲が、あちこち歪みたわみ凹んでいた。
『やめろー、やめろー』
諜報王が怯えた声で、そう言った。
僕はあやめちゃんの言うとうり、ガランゲールを固めた。
関節技とか、相手を痛めつける目的の技は途中で止まるので、本当に柔道技で固めるだけだ。
ぐらっと、目眩がした。
<主よ、それ以上魔力を使うと、死ぬぞ>
魔力切れ?
「げんきくんは、後で凄く怒るんだよ、でも、わたししか、この決断はできないんだっ!!」
「あやめちゃん?」
「キルコゲール!! 自爆シーケンス開始っ!!!」
そう言うと、あやめちゃんは、料理ナイフを振り上げ、柄の方で、コパイ席の感覚球を打ち砕いた。
自爆シーケンス?
”キルコゲールは自爆シーケンスに入りました、あと三十虫秒で、魔導炉が暴走状態に入ります。ただちにパイロットは脱出してください。くりかえします……”
ああ、キルコさんの声だな。
自爆って……。
【次回予告】
魔力枯れで死亡しかけたげんきを救うため、あやめが下した決断は『自爆』であった。
幾多の強敵を倒してきた、家であり、友であり、身体の一部であったキルコゲールは
ガランゲールを巻き込んで爆散する!!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第350話
キルコゲールの自爆




