㉑ 重力の風!/『傘』の髪!
このヒュークというコンプレックス。
大鷲のような頭に翼。けれど、体は人間タイプ。身長は二メートルを普通に超えている。水月ねーちゃんとどっちが大きいんだろうか。
翼を広げればもっとだ。腕を組んでいるから気づかなかったけど、両腕の爪もかなり大きい。ブラックを基調とした姿は、まるで「モンスター戦士」って感じでちょっとカッコいいな…ムカつく。
「こちらから行かせてもらっても、構わないか?」
「お好きなようにどうぞ、だよ」
セカキュー…世界休めの『存在力』
相手の幽気をダラけさせるこの力は、確かにすごい。だから今、こうして余裕をぶっこいてるわけなんだけど。でもね、おれ、このタイミングですっごいことに気づいちゃったよ。
そう───おれには! 『攻撃する力』が、全くと言っていいほど無い……!!
これって結構まずいことだ… 前に戦った「孤独」の子は、戦わずにして浄化してあげられたけど、このヒュークはどうかな。コイツの「心」なんて、まだ欠片も理解できてない。
厄介なことになったなぁ。でも、やるしかないか…!
「では……」
「うわっ!……飛び道具!?」
ヒュークが右の翼を天に仰いだ瞬間、羽根の弾丸が雨あられのように飛んできた!どうする、どうする……!?あ、そうだった。おれは、「何もしなくていい」んだった。
《カカカカカカカッッ》
鋭い羽根が次々と襲いかかるけど、おれの髪が硬質な音を立てて弾き飛ばしていく。
『我が身可愛さ』……やっぱりこれ、すごいよ。なんでもかんでも守ってくれる。とりあえず、これで物理的なダメージは守れることが確定した。でも、長期戦はマズい。また“幽気切れ”になったら、今度こそアウトだ。なるべく早くアイツを「理解」しないと。
「成程…。流石は世界休めの器というだけはある。怖いくらいの落ち着き様だ。子どもとて、こちらも本気で行くしかあるまい」
「おれ…最初から本気だったんだけど〜…!」
容赦のない羽根の弾丸が降り続く中、おれの髪は高速でそれらを捌き続ける。うっかり腕を伸ばしたりしたら、それだけで吹っ飛んでいきそうだ。
ラチが明かないと思ったのか、ヒュークは羽根攻撃をオトリにして自分から突っ込んできた。 背後に一瞬で回り込まれて、ヒヤリとする。
すかさず『我が身可愛さ』が動かす髪の剣が、それを受け止めた。火花が散るような激しい衝撃だ。彼がいなかったらと考えるだけでゾッとする。それほどまでに優秀な防御率だ。
「ほう…まるで、後ろにも目が付いているようだ」
「背中狙うなんてヒキョーだよっ!!ていうか…ちょっと思ったんだけど。なんで君みたいな、強いのがコレールに従ってるのさ?」
「探っているな?器よ。ワタシの心を」
「う〜ん…まあそれもあるけど…。純粋に疑問というか…」
なんで、こんなバケモノじみた怪物があんな男の言いなりになっているのかと、疑問しか浮かばない。なにか契約みたいな力が働いているのだろうか…?でもこいつなら、そんなもの武力行使でねじ伏せられそうだけどなぁ。あの自滅させる能力だって、こいつには効かなそうだし…。
「ヒューク…遊んでんじゃねェ……!!“アレ”を使えッッ!!」
「別人みたいに口悪くなったなあ。…ってまさか、ステレオ能力?!」
「……了解」
ヒュークが幽気を翼に込め始めた。空気が震えだす。まるで次元が歪むかのような圧力が、両翼に集まっていくのがわかる。
そして次の瞬間、両翼を地面に叩きつけるような勢いで振り下ろした。 空気が爆発したような轟音が響いて、地面が激しく揺れる。同時におれの身体がひどく重くなる。
「───うぐぐぐ…!!!な、…なんだ……!!!身体が………!!!めちゃくちゃ重い……!!!なんて風圧だよ…!!!!!」
真上の空から、黒い風が一つ。
まるでブルドーザーかなんかに全身を押し潰されているような重さがおれの小さな身体にのしかかってくる。圧迫感が凄まじい…マズい、ヤバい…!
おれの今の幽気量じゃ『我が身可愛さ』でも駄目か…!?防御範囲を越えている。抜け出せない…風圧で呼吸もできない!
でも、死なない。…気のせいかな?
──いや、違う。気のせいじゃない。おれの身体が緑色のオーラのようなものを放っている…完全に無意識だけど。
…理解したぞ。セカキューの存在力が、この致命的な攻撃を少しずつだけど和らげてくれてるんだ。はは…やっぱりあいつ、本当にすごいな。
「“重力”を立体化した風───『業翼』だ…。 流霊ごときの小僧に遣うような力ではないが、貴様を一人の戦士と認め、この能力で葬ってやる」
「……骨が潰れそう。くっ…でも、待てよ?」
この猛烈な風……利用してやる!
『我が身可愛さ』!!
おれの考えを実行して!! 想像を送るよ!!
髪の毛を『傘』みたいにして!! クッションや腕になれたんだから頼むよ!!
「おれの計算が正しければ……!!」
次の瞬間、おれの髪はキラキラとオーラを放つと、弾力のある膜のように大きく「ばいんっっ!!」っと広がり変形した。
「な、…なんだ…!?あの奇妙な髪型は…??」
「これだーーー!!!!サンキュー!!『我が身可愛さ』っっ!!!!!」
普通、傘は強風に煽られると壊れちゃう。
けれど、セカキューの幽気を編み込んだ「普通じゃない傘」なら?
壊れないように頑張れる、この傘で強風をまともに浴びたら?
────答えは一つ。
風を受けて膨らんだ傘形状の髪の毛が、一気におれの体を空へ跳ね上げた。
「…なっ……なんということだ…」
「何ィイイイイ…!!?あのガキ…脱出しやがったのかッ!!??」
「おおお〜すっげ〜!!!見たか〜〜!!! 答えは…『空を飛ぶ』だっっ!!!!」
クチバシをあんぐり開けて見上げるヒュークと、目を開き切って呆然とするコレール。二回目だね、その顔。
それに、フワフワしている流霊の体質も味方してくれたのか、見事に風の檻から飛び出した。小学生に知恵比べで負けるなんてね!
…にしても、君が協力してくれた時はマジで嬉しかった!!ありがとう!!『我が身可愛さ』!!
───灯台の高さまで飛んだところで、てっぺんに着地してポーズを決めてやろっと。
「へっへっへ…!!『業風』…攻略成功なり!!」
「クソが…!!ヒューク…貴様…まさか手を抜いたか…!??」
「そんなことは……。器だからと注意を払っていましたが…本当に警戒するべきは、あの小僧自身…!」
全身がバキバキで痛いけど、希望はまだおれの近くに居てくれているみたいだ。




