⑳ 助手席の怠惰
【ワタシが、消しても…?】
「まあ、待ちなさい…。君がこの場に凄んでいるだけで十分、役に立っているさ…なあ茅蒔くん?」
「な、なんだよ…こ、この状況…」
こういう時、とっさに仲間が来て守ってくれるような場面だろう…。
おれもそう思ってた。現実は違う。相手の仲間が増えただけだ…。
いや………
『だけ』で片付けるには重すぎる状況だぞ…!!
コンプレックスだと…?ここにきて…!?
このメガネの能力だけでも厄介なのに…!?
も、もう…やる気が…生き延びる気力が…なくなっちまった…。
もう…勝てない…、絶対無理だ…。
──ジャキ…ジリジリ…
「ハハハハ…見なよ?ヒューク。もう、茅蒔くんの心は限界だ…。肉体よりも精神がもう折れてきたかな?」
【相変わらず…趣味の悪いお人だ。】
ハァ…ハァ…このコンプレックス…。
知性が高いタイプ…。まるで、人間のような話し方…落ち着きようだ…。
そりゃ、そうか。今のおれなんて最早、赤子同然なんだろうな。
「君自身に、これといった恨みはないが…、まあ、なんだ?コレで分かったろう…?自分がどれほど、望まれた存在ではないか、が。迷惑はかける…ワガママに無駄に生きる…だ〜れが、そんな君を救いたいと思うね?うん?世界はね…君を中心には回っていないんだよ。」
…そうだよなあ。
あ~あ…これが最期かよ…。
まさか、タイムリミットよりも早く死ぬとは…思わんかったけどな…。
心残りしか…ねぇや…。
も、もう…髪の力も…幽気も限界だ…。意識も…保って…ら…。
「おいおい…寝てんじゃないよ?もっと最高の表情を見せてもらわないと…。最後の、最期までつまらない人間だねえ君は…。」
「ハッ…ハ…ハァ…。………。…は…あ………。……。」
【…気を失ったか。此奴はもう、ここまで。
ワタシの仕事は、なかったようですね…。】
────ジリジリ……ズブ……
はぁ…はぁ…
あれ…なんだろ…妙に…気が楽に…
世界が真っ暗になった…。
そうか、コレが『死』ってやつか…
まあ、もう死んでたけど。
でもなんだろ…変だな。温かいや…
…ごめん、風月。
ごめん、水月ねーちゃん…。
なんか最近もこんな感じのことあったな…
…ごめんな。世界休め…。
約束…守れなかった…。お前のこと、ホントに…
ちゃんと眠らせてあげたかったんだけどな…。
あー…、
もう、ヨダレ拭く力も無いや…
あー…、終わりかな…。
「…。………。………。………。…はぁ〜、……相っ…変わらず…マヌケな面だねえ…茅蒔。」
………?
だ、誰…だ…?
「…失礼なヤツだね。約1か月ぶりの、ご対面だってのに。」
「…あれ…?…おれ…がいる…。」
おれが…もうひとり…
しかも、“このおれ”…。なんか眼鏡掛けてるし…。
おまけに目ツキも眠そうだ…
「違うし…!キミの姿をトレースしてるだけだよ。デザインなんて考えるのボク、すんごいメンド〜臭いからね…。それと、幽体があると色々と便利でね。+、イメチェンってやつだよん。」
「……!!その口調…世界休め…!?…って…!!だからっておれかよ…!まあ、いいけどさ〜……こんな感じだったのか。ホント、髪すっげぇ緑色だなぁ…」
おれの前に現れたのは、
メンド臭がりのアイツだった。
ちぇ…約束破った瞬間、来やがって…
久々の再会で喜びたいとこだけど、今は申し訳ない気持ちしか持ってないぞ…。
「ま〜た、大ピンチになっちゃってまあ…。キミは死にかけるのが好きなのかい?…」
「世界休め…おれはもういいよ。おれが、消えたあと…代わりを…、世界休めを封印してくれる、もっと良いやつを…見つけてさ…?
またのんびり…しててくれよ…。俺はもう、要らない…。そうだろ…?」
世界休めには悪いけど…もう…生き延びれない。
こんな、意識の中の世界でも…意識が…無くなりそうだ…。
「…………馬鹿かいキミは?なんでそんなメンドウ臭いことをボクがしなきゃならないのさ…?」
……は…。
「キミが勝手にボクを起こしたんだ。それを、『ボクはもうムリですぅ〜…。代わりをぉ〜…』だって?………甘ったれんじゃないよ。キミがやるんだ、キミしかいない。キミしか望まない。ボクはね、キミが“要る”んだよ。」
「…世界休め……。」
そうだな…
まだ…ちょっと甘えてたよな…。まだ、あのメガネに勝てる算段があったかもしれないのに…。
おれはひとりじゃない…。
『2 VS 2』だったんだよな。
目が覚めたよ…!…ったく…
“怠惰”のコンプレックスに起こされるとは…!!
へへへ…
そうだよな…!お前との約束…
やっぱり、誰にも渡したくねえや…!!!
「それにキミは『馬鹿』じゃない、『無知』なんだ。
ひとつ、このヤバい大大大ピンチな状況を打破する攻略法を教えてやるよ…。───“ボク”を理解しろ。“怠惰”を理解しろ。『存在力』を……解放しろ。」
存在力……?
世界休めを知れ…?
幽気…まだなんかヒミツがあるのか…?
「怠惰怠惰怠惰怠惰、たいだぁ〜……。う〜ん…もっと具体的にないの…?」
「キミは“怠惰に成れたら”、“操れたら”、なにがしたい?」
「そうだな………」
おれは、少し考えてから…一番望むことを言った。
「おまえをもう一度、封印して“寝かせてあげたい”。約束だから…。こんなんじゃダメかな?」
「はぁ〜あ〜あ〜…、自分が死にそうな時にボクの心配かい?…ま、いいケド…さ。その“気持ち”忘れずに反芻しな?」
世界休めはガクッと頭を下げ両手を、はかり天秤のようなポーズで分かりやすく「キミは何を言っているんだい?」って感じに表現した。
けど、いつもの眠たそうな顔じゃなく、少し、優しく笑った顔だった。
「世界休めを眠らせる…世界休めを眠らせる…。
…………世界休めを、世界を…
……世界を…
────休ませる…………!!!!」
なんだか、身体が熱い……いや、温かい…
なんだろう、身体が目を覚まそうとしてる。
怠惰を願ったのに…変なの。
でも、全然不快感はないや。
───なんだか…なんでもできそうだぞ…!!!
「ま、上等だろう…!そろそろ起きな? チマキ。
要領良く、───なるべく頑張れよ。」
……いつもと違う幽気が…溢れてくる……。
『理解』したぞ…。
さーて、…お説教も受けたことだし…
起きるとすっか…!!!
「見ろ…ヒューク!剣が、喉に届いたぞ…!この光景…!!この光景がいつも僕を豊かにしてくれる…!!…あぁ…、はやく自らの手で、斬っ裂いてくれ………!!」
───プルプル…
【……?この小僧…なにか、おかしい…。……まさか… “帰ってきた”……!!??】
──…スゥーー…ブジュ………カランカラン……
はぁ〜〜〜〜〜〜………
酸素だ。 立ちくらみだ。 痛みだ。 めまいだ。
嘔吐感だ。筋肉痛だ。出血だ。………
………『生きてる』
『生きてる』ぞ……!!!
おれが…居眠りしてる間も…守ってくれてたんだな…
『我が身可愛さ』…。
ごめんな。ありがとう……!!
「おはよう……。コレール……!!!!」
「なっ…!!!!ハァ!?バカな!!??
剣が……攻撃をやめた!!??」
コレールは細い目をかっぴらいて驚いている。
「……それに…陣が…、なんだ…?フヤケたみたいに…フニャフニャに…なんだ…これは………!!??」
「その石灰で作った陣には“おれの魂の情報”が載ってる…。…だったよね?…ってことは、ほんの少しだけど、その陣…『生きてる』んだ…。生きてるなら…」
おれは世界休めの存在力を解放した。
───ビシャアアアアア……
蛇のようにおれに取り憑き囲んでいた陣形は、まるで水を掛けられた様に輪郭を無くしていった。
「お前のステレオ能力を眠らせた……。つまり…お前の幽気はサボっている状態だ。どうしたの…?はやいとこ、カフェインでも摂りなよ。」
「ハッ……眠らせただと………!!???ぐッ……幽気が…幽気が…ドロドロしていて、構築できない……!!??…この餓鬼に……まだこんな…能力が…!!!?いや…中のソイツの……存在の力か………!!??」
「おれには…最高の疫病神が憑いてんだよ…!!ま…ホントにメンド〜臭い…ヤツだけどな…!!」
世界休め。
お前のこと、理解したぞ。オマケに尊敬もな。
お前を形作る“怠惰”の魂が生み出す幽気の性質…。
ステレオ能力とは、また違う…力
───『怠惰の存在力』…!!!
【世界休めの器…。存在力 を解放するとは…。ワタシも…まだ会得していない力を……!!!】
ステレオ能力を『超能力』とするなら、コレは『潜在能力』みたいなモンか?
面白くなってきた………!!!
死んでるヒマがない!!!
「アンタ…確か、ヒューク…だったっけ…。アンタもコンプレックスなら…『理解』しなきゃな!」
【フッ……。良い目になったな、茅蒔とやら…。先程までとは別人だ…。だが、ワタシの“心”は、そう簡単には明かさんぞ…?】
「もういい…!!!ヒューク!!!
その餓鬼を今すぐ抹殺しろッッ!!!命令だ!!!」
クソデカい大鷲の様なソイツは、翼を目一杯廣げて威圧してきた。
そしておれを、少しだけ…期待する目で睨んだ。
「負けねーよ。」




