246. メイリンの街を馬でぶらつく
治療院の前の馬繋ぎ柵につないであったマルチスパークさんに、えいこらっと言う感じで乗った。
あやめちゃんは、パットが手を組んだ所を台にして乗り上がった。
パットは介助も無く、ひらりとライサンダーさんに乗る。
カコイイ。
「さあ、どこに行きましょうか、我が君」
「そうだねえ、リターナーさんに寝間着を買ってプレゼントしよう」
「寝間着ってどこで売ってるの?」
「古着屋さん?」
「貴族はお抱えの仕立て屋に作ってもらいますが……」
うむむ、パットは上流階級すぎて参考にならないなあ。
エロイネグリジェを着ていた時もあったし。
最近は普通に透けてないナイトガウンを着ておられますが。
とりあえず、連邦口のあたりの洋服屋さんかな。
この世界は、あんまり吊しの既製服は無いようで、新品はオーダーメイドなのね。
僕らの世界のデパートで売ってるような服は、紡績機で糸を大量生産して、織機で布にして、裁断、縫製と、機械化されてるから大量に安価に流通しているわけで、この世界だと、家内制手工業で作るので、少量で値段が高いのよね。
なので、庶民の服は、古着屋さんだし、一張羅だと、生地を買って家庭で何ヶ月も掛けて作るらしい。
オーダーで寝間着ってのも難だし、古着屋さんを覗いてみるかな。
僕らの普段着も、少し買おう。
最近パンツもよれよれになってきたし。
上廻り横路をUターンして戻っていく。
パカランパカラン。
口なし主道の交差点で、左に折れて、下っていく。
ここら辺は、魔導具工房のカバランさんとか、雑貨屋さんが並んでいる通りだね。
たしか、下の方に、洋服屋さんなんかもあったと思ったけど。
口なし主道は不人気通りなので、庶民向けのお店なんかはここら辺に固まってる感がある。
おっと、古着屋さん発見。
馬を下りて、馬繋ぎ柵に手綱をひっかける。
「らっしゃい」
くたびれた感じの人族のおじさんが僕を出迎えた。
「大きい人向けの寝間着とかはありますか」
おじさんは、黙って店の左手の方を指さし、あくびをした。
そっちの方に行ってみると、たしかに寝間着があった。
五千グースぐらいか、まあまあかな?
生地は、麻の物が多いみたい、綿の物はあまりないね。
うむむ、さすがにリターナーさんが着られるような大きさの物が少ない。
あっても変な柄だったりする。
「あ、これ、いいんじゃないかな?」
あやめちゃんが、シンプルなナイトガウンを奥から出してきた。
「うん、こんな物かな。あやめちゃんは欲しい物ないの?」
「あ、そうだね、見てくるー」
僕も下着とか、買おう。
ああ、日本の肌触りの良い下着が懐かしい。
この世界の下着って、結構ゴワゴワしてるんだよね。
絹の下着とかはスベスベなんだけど、洗濯のしかたとか解らないし、高いしね。
「パットは何か買わないの?」
「あまりそそられる物はありませんね。庶民の服ばかりで」
ああ、この世界は、庶民と貴族で着る服が別れてるんだよね。
だからパットは、結構高い目のお店で時々、服を買っているのだ。
貴族はお金がかかって大変そうであるね。
下着やら靴下やらを買い込んで、カウンターに置く。
サイズの手直しが必要な物は無いから、店主が紙に筆算して、値段を合算している。
している。
している。
おっそいなあ、おっちゃん。
出してきた値段を見ると、なんか、違和感。
筆算の隣に、僕が筆算。
うん、靴下の代金が入って無い。
間違った部分に、ここと印をつけてあげる。
「うむむ、あんた筆算早いなあ、どうだい、この店で働いてみねえか?」
「店主、我が君は、古着屋の丁稚なんかよりも、もっと重要な仕事があるのだ」
「へ、へい、そうですかい」
「まあ、仕事にあぶれたら考えてみますよ」
「まあ、その筆算の能力なら、うちよりももっと良い所に務められるぜ」
高校程度の数学能力でも、この世界なら引っ張りだこなんだろうね。
まあ、カスピル商会のコリンズ君はもっと暗算早かったから、一流商会レベルは無理かもね。
袋に包んでもらって、お金を払った。
計算したよりも、おつりが多かった。
おつりが多いよ、と言おうと思ったら、おっちゃんがニッコリ笑って手で制した。
「美人の貴族を連れている異世界の若造っていやあ、勇者じゃねえか、おっちゃん、さっきまで気がつかなかったよ。古着屋の丁稚よりもでっかい仕事があらあな。靴下代を一足サービスするよ」
「いや、悪いよ」
「なに、うちの古着を、勇者に着てもらえると思えば、おいちゃんも嬉しいんだぜ」
そういって、おっちゃんはニッコリ笑った。
良い笑顔だった。
あやめちゃんの買い物もオマケしてもらって、ありがとうと、古着屋さんを出た。
二人でニマニマして、物陰で、魔法袋に買った物をつめこんだ。
「庶民も良い物ですね。これも新聞のおかげですね」
「そうだね、シーナさんさまさまだ」
「でも、なんだかちやほやされるから、くすぐったいんだよ」
「それはあるね」
孤児院が近いので寄って行く事にした。
なんか昨日と逆コースだが行く所は一緒だなあ。
パットがライサンダーさんに拍車を掛けて、ギャロップで駆けだした。
僕らも、馬の脇腹を踵で蹴って、パットを追いかける。
ダダダンダダダン。
ギャロップは、早いから、なんだか怖いんだよなあ。
腰を浮かせて中腰で、鐙乗りをして、衝撃を吸収する。
ライサンダーさん、早い。
そして、下り坂で速度出すの、怖いっ。
ダダダンダダダンッ。
あっというまに口なし主道の端まで下りて、少し減速して、下周り横路を右折する。
パカッパカッパカッと、速歩で駆けさせる。
孤児院の前までついた、馬を下りて、門を開けて、庭に馬を入れ、木に手綱をかけた。
「お、勇者の兄ちゃん」
孤児院でよく見かける悪ガキ風味の子が、僕らを見つけて挨拶をしてきた。
「遊びに来たよ」
「いらっしゃい、みんな喜ぶよ、ご飯食べていくだろ」
「どうする、げんきくん?」
「うーん、オッドちゃんを一人にするとひがむしなあ、ごめんね」
「あ、オッド師来て無いのか、なにげにやっかいだよね、あの人」
「まあ、そうです」
「でも、来てくれて嬉しいよ」
悪ガキ君の後について、孤児院の建物に入ると、廊下でオリビア議員が沢山の子どもにたかられている所を見た。
「あ……」
「あそぼーあそぼーっ」
「僕が先だいっ」
「こ、こんにちわ」
「お、おかえりなさい、勇者さんたち」
「わあっ! 勇者のお兄ちゃん、お姉ちゃん、騎士のおねえちゃんっ!!」
あわわ、子どもが沢山駆けよってきた。
「ご無沙汰でした、オリビア議員」
わーわーっ!
「大活躍だったみたいね、新聞でよんだわ」
わーわーっ!
「いえいえ、たいした事では」
わーわーっ!
なんだか、子どもにもみくちゃにされながらの、挨拶は、とてもシュールな感じだ。
「こら、あんたたちっ! あっちに行って、料理の手伝いをしてきなっ!」
ペトラさんに怒られると、子ども達は、ハーイと言って、厨房の方へ去って行った。
子どもの大軍はエネルギーが違うので、たかられると結構つらい。
「よくきたね、勇者さん。今日はご飯食べていくんだろ」
「ごめんなさい、オッドちゃんを置いてきたので、仲間はずれにすると、すぐ膨れるので、今日は遠慮しておきます」
「ああ、あの人は、偉いのに、子どもみたいな所があるからね」
「オッド師らしいわ」
オリビア議員はくすくす笑った。
「オリビア議員も、孤児院を手伝ってくれているんですか?」
「うん、なんか、二度とここには来ない、見たくも無いって思ってたんだけどね」
「ああ、それで寄りつかなかったのかい、あんたは」
「うん、売女になって、成り上がろうとした時から決めてたんだ。だから来なかったの。だけど、勇者さんのおかげで、ひどい事になっていた孤児院が助かったって聞いてね、強情張っていたのがバカみたいに思えてきて、一度きてみたのよ」
「そうかいそうかい、解るよ。あの頃も、ここはきつかったからね。仲の良かった子が何人も死んだよ。近づきたくない気持ちも無理はないよ」
「ありがとう、ペトラ。なんだかね、私も、昔はすごく辛かったんだから、後の子も、大変であたりまえじゃない、なに甘えてんのよ、とか思っていたんだ」
「あんたは昔から頑張り屋だったしね、だれもあんたにはかなわなかったよ。売女から議員になったって聞いて、本当に嬉しかったし、誇らしかったもんだよ」
「うん、ありがとう、でも来て、解ったんだ、子どもは無意味に助けないといけないんだって、私が来ない間に、孤児院は私がいた頃よりも、もっと酷くなっていて、私はそれを知らなかったわ」
「あんたは忙しかったからさ、みんな恨んじゃいないよ」
「勇者さん、ありがとうね、あなたのおかげで、私は孤児院に帰る事ができたわ」
「いや、別に、たいした事は」
「「たいした事をしたよ!」」
ペトラさんと、オリビア議員が声を合わせた。
「でも、オリビア議員の心の枷が外れたなら、それはすごく良かったと思いますよ」
「ありがとう、あなたたちは凄い人だわ」
「そんな事は無いですよ」
「オリビア議員は、孤児院の後ろ盾になってくれるのかな?」
あやめちゃんの問いに、オリビア議員はうなずいた。
「できるかぎりの事をしようと思うわ、子どもは無条件に助けないと駄目って、勇者さんが教えてくれたから」
「それは、良いですね」
孤児院の後ろ盾として、オリビア議員になって貰えば安心だなあ。
ここから巣立って、立身出世をした伝説の人だしね。
【次回予告】
孤児院に心強い味方を見つけて、げんきたちは勇気づけられた。
次は行政塔へ行き、共和国への損害賠償の相談に行くのであった。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第247話
行政塔に行き、いろいろと連絡事項




