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How-to世界休め!  作者: 道具屋
流霊奮闘編
21/41

㉑ “忠誠心”について


 コレールの作り出した呪いの陣の中に、再び引きずり込まれてしまったおれとヒューク。ボロボロのヒュークはなす術もなく、おれと共に「強制心中」の罠に掛かってしまった。その様子を風月と水月さんが歯がゆそうに見守っている。

 静かに、チャンスを待つように。


「水月…私は隙を見てあの信徒を拘束する。能力が解除されたら──

 

 水を差すように、コレールが冷たい声で「提案」してきた。


「おっと…僕への攻撃はやめたほうがいい。バズーカ様の信徒である僕は、彼女に『斬゛雷(ギラ)』を貸与されていますからね。少しでも僕の機嫌を損ねれば、茅蒔くんに発動します。この帯電斬撃はね、使用者の“怒り”を吸って殺傷力を増幅させる…守護霊クラスの貴方なら、賢明な判断ができますよね?」


 コレールは淡々と二人を脅しはじめた。

 おれはともかく、二人もヒュークも道連れになってしまうな。それだけは避けなきゃ。

 でも、これで二人は動けなくなっちゃった。バズーカ…そんなにすごいやつなのかな?


「バ、バズーカ? お姉ちゃん…バズーカってまさか…」

「…“憤怒”のコンプレックス。 世界休めと同じ『六幻(タブラチュア)』の一柱だ…」

「ハッ…同じ…? 彼が『六幻(タブラチュア)』…? 過去の話ですね。人間に封印されるとは…まあ流石は“怠惰”ということか…。くだらない。 それとも、バズーカ様を…侮辱しているのか?」


 え、なに?タランチュラ…?タブ…え?

  また聞いたことのない言葉だ。ただでさえ頭が痛いのに。セカキューの親戚みたいなやつか…?やっぱりあいつすごいやつなんだなあ…あとで風月に詳しく聞かないと!

 それより、今の問題は目の前のこいつだ!こいつを怒らせるとヤバい。どーやら怒りに比例してあのギラとかいう雷の威力も上がるらしい…幽気ってのそういう性質もあるのか…。

 けれど後ろには、こいつに支配されておれを狙い続けるボロボロのヒュークがいる。

 どうすればいい…このめちゃくちゃな状況を…


「ヴォ…アア……コレー……ル……さ……ま……」

「ヒューク!おまえ…なんであんなヤツの言いなりになってんだよ!」


 ヒュークは幽気を振り絞るような声で初めて本音を語ってくれた。


「服従……遵守こそ……。ガハッ、……ハァ……ハァ……。我が……生きる糧……」


 そこまでして従うのか… 死にそうなのに?

 ……いや、違う。

 こいつは「生きたい」んだ…


「茅蒔くん? 君の方にも条件だ。君が少しでも反抗すれば、即座にあの巫女たちに『斬゛雷(ギラ)』を落とす。 …どうだい? 残りわずかの命でもスリルが出てきただろう! そのカスの様な流霊の命でもね!」

「…救いようのない霊だね」

「茅蒔くん……!!!」


 その時だ、水月さんが何かを思い詰めたようにコレールに言い放った。


「コレール!!わたしに…『斬゛雷(ギラ)』を向けなさい!!」

「…!? 馬鹿ッ!!挑発するな水月!!」


 水月さんが声を荒らげて叫んでる。おれのために、おれなんかのために。

 …でも、もう少しだけおれにやらせてくれないかな。

 ちょっと、わかった気がするんだ。


「おれなら、大丈夫……!!」

「バカ!なに言ってるの!!??」


 ヒュークがおれに飛び掛かる。

 操られている大きい瞳は殺意で満ちている。でも死んでたまるか。


「オオオオオ……!!!!!!」



 ──《ブジュッッ》



 おれの肉を貫く鈍い衝撃が走った。死んでいるはずなのに…やっぱり痛い…!!

 けれど、ヒュークの鋭い爪がおれの急所…心臓じゃなく、その少し上を物凄い力で貫いた。

 『我が身可愛さ(サイコガード)』が頑張って作ってくれた蔓状の髪のおかげで、即死だけは免れた。信じてたよ。


「なあ…ヒューク」

「……!!!?貴様……なぜ防御しない?なぜ……避けなかった……!?」

「その必要がないからだよ。なぜなら──


 理解したぞヒューク。


「──『忠誠心(ちゅうせいしん)』……だろ? 君の心の()


 ヒュークが正気の目に戻った。どうやら、支配される恐怖よりも驚きが上回ったみたいだ。


「…童子よ。 言い当てよったか……」


 やっぱり。

 忠誠心か。芯があるような言葉だけど、憑く相手によっては「光」にも「闇」にもなっちゃう。ある意味、依存に近い…呪いのような感情だ。

 ヒュークの言葉や仕草から、ずっとそれが透けて見えていたんだ。


「……しかし、なぜだ?なぜ……!?その身をわざわざ犠牲にした……!?」

「この方が直接、セカキュー…えと、世界休めの幽気を流せるからだよ。君を元に戻せるかもって…強引だけど、やり方は合ってたみたいだね。はは……」

「……一歩間違えば、貴様、死んでいたぞ」

「おれバカだからなあ…これしか、わかんなかった!」


「……… ………」



 自分で言うのもなんだけど、おれの異常な行動に言葉を失うヒュークに、おれは激痛に耐えながらなるべく頑張って話し続けた。


「君と戦って…風月の言葉を聞いて確信したよ。君、かなり弱くなってるでしょ…?今日初めて会ったけどさ、なんか分かるんだ。 理由は…コレールへの忠誠が薄れていってるから?それとも…バズーカってやつが…怖いから?」


 ヒュークは少し空を見上げたあと、やっと静かに口を開いた。


「……フッ、童子よ…いや、チマキ。すべてお見通しか。もう、耐え難いのだ…。お前のような罪なき童子を…手に掛けるのが……。今のワタシは…コレールへの『憎悪』と…バズーカ様への『恐怖』が合わさっているようだ…」


 おれは孤独のコンプレックスとの最後を思い出した。

 “自身の『固定観念(ステレオタイプ)』に背くコンプレックスは消滅してしまう”

 ヒュークも同じ末路を辿ろうとしているのが、もう分かる。


「戦士としての誇り…そんな綺麗なものではない…ワタシの完全な“私情”だ。ククク…どうやらチマキ…先に消えるのは…ワタシの方だったらしい……。本当に…情けない人生だった……」


「情けなくないよ」


「……優しいのだな、お前は」


 ヒュークが初めて笑ってくれた気がする。今にも消えそうなのに、満足そうに。 最後の最後に、褒めないでよな…本当にお別れみたいじゃんか。


「別に優しくないし、おれにはね?“怠惰”という名の罪も搭載されているんだ! …だからね、後ろめたく思わないでよ」

「……フッ…“優しくない”…か…それは本当に優しさを…持ったやつが言う言葉よ…嘘つきめ…」


 ………。

 ヒュークの過去のことは知らないけど、おれにとって…おまえはイイやつだ。間違いなくね。

 だけど…もう、足に力が入らない…。おれは頑張って立っていたけどもう限界みたいだ…身体がふらふらする…血も出しすぎたみたい…倒れる…


 ───……!!

 崩れ落ちそうになった体をヒュークは、敵意を捨てた大きな腕で優しく受け止めてくれた。自分だってボロボロのくせに…

 ……───よし、賭けだ。


「なあ…ヒューク? コレールへの『忠誠心』をさ… ──おれに…代えない?」


「……なっ…!!…何を言っているか…理解しているのか!?…バズーカ様が黙っていないぞ……!!それに…ワタシは貴様を裏切るやも…────

「君はおれを裏切らないよ」

「……ぐ… ほ…本気か……チマキ…!?」


 自分でも、もう何を言ってるか分かんないや。小さな頭をフル回転させてこれだ。

 でも、みんなを助けたい。ヒューク、おまえも…


「茅蒔、お前…」

「…茅蒔くん…!?」

「ごめん二人とも。おれのワガママ、ダメかな?…でも、信じてほしい」


 あとは頼むよ、ヒューク。敵にこんなこと頼むなんておかしいよね。

 でも、おまえのことは、なんだか信じられるんだよ。


「茅蒔くん…困るねぇ!!悪質な勧誘はァ!!!いまので…僕の不快感は絶頂だよ!!!!」


 コレールの姿が、黒い光を放って轟き始める。

 これがおれの…最後の悪あがきだ…!!


「───『斬゛雷(ギラ)』……ッッ!!!さようなら…醜く、汚らわしい、カビのような存在よ!!二度と栄えんなよぉおお!!!!」

「────ヒューク!!!!!」


「……!!! ……良かろう!! 貴様の『心』、理解した……ッッ!!!」


 夜空を真っ二つに引き裂くような、凄まじい轟音が響き渡った。


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