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250. メガトン・ミート、最高最後の肉料理

「さあ、お次の肉だぜっ!! 豚、兎と来たら、次は鳥か? 牛か? ってえなるだろうが、今度は羊だっ! 羊の肉は、喰い慣れねえと臭みが強くて、ちょっと駄目、てえ人が多い、そんな奴も、この諸王国連邦タリス地方の、タリムム平原の黄足羊を喰えば、羊への偏見が変わっちまう、それぐらい臭みも無く、柔らかく、夢のような味の羊肉だっ!」


 そう言うと、マイトさんは、白っぽい肉を一抱え、鉄板に載せる。

 白い所は脂肪のようで、鉄板にあぶられて、じゅわじゅわと脂がしたたり音を立てる。


「本来、羊肉って奴は、香草を足したり、スパイスをかけたりで誤魔化すもんだが、この肉だけは違う。論より証拠だ、食べてみてくれっ」


 そう言うと、大きな固まりをひっくり返し、すぱすぱと焼けた面を斬り飛ばして、さらに焼く。

 こんがりと肉がきつね色になったところで、また手の平大に切り分けて、僕らの前の鉄板に配った。


 羊かあ、たまに食べた事があったけど、臭いんだよね。

 臭みが無いって言っても、パンゲリア基準だろうねえ。

 おお、なんだか凄く柔らかい。

 ナイフがさくりさくりと入るね。

 ぱく。


 ……。

 えええええええっ!

 全く臭みが無い、かといって味わいが無いかというとぜんぜんちがう。

 質の高い脂のジューシーさと、肉のふわりとした味わいが、全体的に良い仕事をしていて、これは美味い。


「おお、すげえ羊肉だな、臭みは無いのに、ちゃんと羊味だけ残ってやがる」

「口の中でとろけやすねえ。これは良い肉だ」

「羊なぞ、二流の肉と思っていたが、これは、認識をあらためなければ」

「おいしいわね。すごいわ」

「うめえうめえ」

「なんか、すごいんだよ。こんな羊初めて」

「うむっ、これは美味であるっ!!」


 ああ、残った焼き野菜と一緒に食べると、また違った味わいで、美味しい。

 うーん、羊、あなどれんっ!


 ふー、口の中が美味い肉を食べすぎで疲れた感じだね。

 そういうときには、滋味のあるテールスープを飲んで、パリムを噛んで口を休める。

 うん、まだ入るね。


「大釜焼きが焼けたわよ、各テーブルに回るから、欲しいだけ言ってね」


 リリンさんが、厨房から、一抱えぐらいある肉塊をワゴンに乗せて持って来た。

 各テーブルで、シパシパと、山刀マチェットみたいな大きいナイフで切り分けてくれるみたいだ。

 お隣のテーブルでシパシパッっと、おお、結構大きく切るんだなあ。

 かっぷくの良い、お客さんが、お皿に、湯気が立つお肉を山盛りにして貰っていた。


 ガラガラと音を立てて、僕らの席にも大釜焼きが来た。


「はーい、勇者さんどれくらい食べます」

「ほどほどにください」

「はいはいっ」


 シパパパパ、わ、多い多い。


「あたいはいっぱいくれ、豚か?」

「オッドリア近くのコーラスの森で取れた、森王豚の良い所だけを、二刻、遠火の強火でとろとろと大釜で焼いた物です」

「おいしそうな匂いだな」


 シパパパパと、お皿に山盛り、エルザさんは貰っていた。


「私も少しで良いんだよ」

「はいはいー」


 シパパパパ。

 あれよね、ブラジルのシュラスコみたいな感じだ。


「私は沢山くださいな」

「わかりましたよ、オッド師」


 シパパパパ。


「あ、これ、うめえな。マイトが焼いた肉ほど凄くはねーが、普通にうめえ」

「たしかに、メインの肉よりも落ちるけど、おいしいわね。あきが来ないというか」

「あー、焦げた部分が美味しいでやすね」

「うん、良い豚だな、ほっとする感じだ」


 どれどれ。

 パクリ。

 うん、うん。

 そうそう、こういうのでも良いよね。

 まさに肉って感じ。

 すごく美味くはないけど、普通に美味い。

 といっても、普通のお店の美味しい肉料理の水準ではあるんだけど、マイトさんが出してきた、秘蔵の大陸の肉の数々には叶わない、でも、それでも、良い。


「うむうむ、これはこれで、美味い! 天晴れ!」

「うめえうめえ」


 ジガさんは、料理に対する語彙がない感じだなあ。

 エルザさんと、オッドちゃんが、リリンさんを呼んで、お肉のおかわりをしていた。

 良く入るなあ。

 僕はそろそろお腹がいっぱいですよ。


「さあ、メインディッシュの登場だっ、泣いても笑っても、コースの肉はこれで最後、とっておきの大物がでるぜっ!」

「おおっ」

「さあ、こいつは共和国はキルークの北方、ブリステンとの間にある、タカナシ村で育てられている、特別な牛、タカラン牛のランプの部分だ」


 マイトさんは、重々しく、布に包まれた肉塊を僕らの前に提示した。


「さあ、見てくれ、このサシの入り方、とてつもない手間暇が掛かってるのが解るだろうっ」


 その肉の断面は、まさに霜降り肉! これは、日本の技術で作った物なのか!


「霜降り肉の本場は帝国だ、どうやら初代勇者帝の生まれ故郷の技術を使って作った、帝国ビーフが有名だなっ。その秘伝の牧場での牛の肥やし方、育て方を、共和国の人間が働いて、盗み出したっ、のが、五十年前だっ」


 なんと、帝国産の技術なのか、たしかにかの土地は、日本人も多いと聞くからね。


「だが、タカナシ村で、何度も何度も、試行錯誤したのだが、どうしても綺麗な霜降りにならないっ、伝わっている通りに、ビールを飲ませ、運動をさけ、マッサージをして、大事に育てて見ても、どうしても、普通より少し上の牛肉にしかならなかったんだなっ」


 あ、やはり、日本の牛肉の作り方が伝わってるね。


「困ってしまった牧場主は、一度諦めかけた、気候風土が違うのだからしかたがない、そう思って、一度、盗んで来た技術の全てを捨てて、思うままに育てて見た。そしたらどうだい、食の神さま、シンギョクさまは努力を見逃したりはされないっ! 気候のまま、風土のまま、育った牛が立派な霜降りになった、林檎をたべさせたのが良かったのか、温泉に入れたのが効いたのは、そいつはわからねえ、わからねえが、この肉はすげえ出来だ、帝国ビーフと匹敵するほどの肉に育った。なんでも、技術は時間が掛かるってえ事だなっ」


 ああ、でも、こうやってバックストーリーを聞くと、タカラン牛を食べてみたくなるね。

 帝国牛と食べ比べをしてみたいな。


「さあ、焼くぜ! 五十年の歴史と共に召し上がれっ、だっ!」


 そういうと、マイトさんは、え、そんなにというぐらいの厚さでランプの部分をシパシパと切っていき、鉄板でジョワーっと焼いた。

 味は、塩と香草を少し、強火で外側を焼いて、中はふんわりとピンク。

 焼け具合を見て、焼けた物からそれぞれの鉄板の前に配る。

 うしろから、リリンさんが付け合わせのジャガイモ風の芋と、人参めいた物を置いていく。


 これは、凄い大きさのステーキだなあ。

 良い匂いだなあ。

 バターがとろりと垂れて、鉄板に落ちて、ジュンワーと音を立てる。

 音と、匂いが、立体的に肉のうま味を伝えてくる。


 さくり、ほとんど手応えがないぐらいにナイフが吸い込まれる。

 一口大に切って、口に入れる。


 !!!!!!!!!!!


「ま、マジかこれっ! 溶けるっ!!」

「ほわっほわっ」


 オッドちゃんが熱々の肉を頬張って、ほわほわ言っておる。


 口の中で、ほろりと肉が溶け、豊潤な味わいが、僕を牛の天国に連れていってくれる。

 ああ。

 ああ。

 ああ、肉って、肉って、こんなに美味しい物だったんだ。

 天上天下唯我独尊。

 僕の脳裏に、タカラン牛を胸に抱いて、にこやかに笑うお釈迦様が現れた。

 ああ。

 ああ。

 ありがたやありがたや。


「ぬわっ、これはなんでやすか、牛肉じゃあありやせんっ」

「おいしいんだよ」


 あやめちゃんが涙ぐんでいる。

 いや、ぽろぽろと涙を流しているっ!

 これは、見た事がない反応だ。


「脂が多いなと思ったが、くどくないっ! それどころか、するする入る! このステーキは、飲み物だっ!!」

「うめえうめえ」


 はー、おいしいおいしい。

 なんだか、大きい肉の塊がするすると入って行く。

 かみ応えもあるし、ちゃんとした肉だ。

 だが、パットが言うように、感覚的に、液体のような雰囲気だ。

 すごい、うまい。


「なんという、手練れの肉かっ、見事な腕前だっ! それを見つけて来た、マイト・ガイ、お主も凄いのうっ、天晴れ天晴れっ!!」

「ありがとうございますぜ、神さんっ」


 あっという間に、神肉を完食してしまった。

 ついでにジャガイモ系と人参めいた物も完食。

 合わせて食べると、それはそれは極上の味であったよ。


 ふう、お腹いっぱい。

 なんだか、極上の肉体験をした感じがする。


 リリンさんが、小さなカップケーキと、豆茶を出してくれた。


「おそまつさまでしたっ」

「おいしかったわっ! すごいわね、あなたっ」

「ありがとうでございますっ」


 ああ、甘いケーキと苦い豆茶が良く合うなあ。


 なんか、マイトさんとリリンさんが、やりきった感じのドヤ顔で僕らを見ていた。

 うん、うん。

 ドヤ顔するだけの代物でしたよ。


 お勘定は、オッドちゃんがまとめて払っていた。

 僕の分と、マイカルさまの分を払おうとしたら、オッドちゃんが睨んで、すねを蹴ってきた。

 痛いでございます。


「おいしかったわ、また来るわね」

「ええ、予約席はあけておきますので、いつでもどうぞ」

「兄ちゃんの念願が叶って、私もうれしいですよ。また来てくださいね」


 マイト・ガイ、リリン・ガイの兄妹に送られて、僕らはメガトン・ミートを後にした。

 ふう、お腹がいっぱいだ。

 なんだか、謎の充実感があるなあ。

 肉はいいな。


「うまかったなあ、すごい店だ、今度デートに使おう」

「ジガさんってば。そういえば、ジガさん、今晩のお泊まりは?」

「いや、夜行で帰るぜ」

「そうなんですか、大使は置きっ放しですか」

「ああ、また一週間ほどしたら取りに来る予定だよ」

「戦線に戻ったら銀翼の子たちによろしく言っておいてください」

「ああ、あいつらに、メガトン・ミートの話をして悔しがらせてやるよ」


 僕らは笑って、ギルドへ通じる階段を上がっていった。

【次回予告】

肉料理で満腹になったげんきは、満足して就寝する。

そして、また、彼はベルナデットの夢を見る。


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第251話

僕はまた蜘蛛の夢を見る

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