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253. 道場破りと、神さまを掛けての大勝負

 ご飯を食べ終わって、さあ、柔道講座だ、と思ったら、メルクさんに捕まった。


「書類、作らないと、報奨金は出ませんよ」

「はい」

「書く部分に青印をしましたから、結構、枚数ありますよ」

「はい」


 オッドちゃんも書かねばならないのだけど、彼女は、書類の束をまとめて持って、えいやと振ると、書き込む部分が全部埋まっていた。

 念写、ずるいっ!


 僕はそんな器用な真似が出来ないので、一文字一文字、魔法ペンで埋めていった。


「はい、ありがとうございます。報奨金はどちらの口座に?」

「オッドちゃんの口座にまとめて振り込んでおいて」

「わかりました」


 別に僕個人で倒した魔物じゃないしね。

 パーティで倒した物だから、リーダーのオッドちゃんの所に行くのが正しい。

 けっこう色々お金出してもらってるしね。


「そろそろ、得たお金を分けるべきだわっ」

「めんどうくさいので」

「めんどうくさいんだよ」

「パットにだけあげてあげて」

「なんで、あんたたちはそんなに欲がないのよっ!!」

「めんどうくさいので」


 ミスリルナックルを売ったお金とか、勲章の副賞とかが、メイリン銀行の口座にわんさと入ってるからねえ。

 あんまりいらないでございますよ。

 パンゲリアから日本に帰るときは全財産はどこかに寄付するかなあ。

 孤児院にも基金を作っておきたい所だな。


 さて、書類も終わったので、講座講座。

 更衣室で、レティア式格闘着に着替えて、パットと共に中庭に。

 あやめちゃんは、オッドちゃんとカタリナちゃんと図書館でお勉強に。

 僕らの朝の日課だね。


 柔道場には、いつものように、マダームがいて、マイカル様が置物のように座っていて、エルザさんと、リターナーさん、クルツとかの小僧衆、セストルさんたち一流冒険者衆、一般冒険者衆たちが集まっていた。

 今日も盛会だなあ。


「では、今日も柔道講座を始めます、武道の神さまに礼」


 みんなで、マイカルさまの後ろの社にお辞儀。

 マイカルさまがうむうむとうなずく。


 最初はいつものように初心者組の受け身の練習から。

 セストルさんとか、ニーナさんは、そろそろ受け身は良いみたいね。

 他にも何人か、受け身を覚えた人がいたので、それらの人は、立ち技に進級。


「やったにゃっ!」

「次は立ち技のクラスか、がんばろうっ」


 今日はシルビアさんも来てたけど、受け身の練習から。


「うう、一日遅れただけで、ニーナにも、団長にも差をつけられたわ。クルツでさえ、立ち技クラスなのに」

「シルビア姐ちゃん、俺は、ゲンキあんちゃんが戦場行ってる間も、ずっと練習してたんだぜ」

「俺たちは、なかなかのベテランだよな」

「おうともさ」


 まあ、ゆっくり覚えてください。

 というか、シルビアさんも一流の冒険者だけあって、筋が良い感じ。

 短い間に、受け身の感じをしっかり覚えて、いい音を立てるようになっている。

 明日には立ち技ですね。


 立ち技クラスと言っても、掛け技の人から、投げ技の人まで色々いるんだよね。

 長い人は、もう、一本背負いから、背負い投げまで、綺麗に覚えて居る人もいる。


 寝技とか絞め技も一通り教えるのだけど、うん。

 その。

 パットと組んで技を掛けると、その。

 変な声を出すので、なんなのだ。

 なので、主に、寝技の実演はクルツを実験台にしてやっている。

 拘束技は、冒険者には人気が無いけど、衛士の人とかは、興味深いのか真剣になってやっている。

 クルツも将来は捕縛関係にジョブチェンジする予定だから、好都合でしょう。


「ええと、右手で襟を持って、こうかな」

「ちょっとゆるいね、もうちょっとこっち、うん、そうすると力が逃げないよ」

「おおお、これはすごいね」


 袈裟固めとか、横四方固めとか、きっちり覚えると、悪者の制圧に役に立ちそうだ。


「非殺傷で、拘束できれば良いですね。これは使えそうだ」


 衛士さんの一人が感心したようにつぶやいた。

 たしか、村喰いの時に居た、ヨホンさんかな、チャーチルさんか、どっちか。

 あの時に見た勇者さんのジュードーが忘れられませんで、と、僕の居ない間にマダームに鍛えられたらしい。

 二人とも真面目に練習をして、今では投げ技とかも完璧で、結構上手い。


 さて、乱取りするかな。

 何しろ道場が狭いので、二組ぐらいづつしかやれない。

 僕が立ち上がると、パットが立ち上がり、エルザさんが立ち上がり、リターナーさんが立ち上がり、マダームが立ち上がった。

 どんだけ、みんな僕と乱取りしたいのだ。

 ひさびさに、マダームと、打撃有りで乱取りするかな。

 マイカル流も覚えたみたいだし、いろいろ珍しい技とか使って来そうだしね。


「たのもーっ!!」


 なんか、中庭と廊下の間に、汚いジャッカルの獣人さんがいて、大声を出してきた。

 誰?


「ここに、ボレアス持ちの格闘王者が居ると聞いた、道場の看板を掛けて、勝負だ、お前かっ!」

「いえ、ちがいやす」

「お前かっ!!」

「わしは、神さまじゃ」

「は?」

「頭が高いっ!! 拳闘レスリングの神、マイカルと知っての暴言かっ!! 小童っ!!」

「え、あ、はい、ごめんなさい」


 素直にジャッカル獣人さんは頭を下げた。

 ばらばらと旅塵りょじんなのか、土埃が落ちた。


「しかし、道場破りかっ! その意気や良しっ!! げんきよ、試合ってやれいっ!!」

「え、いやですけど」

「へっ! お前のような小僧なぞ、こちらから願い下げだっ!! それでは、お前かっ、女っ!!」

「違う、格闘王者ならば、我が君だ」


 パットが僕を指さした。


「え、こんな冴えない小僧が?」

「あなた失礼だね」


<主よ>


 なんですか?


<奴の懐に、我が妹、ノトスがある>


 はっ!?

 ノトスって、四大聖護拳のノトスさん?


<そうだ、だが、反応が鈍い。まだ奴は目覚めさせていないのやもしれぬ>


 たまたま手に入ったけど、起動はしてない感じかな。


<聖護拳は主の生命の危機によって覚醒する。奴がいかにぬるい勝負をしていたかの証拠>


 それはそれは。


<奴に勝負を持ちかけ、ノトスを奪うのだ>


 いりませんよ、ボレアスさんだけで十分ですから。


<ふふふ、我への信頼は嬉しいが、今後魔王軍との戦いでノトスは役にたってくれよう。なに、普段は仲間に持たせておけば良かろう>


 まあ、エルザさんとか、リターナーさんに持ってもらえたら戦力アップですけどねえ。


「おい、なんだ、黙り込んで?」

「あ、ああ、ごめんなさい、なんでしたっけ」

「お前が聖護拳ボレアスを持つなら、それを掛けて勝負だ!」

「あの、お名前は?」

「あ、ごめん、俺は旅の武術家のウマルというものだ」


 うまるちゃん……。

 男性だけど。


「武術家にとって、四大聖護拳はあこがれの的、それを持つ物は武道家としての栄誉に包まれるという、メイリンにボレアス持ちが居ると聞き、俺はやってきたっ!!」


 あんたの懐にあるのは、聖護拳ですよ。と教えてやりたい。

 なんか、魔法の護拳ぐらいに思っているんだろうねえ。

 マイカルさまの方を見たら、ニヒッと言う感じに笑った。

 あなたも解ってますね。


「僕が負けたらボレアスさんを取られると、ではウマルさんが負けたらどうするんですか?」

「俺は、負けんっ!! もしも負けたら、焼くなり煮るなりしろいっ!!」

「しろいって、あなた、僕はいやですよ」

「き、貴様っ! 格闘王者の癖に、挑戦から逃げるのかっ!!」

「ボレアスさん、大事だし」

「そ、それはそうだろうが、格闘王者としての義務があるだろうっ」

「無いですよ、別に人から奪った物じゃ無くて、貰った武具セットにたまたま入ってただけですから」

「え、他の格闘王者から奪ったんじゃないのか?」

「元は、ケイラス王立博物館から盗まれた物ざます。勇者ゲンキの手に入ったのは運命の導きざますわよ」


 運命の導きといえば、ウマルちゃんの懐にも聖護拳があるんだから、なんかの英雄な運命な人なのかもしれないなあ。


「だいたい、獣人さんは護拳使えないんじゃないんざますか? 爪での攻撃ができませんざますわよ」

「ああ、俺は爪を使わない、マイナーな流派、カインデル鉄拳術を学んだんだ」


 そういうと、ウマルちゃんは、懐から護拳を出してはめた。

 その護拳は、ボレアスさんとは似ても似つかない、シンプルな鉄塊であった。


<なんとっ! 馬鹿な、ノトスを盗み出した奴めは、装飾を全て削り落としたのかっ>


 え、あの彫刻って、魔導刻印とかじゃないの?


<いや、只の装飾である。本質的な力は、材質の中に刻まれておるが、しかし、何という憐れな姿だ>


「ほほう、良い護拳であるな。それはどうした?」

「え、神さん、解るかい、古道具屋で安く買ったんだけどさ、一目見た時から気に入ってさ、なんか呼んでる気がして買ったんだぜ」

「ふむ、そうか……。ならばウマルとやら、こうしようではないか、勇者にはボレアスが必要であるらしい、無理をして取っても遺恨の元じゃ」

「運命が、ボレアスを勇者に必要だと判断して導いたのか、ううん、それでは無理に取るのはまずいかな……」

「だからな、わしを賭よっ! 勇者げんきと試合をして、お主が勝ったら、お主の武者修行にわしがついていこうっ!」

「「「はあっ?」」」


 道場中の全員が、神さまに突っ込んだ。

 ウマルちゃんも含めて。


「ウマルさんが負けたら?」

「その時はしょうがない、腕が足らぬという事で、この道場に通い、腕を磨けば良い」

「ま、マジかよ、神さま付きで武者修行とか、ありえねえ、神話の世界かよ、……、いや、そうじゃねえ、俺が神話を作るのかっ!」

「聖護拳を欲しがったお前が戦うのだから、当然、げんきはボレアスを持って戦うがよい」

「いや、ウマルさん死んじゃうから駄目です。ボレアスさんは半端ねえですから」

「あ、いや、ボレアスで戦って良い! 格闘王者の権利だ、それぐらいの凶悪な敵じゃねえと、修業にならねえっ!!」

「やめときなさい」


 僕はボレアスさんをはめて、ふった。

 ウマルちゃんの後方の庭石が、風パンチによって、ドカンッと爆発したように割れた。


「……」

「見えないパンチで、破壊力もありますので、ちょっと勝負になりません」

「わ、わかった、模擬護拳で」


<ノトスが覚醒しておったなら、面白い勝負になっていたものを>


 そんな事態にならなくて良かった。

 というか、ボレアスさん級の破壊力の物が二つ戦ったら、中庭はただではすまないですよ。


【次回予告】

なんだか、旅の武芸者ウマルを気に入ってしまったげんきは、

ガチの勝負を彼と挑む。

火花を散らす、技と技、術と術、激闘の末に道場で立っていたのはどちらの漢かっ!!


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第254話

ウマルちゃんと、激闘する

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