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アース  作者: 音竹咲夜花
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長様とご対面

その森の道は全体的に空気がひんやりしていた。なんというか、とても神聖なものを感じる。光る粒子が雪のようにあたりを舞っていた。


「なあ、その長様は一体どんな方なんだ?」


歩きながらカナメが聞いた。


「さっきも言った通り、長様はとても寛大なお方だ。全てのアースの民が長様を尊敬し、慕っておられる。今までアースの中で争いが起こっていないのは歴代の長様と今の長様の所為だろう。」


へえー。すごい王様なんだな。今まで一度も争いがおこってないだなんて。今までどれほどの人間がそんな世界を切望しただろう。


「?なんか見えてきた」


金の大きな門が4本の太い緑のつるで覆われていた。流石に扉の先では長様がいるので二体の護衛らしき妖精がいる。一体は全身に火をまとっていて、もう一体は頑丈そうな鉄の甲冑を着ていた。ルーナがその護衛に近づいて話を始める。さっきのグリフィンとかを呼んでいる感じからしてもルーナはこの宮殿に来なれている感じがするな。

少しするとルーナはこちらに戻ってきた。


「長様の情報屋から事前に話を聞いていたらしい。」


「情報屋?」


「これも風の妖精だ。どこからでも話を聞きつけて長様に教える大事なお役目だ」


あー確かに。風の噂、とかいうもんな。


「すぐに話を聞いていただけるそうだ。入るぞ」


ルーナがそういうと二人の護衛が音を立てて扉を開けてくれた。中に入る。



生い茂った草と流れる川。今まで見たのと同じ不思議な植物。そして向こうから眩しい光が見えた。

目線をあげる。


「!」


そこには木とつるが絡まってできたような玉座に白いひげが生えた一人の年寄りが座っていた。

ルーナがばっと跪く(ひざまずく)


「アーテン様。人間たちを連れてきました」


ルーナがそういうと長の後ろで横たわっていた大きな狐が瞬時に構えの体制になる。そんな狐を優しく撫でて落ち着かせるとアースの長―アーテン様は玉座からゆっくり立ち上がった。

俺が思っていたよりも背が高い。太陽の模様が書かれた白と青の衣。草と花でできた冠。知的な琥珀色の目をこちらに向けて、俺たちを順番に眺めている。全員を見渡した後、長はゆっくりと息をついた。

しわがれているけど聞いていて心地の良い声で言う。


「ルーナ。この子たちには妖精の気と人間の気、両方持っている」


「え?」


ルーナが大きく目を見開いてこっちを見た。何を言っているのかがわからなくて俺がぽかんとしているとアカネが聞いた。


「つまり・・・人間の部分と妖精の部分、どっちもあるってことですか?」


「そういうことじゃな。わしの妖力に衰えがなければの話じゃが・・・。君たちはここに来るのは初めてかの?」


「はい」


もちろんこんなところに来るのは初めてだ。どんなに俺の記憶力が悪かったってこんな不思議なところに来たのなら覚えているはずだ。しかし、ルーナは言った。


「アースに来て、人間界に帰って一か月もすればここに来たことは忘れてしまいます。小さいころに来ていたという可能性も・・・。」


ああ、そうか。そういえばさっきそんなこと言っていたっけ。


「そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。もしかしたら(ぬし)らの先祖が妖精だったのかもしれないな。ところで主ら、名前は?」


「カナメです」


「宇地ミオです」


「角田このみです」


「能斗アカネです」


「阿古あきと」


「伊岐陽杜です」


名前を言い終わるとアーテン様は微笑んだ。


「そうか。ルーナ、不思議な縁じゃな」


「・・・そうですね」


ルーナを見ると今まで見たこともないくらい優しい顔をしていた。なんだ、そんな顔もできるのか。

あ、そういえば。


「アーテン様。俺らを呼んだあの不思議な声の正体って一体なんなんでしょうか?」


「そうじゃなあ」


アーテン様はその長い髭を撫でながら歩き始めた。


「この世には言葉では説明できない不思議なことがたくさんある。それはアースでも同じじゃ。もしかしたら、主らの先祖が主らをここに呼んだのかもしれんな」


そうか。つまり俺のご先祖様がアースの妖精で、退屈している俺をアースに連れてきてくれたのかもしれないってことか。


「じゃあ、主らに最後の質問じゃ。今は日本の八月じゃな?」


驚いた。アーテン様はそんなことまで知っているのか。結の泉を通ってアーテン様に人間の世界の様子を教えている生き物たちがいるのかもしれない。


ここ(アース)にまた来る気はあるか?」


「「「「「「はい」」」」」」


俺たちの声が一気にそろった。思わず顔を見合わせる。ミオが笑いながら言った。


「だってめっちゃ楽しかったし!今は夏休みだし、私は行く高校決まっているから行けるときは行きたい!また風乗りしたいし。もっと他のところも見てみたいし」


「ああ。楽しかった」


あきとが呟く。


「皆さんとも仲良くなりたいです!」


このみが微笑んだ。

もちろん俺だってまた来たい。めちゃくちゃ暇な夏休みが最高の冒険にかわるかもしれないんだから。


「じゃあ、お主らにはこれを渡しておこう。」


長様が自分の白いひげを抜き取り息をふっとかけた。するとそのひげがあっという間に白い玉に変わった。これが妖精がつかう魔法か?


「結の泉は人間界の自然の深いところにつながっている。アースの民はそこで人間界との行き来を果たしている。それができるのは泉があるからじゃ。けれども人間界からはそんな泉はないじゃろう?それにお主らは声に呼ばれて一度溺れたんじゃろう」


アーテン様はなんでもお見通しか。んでもってこいつらも溺れてたのか。


「けれどもこの玉を水につけたらそこが結の泉になる。アースの民もここに戻るときはそれを使っている」


「へえ、すごい」


「もし、お主らがまたここに来たいと望むならその玉を使っていつでも来るがよい。ただし」


アーテン様が一度咳ばらいをしてカッと目を見開く。


その瞬間、全身にびりびり電気が走った……感じがした。


「アースの秩序と平和を()()()乱さないこと。それを破った場合、記憶抹消の上アースからは永久追放じゃ」


「は、はい……」


そういうとアーテン様はいつもの優しい顔に戻った。びっくりした。めっちゃくちゃ怖かった。でもそれだけ、このアースのことを大事にしているんだろう。


「そこに結の泉がある。それで元の世界に帰りなさい」


アーテン様が指示した方を見ると、なるほど。宙に浮いている光る水面があった。

みんなでその下まで行く。


「これ、どうやって戻るの?」


ミオは首を傾げた。


「そこに丸太があるだろう。登って、手を伸ばして少しでも水面に触れたら、元の世界に帰れる」


ルーナが教えてくれた。つづけて言う。


「次アースにまた来たら私が案内しよう」


「じゃあ、結の泉はルーナの庭につなげておこうかの」


アーテン様もそういってくれた。


「じゃあルーナ、今日はどうもありがとう。俺、明日もくるからさ。みんなもまたな」


カナメはこっちに笑いかけると丸太の上に立った。光る水面に手を伸ばす。触れた瞬間、カナメの体が水面に引き込まれて、一瞬のうちに消えた。


「ルーナちゃん色々ありがとー!また来るの楽しみにしてるね。いろいろ聞きたいし。みんなもありがとね!アーテン様もありがとうございます!また明日ー」


つづいてミオが水面に消えていく。


「ルーナさん、みなさん、アーテン様。今日はいろいろありがとうございました。私、明日は来られないかもしれないんですけど、明後日来ます!絶対!」


「私も行くの明後日になるかも。明後日行く。今日はありがとう」


「俺は明日行く。楽しかったよ。ありがとな」


そしてこのみ、アカネ、あきとと元の世界に帰っていった。


「じゃあ、俺も明日来ますんで。ルーナ、今日はありがとう。アーテン様もありがとうございます」


俺もきちんとお礼を言った。アーテン様がにこにこうなずいている。ルーナも少し笑っていた。

水面に手を伸ばす。触れてみてあ、暖かいと思った瞬間世界が反転した。



俺はまたさっきの空間にいた。結の泉の中だ。


「出口はどこだ?」


上、右、左、何もない。あ、下!

下を見ると今度は普通の水面が見えた。多分、あそこに行けば帰れるだろう。

俺はそこに向かってまた、泳ぎだした。



「!!!」


気が付くと俺は落ちたはずの滝のそばの河原で横たわっていた。しかもずぶぬれで。

横を見るとどこかへいったものだと思ってた帽子とリュックがちゃんとそこにある。あー。アーテン様が人間界にいる風の妖精とか水の妖精に言って助けてくれたのかなあ。なんて思った。

やっと立ち上がる。ひどく体が重い。空を見ると太陽がだいぶ低い位置にあった。まずい、日が暮れる前に帰らないとな。

帽子とリュックを持って歩き出す。えー、これどうやって帰るんだっけ。




「あんた。もう夜だけど。しかも濡れてるし泥だらけだし一体何があったのよ。」


「……いや、まあ色々あったんだよ。」


「色々って?」


「いや、ほんとに色々…」


気が付いた後、俺は二時間山の中をさまよいつづけた。服が渇くと思ったら水たまりで転んで、少し乾いていた服がまたずぶぬれ泥だらけになってしまったのだ。


「そのままだと風邪ひいちゃうから、ご飯の前にお風呂行ってきなさい。」


「はーい。」


 

 その後、俺は風呂に入りご飯を食べてテレビを見て布団に入った。

天井を見ていると今日のことがほんとうに夢だったんじゃないかと思えてくる。でも胸元の橙色の石と一緒につけたアーテン様からもらった白い玉を見るとほんとだったんだなあ、と思う。

明日、楽しみだな。

俺はゆっくり瞼を閉じた。











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