249. メガトン・ミート、それは肉の暴風雨
どうでも良いのだが、日が落ちたあとのメイリンの階段は危ない。
まあ、オッドちゃんが光球を飛ばしてくれてるので少しはましなんだけど、足下がおぼつかない。
眼下に見える街は夜支度で、オレンジ色の光の海みたいになっている。
あの光の一つ一つの下に、市民みんなの生活があるんだろうなあ。
パンゲリアの夜は結構明るい。
まあ、魔導灯のおかげなんだけどね。
でも、街灯類は、そんなに立ってないので、足下は暗い。
ホテルカルビンの横から共和国口主道に下りて、ちょっと行った先で、階段。
すごい急な階段。
手すりを頼りに、わりかし慎重に下りるのであった。
標高差があるので、メイリンはキルークよりも狭いにかかわらず、なんか広く感じる。
キルークは平べったい街だからね。
とことこと下りて、上廻り横路と交差、さらに階段をつないで直降下である。
街はさらにゴミゴミしてきて、夕食の匂いなのか、美味しそうな匂いが漂ってくる。
口なし主道と交差して、さらに階段、メイリン横断みたいな勢いだね。
ようやく連邦口に着く。
門の前は繁華街なので、宵の口の人通りが結構多いね。
「北に下周り横路を行って、快楽亭というキャバレーの裏だったわね」
「快楽亭かあ、すげえ名前だなあ」
「ちょっと、行ってみたいでやすね」
「おやじくさいんだよ」
連邦口から少し歩くと、キャバレー快楽亭はあった。
……。
あった。
すげえ派手。
これは、異世界人が関わっておるのだろうなあ。
魔導灯でネオンになっていて、ビラビラと光のシャワーが僕らに降りかかり、客引きのバニーのお姉さんが、リターナーさんと、ジガさんと、マイカルさまの袖を引く。
「おにいさん、よっていってくださいよぅ」
「ええ、こまったなあ」
「サービスしますよぅ、ねえ、ま、良い身体ねぇ、すごいわ」
「き、鍛えてやすから」
「素敵なおひげ、わたしぃ、おじさまな人に弱いのぉ」
「そ、そうかそうかっ」
パットが大剣を背中から鞘ごと抜いて、親父衆とバニーの間に入れて、間を裂いた。
「退けっ、酌婦どもめ」
「まあ、女騎士さまよ、素敵ねえっ」
「ねえ、飲んでいかない? 安いのよ」
「え、その、いやっ! 肉だっ! 我らは肉を食いに来たのだっ!!」
「あ……」
「メガトン・ミートのお客かぁ、色気より食い気の人ね」
パットの肉宣言で、バニーたちはやる気を無くしたようで、他のおやじたちに声をかけ始めた。
おやじどもは、なんだか少し名残惜しそうだ。
しかし、誰だ日本風のキャバレーを、メイリンに作った人は。
快楽亭の隣の路地に入る。
うお、人が並んでおる。
人の列のその先に、メガトン・ミートはあった。
もの凄い大きい骨付き肉の描いてある看板に、メガトン・ミートとある。
ピカピカと魔導灯が光り輝く。
そして、店の前は大行列だ。
「これは……、待ちそうですね」
「現在、店内は混み合っておりまして、一刻待ちでーす。申し訳ありませーん」
可愛いくて、胸を強調した制服のお姉さんが、行列にそって歩いて、そんなアナウスをしている。
一刻というと、地球時間で一時間二十分ぐらいかあ。
「飯屋で待つのはなあ。他の所に行こうぜゲンキ」
「一刻待ち……」
「うむむ、だが、もう気分は肉なのだっ」
店の中では、なんだか派手な服を着た、若い兄ちゃんがお客さんから注文を取っていた。
「予約して、明日来ようぜ」
「あ、すいません、予約はやってないんですよー」
「なんだと」
列整理のお姉さんに返事をされたエルザさんが絶句した。
「へへん、あんたら来るのがおせえよ、俺なんかは昼の五から待ってるんだぜ」
「そんなに待ってるのかよ、バカじゃねえのかお前ら」
「何を言う、ハーフリング! メガトン・ミートの肉は、それだけの価値があるんだっ!」
「今入ってるやつは、朝から待ってる組だぜっ、おめえら遅すぎっ」
「なんだとお、このデブどもっ!」
「エルザさん、市民と喧嘩してはいけないです」
「ちっ、油デブどもめっ」
おろ、店内の兄ちゃんと目があった。
おろ、こっちに来るのか?
戸を開けて、派手な彼が出て来た。
な、なんですか、お客と口げんかしてたからですかっ。
「ヘイッ! 良く来てくれたね、オッド師、勇者ゲンキ、勇者アヤメ! ちゃんと予約の席は取ってあるぜっ!」
「さっき予約やってないって」
「一般人の予約席は無いのさっ、だがね、この僕、マイト・ガイが、将来来て欲しい人の為に開けてある予約席があるっ! その初めてのお客さんが、あなたたちだっ! 記念すべき初めての予約席をどうか使ってくれっ!」
「将来来て欲しい?」
「そうっ、大陸のVIPだったり、著名人だったり、僕の未来の予約リストは、こんなに厚いのさっ!」
そういって、マイトさんは懐から辞典ぐらいあるメモ帳を出した。
表紙には『俺の魂の予約リスト』と書いてある。
「な、なんだよ、店長、あんた順番を飛ばすつもりかっ!」
「並んで居るオレラをないがしろにするつもりかよっ!」
「へいっ! 常連さんよっ! 硬いことを言うなよ、この人達は、オッド師と勇者ゲンキ、メイリンから出発して、戦線で敵の巨大搭乗ゴーレムを倒し、邪悪女神メリッサが取り付いたゴーレムもを粉砕した、大陸の英雄だぜっ!! 特別扱いだってしたくなるってもんじゃあないかっ!」
「げ、勇者ゲンキっ! オッド師! 本物なのかっ!」
「あ、オッド師はよく見るから、本物だな!」
「俺、新聞で読んだよ、すげえ大活躍だったって!」
「な、常連さんたちよっ! 俺の店に、初めて俺が望んでいた人らが来たんだっ! ここは、気持ちよくゆずってくれねえかいっ!」
「しょ、しょうがねえな、勇者ゲンキにはかなわねえな」
「よくやってくれました、メイリンを共和国のバカ中将から救ってくれた光景はまだ目にやきついてますよ。俺はかまいませんよ」
「お、俺もかまわねえっ、たっぷり肉を食っていってくれっ」
「それでこそ、俺の店の常連だっ!! 愛してるぜ、皆の衆っ!!」
胸を強調した制服の娘さんが僕らに寄って来た。
「ごめんなさいね、兄ちゃんバカで、さあ、どうぞ、予約席があるのは本当ですよ、絶対誰も来ないって、賭をしてたのにまけちゃいましたよ」
「マイシスター、兄ちゃんに悪態を、つくんじゃないよっ、ヘイヘイ、オッド師一行、店内にどうぞどうぞっ」
列の人に、どうぞどうぞと送られて、僕らは店内に入った。
「ひのふの、七人ですね、ちょうど予約席に収まるわ。あちらの奥の座席にお座りください」
メガトン・ミートの妹さんの方は、リリンさんと名札に書いてあった。
リリン・ガイなのか。
テーブルは、中央に鉄板がある席であった。
真ん中の鉄板で、肉を焼き、お客さんに供するみたいだね。
他のテーブルで、手際良くコックの格好をした人が肉を焼き、切り分けてそれぞれの席に配っていた。
「さあ、このテーブルは店長の俺、マイト・ガイ、自ら仕切らせてもらうぜっ、最初に決めるのは、酒を飲むかどうかだっ」
「私は飲むわよ」
「あたいも」
「のみやす」
「のむぜ」
「飲む!」
「がばがば飲むのであるっ!!」
「僕は飲みません」
「飲まないんだよ」
「オーケイオーケイッ! リリン、赤ワインを六、水を二つだっ」
「了解よ、兄ちゃん!」
「あたいは、ビールが……」
「ノウノウッ! ハーフリングの姐さん、ビールは肉にあう、だがね、泡ですぐ腹一杯になっちまう、ここでは肉をたらふく楽しんで貰う為に、酒は赤ワインしかださねえんだよっ」
「て、徹底してんな」
「肉の店だからなっ、しかたがない。その代わり、うちの赤ワインは肉に凄く合う奴を俺自ら試飲して選んでるんだぜっ」
「気合いの入り方で、期待が高まるなっ」
「おうっ! 期待してくんなっ! 騎士さんっ!」
リリンさんが、赤ワインのグラスと、お水を運んで来て、みんなに配った。
「ふむ、酸味が強く、キリッとした辛口の赤だなっ、天晴れであるっ!」
「よく見たら、今話題のギルドの神さまじゃあないですかっ! 神さままで来てくれるとは、うれしいねっ!」
「うむ、降臨である、お主に祝福をっ!」
「ありがとうございますっ、さあ、最初の肉は、獣人連合国はピッシルンの東方、リリガル村産の、頭の先から尻尾まで、漆黒の色合いから名がついた、闇夜豚、その、ヒレの部分を熟成させた逸品だ。今日の目玉の肉の一つだぜっ!」
そう言うと、マイトさんは、鉄板に油を引き、肉塊を焼き始めた。
おおお、手際が良い。
くるりくるりと大きい肉塊の各面が焼けていく。
それを、大きな牛刀で、すぱすぱと切り分け、また焼いていく。
焼けた先から、各人の前の鉄板に肉が届けられる。
裏面を良く焼き、表面をあっさり焼いている。
とても良い匂い。
僕の前に来た手の平大の肉片を皿に取り、切り分けて食べる。
う。
うおおおおおっ!
「な、なんだ、この肉! 蕩けるみたいな、ふおおおおっ」
「味付けは、岩塩と、パッサルの実のみ、ほぼ、肉のうま味だけの勝負だぜっ!」
「おいしいわっ!」
「すげえなっ、うめえっ」
「あー、なんといいやすか、あー、言葉がでやせんっ」
「美味いっ!! 天晴れだ、マイト・ガイ!!」
「ああ、すげえ肉だなあっ、うめえぜ」
「良い肉だな、これは」
あやめちゃんは、もぐもぐと噛んで、凄く良い笑顔で、無言でほほえんだ。
彼女は、本当に美味し物を食べると無口になるのである。
「次は、地産地消のたまもの、メイリンウサギのもも肉だっ、だが、そこらへんのウサギじゃあねえんだっ! ダンジョンの中でも、滅多に捕まらない、レア種、桃色メイリンウサギが、今日、一羽だけ入ったっ! 本当は、俺とリリンで喰っちまおうと思っていた、取っておきの品物だが、なにしろ、初めての予約席だ、使っちまうぜっ!」
そう言うと、メイリンウサギのもも肉を二つ、マイトさんは鉄板に乗せた。
ジョワジョワーと、もも肉が大目の油で焼けていく。
鳥肉のような、豚肉のような、そんな匂いが漂ってくる。
マイトさんは、もも肉を少し切って口に入れた。
そして、涙ぐんで首を振る。
「能書きは無しだ、喰ってみてくれっ!」
シパシパシパと。もも肉を切って、それぞれの前に配った。
ど、どんな味よ?
パクリ。
……。
いや、その。
じゅわっと。
じゅわっと、なんか凄いうま味が口の中に立ち上ってですね。
なんじゃこれはーっ!
元のメイリンウサギも、サイダー系のシュワッとした口あたりで、美味しい食材なんだけど、これは、なんか、異次元。
異次元の美味しさ。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「美味しいんだよー」
あやめちゃんが満面の笑みでそう言った。
彼女は、無口段階をすぎると、もう、笑いながら味を語るのだ。
この状態の彼女を見たのは、付き合いの長い僕でも一回ぐらいである。
店内のみんなが僕らに注目していて、最後の一切れを口にいれると、「ほぉっ」とため息が民衆から発せられた。
美味しいな、凄いなっ。
さすがはメガトン・ミート。
ジャアジャアと、音を立てて、葉物野菜と、タマネギ互換系ネギっぽいもの、もやし系の物を、マイトさんは炒め始めた。
「やっぱり、野菜も間に挟まないとなっ、口を休める感じだぜ。さあ、食べてくれっ!」
マイトさんが、それぞれの前の鉄板に、野菜を配った。
あー、野菜も美味しいね。
というか、これは鉄板焼きだなあ。
向かいのキャバレーと言い、日本人のアイデアが入って無いかな?
リリンさんが、白っぽいスープを、それぞれのカップによそってくれる。
「これは?」
「キリシア牛のテールスープです」
「わあ、美味しいんだよ」
それぞれのお皿に、白いパンも配ってくれた。
小さいパリムだね。
はあ、口を休めよう。
もぐもぐ。
テールスープとパリムが良く合うなあ。
おやじたちや、オッドちゃん、パットが、赤ワインをおかわりしている。
まあ、今日は潰れるほど飲まないでしょう。
肉を食うには、覚醒していなければならないからねっ。
【次回予告】
ついにメガトン・ミートの誇る、肉料理を食べ始めたげんき!
その味わいは、伝説級の物であった!
そして、食事のクライマックスに供せられる、伝説の肉とは!!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第250話
メガトン・ミート、最高最後の肉料理




