㊹ 悪夢再来/復活のウフルンテ
ウフルンテが砕け散り、つぶてが舞っている。一気に元の静寂の街に戻った。そして目の前には前髪絶好調な姿に戻った保安長・縦須賀有栖乃助。 いつもお喋りなこの男は黙ったまま立っていた。まさか、幽気使い果たしちゃったのか…?だとしたら…非常にマズイんだけど…?おれは一気に命の保証が消えたような不安感でいっぱいになった。
「死んだの…?」
おれは恐る恐る聞いてみた。
知っているよ、このくらいで死ぬはずがない。相手は『六幻』だ。そこまでおれもおバカさんじゃない。あのセカキューと同レベルの怪物…いやセカキューはおサボりさんだから…攻撃性的にはコイツの方が格段上なのか?考えたくない悩みだ…
「まあ、生きているだろうね」
「ですよね〜…」
有栖乃助はあっさり答える。いや、だったら変身(?)解かないでくれよ。まさかホントにヒーロータイムは終了なのか…?それとも、有栖乃助の幽気が危ない?でもこの男は保安長という大層な肩書きを持つ男だ。まあ大丈夫だろう…という気持ちにならざるを得ないよ。
その時だ、キラキラと舞っていた粒子が燃え出したんだ。まるでそれは火の粉雪みたいに。 ああ…マズイなあ、おれの悪い予感が的中しそうだ。
…頭の中に響くような声が鳴った。
「ウフフ…ちょっと驚いちゃった…!」
火の粉たちはひとつに集結し、見慣れたシルエットが出来上がっていく。悪い予感的中──さっきバラバラにしたはずのウフルンテだ。驚きたいのはコッチなんだけど。
あーあ…なんてこった、不死身か?それとも「死」という概念すらこいつらには無いのだろうか…。
《ぴぴんっ》
──復活したウフルンテの指先に止まる火の粉から、虹色の光が溢れ出した。それは、まるでレーザーのように有栖乃助の方へと物凄い速度で飛んで行った。その光線はあっという間に有栖乃助の両手を物理的に拘束してしまった…
立体化した「光」…?どっちにしろ、状況が酷くなってきたことには変わりないようだ…。
「む…これは…少しマズイな……」
「アナタは強いからぁ!ちょっとそこで大人しくしててね?あとで遊びましょう? きゅふふ!」
「有栖乃助が…捕まった…」
あ、あの有栖乃助が…まずい。あいつ…完全復活してるじゃんか…!…というか、さっきよりもパワーアップしてる…?
いや…これが本当の実力なのか?おれたちで遊んでいたのか? ウフルンテは有栖乃助をチラッと見たあと、おれのほうへ視線を移した。おいおい…コッチくんなよ…!?
「保安長さんを逮捕〜♡ ───あらぁ…? 巫女さんも居たんだ?」
ヤバい…狙いをこっちに変えてきた。おれも、水月ねーちゃんも完全に捕らえられた…、キレてるのか、それとも楽しんでるのか…わっかんない!!何考えてるんだ…くそっ…読めない!!けど分かるのは、確実に何か仕掛けてくるってことだ!有栖乃助も封じ込められた…
ヤバいぞ…絶体絶命ってやつだぞ…
「茅蒔くん!わたしの後ろに居て!」
「…イヤだッッ!!」
ロックオンされている…ウフルンテが一歩、一歩と、確実に距離を詰めてくる。その気になれば一瞬で来れるだろうに、性格の悪さが表れている。だけど今はその悪い性格に生かされているようなもんなんだから皮肉なもんだ。
って呑気なこと言ってる場合じゃないな…!水月ねーちゃんがおれの盾になろうとしてる…だめだめ…それじゃダメなんだってば…おれは水月ねーちゃんには死んでほしくないんだ。くそっ…どうしたらいい…どうしたらいい…!?水月ねーちゃんはおれに対して怒った顔でナニカを唱えている…
多分、おれの命のために怒ってるんだろうけど…ごめん、今は君を守りたいんだ…ちょっとだけ…ワガママさせて…!
考えろ…どうする…どうする…
はっ…待てよ…アイツを忘れていた…!!頼れる腹心を──!
「ヒューク!!!」
「ハッ!!もう少しで痺れを切らして出るところだったぞ…!我が主よ!」
「ウフフ〜?…あらあら、裏切り者のヒュークくんだねぇ?バズちん怒ってたよぉ~?アタシには関係無いけどねぇ…!それでぇ?一緒に遊ぶ?」
ウフルンテは依然変わりない態度と表情で、堂々と構えている。あんなにクネクネしてるのに、まるで隙がないな。参ったなぁ…。
「チマキ殿───…どうするか?」
おれがしたいことは決まってる…!
「ヒューク!!おれに後ろから幽気を送って!!コイツを眠らせる…!!あと…水月ねーちゃんも守って!!」
「注文の多い主様だ……了解したッ!!ゆくぞ…!!」
背後からヒュークの幽気の光が輝いているのが分かる…おれの背中に幽気がなだれこんでくる!
あとは…アイツが来た瞬間に『懈』を全開放するだけだ…!!また指が飛ばされるかもしれない…いや、腕ごと…
いや、そもそも殺されるかもしれない…けど…けど!ビビってるヒマはない…おれの“全力の怠惰”をぶつけてやる!!!
「眠らせるだなんて大胆な子だねぇ…♡それにさ?キミ、流霊でしょう?流霊は固定能力の発現はできないんだよぉ?ハッタリだね…?♡」
「うるさい!! 来るなら来い…!!!」
「ウフフ……せっかちだなぁ♡ じゃあ…引っかかってあげる…!!!」
来た……………ッッッ!!!
姿が消えた……!!!獲りにくる……!!!
ビビるな…足…震えるな……!!!カッコ悪いぞ…茅蒔!!!勇め…勇気を出せ!!
《バギィイイイイイイインンンッッ》
「………あらっ?…」
掛かった────!!!
『我が身可愛さ』が動かすおれのツインテールの髪の毛が、ウフルンテの凄まじいスピードに負けないくらいの速度で背中の剣をひったくって攻撃を自動的に弾く────!!信じてたよ!!
なんて音だ…!!なんて振動だ!!!腕がぶっ壊れる……!!!激痛だ……!!!
でも…位置は解った……!!!!
「眠れーーッッッッ!!!ウフルンテッッッッ!!!!」
おれは自分の出せる最大級のスピードでウフルンテに『懈』を発動した。今までのムカつく出来事を思い出しながら…それを勢いまかせにぶっ放した。ウフルンテは呆気にとられた初めて見る顔でソレを真正面から受けた。
「あ…あらら…? 眠く…なっ……!…」
「よっ…よしっっ!? 食らった!?」
「んが………クソッ……カラダが弛緩す……」
おれの渾身の『懈』はウフルンテの幽気ごと上書きしてなんなくダラケさせることに成功した…!よっしゃ…無力に…無力化に成功した…!?こんなカンタンに…?やっぱり…セカキューの力は凄い!!ココまで強いなんて!おれの幽気も強くなってきてるのかな!!
「んー…15点かなぁ〜?努力賞だねぇ♡」
───?????
視野がグルングルンっと回転した。
ウフルンテがおれを見下ろしている…?なぜ?
身体が冷たい…なんだ? おれ…地面に寝そべってるのか…????
「ん……あれ……なんか…カラダがフワフワ…する……?」
手足をバタバタする、ヒンヤリした地面だけがおれの側にある。…なにがどうなって────
「よーーっし!!イクよ〜〜〜〜!!? 歯ぁ食いしばってね〜〜!!!」
《バギッッッ》
一瞬冷たくて、ジワジワと熱く、激痛が、お腹の辺りに広がっていく…
────なんだ?? ……空……??
なんで…空におれがいる…??あれ?さっき居たはずの…地面が…近づいてくる……なぜ…なぜだなぜだ??
《グシャッッッッ》
「ぐぎ…あああッッッッ……がっ…ガハッ…ガハッ……」
「“35.2kg” 合ってるかな?チマキくん♡」
激しい落下音とともにおれの意識が飛びかける。
ああ…この“音”の正体、おれか…あーそういうことか…全部上手くいかなったんだね、作戦…
「息が……でき……はっ…はあ…ッッ…ハァ…」
「アタシの特技でさ!蹴り飛ばしたモノの重さが判るの! チマキくんはぁ、アタシの部屋のクローゼットと おそろさんだねぇ♡」
…地面に…叩きつけられた…のか…?
意味不明な言葉が聴こえてくる…なんか。段々と意識が…声がグニャグニャ聴こえ…まずい、…水月…ねーちゃんは…?!ヒュークは…??
「オオオオオオオオオ!!! 『業翼』────!!!」
「あーもう、うるちゃい!!」
遠目で見えた。
ああ…まずい…
「なにッッッ…!!!ぐっ…ぐぞぉおおお!!チマキ…殿ォオオオ!!」
ヒュークの重力の風がまるで虫のようにはたかれ、本人に跳ね返されていく… ヒュークはあっという間に空の彼方へ小さくなって飛んで行ってしまった…。 ほ、ホントにこれは現実なのか…?夢の中…そうだ…夢の中…。
ンなわけ…あるわけ…ないだろう…
「ピッチャー返しからのぉ…ホームラーーンっっ!!! いぇーい!!!ウフちゃんに50万てーーん!!!」
「ヒューク……!! ウッ…ウフルンテ……ステレオ能力…か……」
「バカだなぁ〜『存在力』だよぉ~♡ “魅力的なアタシが居るだけで”…キミは勝てないことが約束されてるの…♡」
『存在力』……あーそうか、なんでそんなシンプルなことを見落としてたんだろう…そうか、わざわざ能力を使うまでも無いってか。
“しきよく”…くそっ…なんだよ、“しきよく”って…分からない…コイツの心が…何考えてんのか…ぜんっぜん…。わっかりたくもないけどさ…。
「チマキくぅん?そこの巫女さんのこと、心底好きでしょお? ウフフ…楽しいこと考えちゃったからぁ…協力してほしいのだ♡」
「……悪夢だ……」




