第3章 2 過去を知る人
拙い作品ですが、もしよかったら、感想などお寄せください。
「小屋ですね。あそこまでがんばりましょう」
ハワードに促されて、みんなは小屋を目指して歩き出した。先に小屋まで駆けて行ったハワードがドアをノックすると、窓の明かりが揺れて、ゆっくりとドアが開けられた。出てきたのは足の悪い老人だった。夕暮れ時に突然やってきた4人組をいぶかし気に見つめている。
「夜分恐れ入ります。私たちは旅の途中で、悪い御者に荷物を馬車ごと奪われて、ここまで丸2日歩き詰めなんです。急にやって来て申し訳ないのですが、どうか少しの水と食べ物を譲っていただけませんか?」
老人はハワードの言葉を聞いても、じっと4人を睨みつけていたが、ふとヒカルがぐったりしているのに気が付いて、「入れ」と招き入れた。
「その娘は熱を出しているのではないか?」
言われて初めて気が付いたのか、ベスがヒカルの額に手を当てて驚いている。
「奥の部屋で寝かせろ。付き添いの娘も一緒に休めばいい。男たちはわしと一緒にこっちのかまどの前で。まあ、テントで寝泊まりしていたなら、似たようなもんだ」
「ありがとうございます。とても助かります。」
老人に促されて小屋に入ると、疲れが一気に押し寄せた。
老人の一人暮らしだ。もとより余分な食材ななかったが、ふかしたジャガイモとゆで卵に軽く塩を振ったものを振舞われた。ようやく口に出来た食事らしい食べ物は、体力的にも精神的にもギリギリだった彼らを救い出した。
一晩休むと、ヒカルも少しずつ動けるようになっていた。朝からリッキーは老人の薪割りを手伝い、ヒカルとハワードは近くの川で魚を釣ってきた。そして揃って畑を耕したり収穫を手伝ったりした。ベスは小屋の中の掃除をがんばり、ご飯の支度を手伝った。昼食をとったあと、今まであまり目を合わそうとしなかった老人が4人の前に座って語りだした。その昔、華やかだった在りし日の旧アイスフォレスト王国の話だ。
「贅沢を極めた貴族たち、商魂たくましい商人たち、平民たちも精一杯に生きていた。しかし、王族には平民の生活が見えていなかった。あの災害で最初に亡くなったのは平民たちだ。地響きを立てて襲い掛かってくる土石流になすすべもなく村ごと流されていった。今のアイスフォレストはどうだ?少しはマシになったようだが、あの悪ガキのガウェインに平民を守る意思はあるのだろうか。王太子となる青年はずいぶんひ弱だと聞くが、ちゃんと世間が見えているのだろうか」
問いかけるように一人一人に視線を送る。ヒカルは、そんな老人の視線を跳ね返すように訴えた。
「陛下は、すべての国民を大切に考えています。」
老人の目がヒカルを捉える。薄茶の髪に薄いとび色の瞳。そして、まっすぐに見つめ返す強い視線にふっと合点がいった顔をした。
「ところでそなたのようなまだ若い娘が、ずいぶんと過酷な旅をしているのだな」
「はい、父と先生に世間をしっかり見て来いと、そして視野を広げて来いと言われました。確かに昨夜は厳しい状況でしたが、私には、頼りになる仲間がいますから、たとえ疲れて座り込んでも、また立ち上がることが出来るのです」
「ほう…」
真剣な目で見つめるヒカルを、どこか懐かしそうな表情で見つめ返した。そして、思い出したように告げた。
「そうだな、今日の午後から薪を仕入れに若い衆が来る予定だ。それに乗せてもらえば、とりあえずは街まで行けるだろう。」
4人は荷物をまとめて、若い衆が来る直前まで薪割を手伝った。そして、老人に礼を言って、馬車に揺られて街までやってきた。
そのまま市場に向かうと言う若い衆に礼を言って馬車を降り、街を歩きだす。商店が立ち並び、賑わいのある街並みだ。ここまで来れば、通信もできるだろうと話していると、早々に見覚えのある馬車に出会った。
大きな門構えの店は質屋のようだ。店の前では店主と見覚えのある御者が言い合いをしている。店主は、馬車の荷台の後ろに小さく記された王家の紋章を指さして「こんなものを買い取るわけにはいかない」と恐れおののいていた。
「あの、商談中のところを失礼するよ。これはうちの馬車なんだ。返してもらおうか」
言うが早いか、リッキーが御者の首根っこをひねり上げ、早々に縄で締め上げた。
「うわっ!何をする!」
「ちょっと、待ってください。どういうことですか?」
リッキーはひねり上げた御者を4人の方に向き直らせた。
「何をするも何も、人の馬車を奪っておいて、よく言えるな!」
「あんたたち、無事だったのか? あんな魔素のないところからよく戻れたな」
愛想笑いをする御者の横では、ハワードが荷物を確かめていた。
「食品も着替えも路銀も無事です。ご亭主、お騒がせしました。」
「い、いや、しかし。あなたたちはいったい…」
店主が戸惑うのも無理はなかった。4人はそろってどろどろの服を着て、髪もぼさぼさだった。仕方なく、ヒカルが紋章の入ったお守り袋を見せると、やっと店主も納得した。結局のところ、御者は何も取らないうちにつかまってしまったので、その土地の護衛に引き渡すことになった。
店主の気遣いで宿が用意され、4人が宿に付くころには湯あみの用意も整っていた。汗を流した4人が部屋に戻ると、早々に食事の用意がなされ、ホテルの支配人が恭しくもてなした。
まだまだ地元の有力者たちが会いたいと言い募っていたが、疲れていることを理由に、早々に部屋に戻ってふかふかのベッドで横になる。生き返ったとつぶやいたのは、ヒカルだけではないだろう。
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