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逢坂の祝辞

「推川ちゃんに続きまして、わたしから祝辞を述べさせて頂きますね」


 机の後ろに立った逢坂は、やや緊張しているかのような笑みを浮かべながら祝辞を述べ始めた。


「ええと、わたしも一人ずつに祝辞をしようと思ってて、順番は推川ちゃんと一緒にしようかと思います。だから最初は──紬先輩!」


「はい」


 桜瀬が笑顔で返事をしたのを見て、逢坂も頬を緩めた。


「わたしの中で紬先輩は頼りになる優しいお姉ちゃんです。みんなでどこかに遊びに行くってなったら、いつも紬先輩が輪の中心に居て予定を立ててくれて、後輩のわたしの意見なんかも聞いてくれました。それでわたし、先輩たちの仲間に入れて貰えてるんだなって思えて、同級生が居なくても寂しくなかったです。紬先輩とは帰り道が駅まで一緒なので、学校が終わって二人で帰ることが多かったですよね。それでたまに一緒にお昼ご飯食べに行ったり、寄り道したり……学校の帰り道に紬先輩との思い出が沢山出来ました。多分、紬先輩が卒業しちゃったら。わたし毎日帰り道で泣く自信があります」


「あはは、大袈裟だなあ」


 桜瀬が嬉しそうに微笑むと、逢坂はふるふると首を横に振った。


「大袈裟じゃないです。今だってとっても泣きたいんですから。だけどここで泣いちゃうと、湊先輩と瑠愛先輩の祝辞が出来ないので泣かないです」


 逢坂はそう言って鼻をすすりながら、桜瀬に頭を下げた。


「本当にに今までありがとうございました。思い出を全部話しちゃうとお別れみたいになっちゃうので、ここまでにしておきます。紬先輩、卒業おめでとうございます」


「うん、ありがとね。愛梨ちゃん」


 最後はお互いに笑顔を見せ合い、桜瀬への祝辞が終わったようだ。

 続いて逢坂はこちらを向いて、笑顔を見せた。こうやって真っ直ぐに笑顔を向けられると、少しだけ照れてしまう。


「じゃあ今度は湊先輩で」


「ああ、よろしく頼む」


 二人で笑顔を向け合うと、逢坂は小さく深呼吸をしてから祝辞を述べ始めた。


「紬先輩がお姉ちゃんなら、湊先輩はお兄ちゃんですね。わたし、ひとりっ子なので兄弟は居ないんですけど、きっと居たらこんな感じなんだろうなって思います。湊先輩とは色々な思い出があるんですけど……湊先輩は元サッカー部ということもあって運動神経がいいので、湊先輩と一緒にやるバドミントンやバレーがすごく楽しかったです。もっともっと色々なスポーツで遊びたかったので、先輩たちが大学生に上がったら、今年の春休みにでもスポッチャ行きましょうよ」


「おお、いいね。春休み行こうか」


「絶対ですよ! 約束です!」


「ああ、約束だ」


「ふふん、これでまた先輩たちと一緒に居られますね。そんな運動神経がいい湊先輩との思い出で一番印象に残ってるのは、温泉街の射的でテディベアを取って貰ったことですね。あのテディベア、ベッドの脇に置いていつも一緒に寝てるんです。それくらいお気に入りなんです。もちろん、これからもずっと大切にして行きますけどね。もっともっと思い出はありますが、ここまでにしておきますね。湊先輩、卒業おめでとうございます」


「ありがとう。逢坂」


 頭を下げた逢坂に、俺も頭を下げ返す。互いに顔を上げると、逢坂は瑠愛の方を向いた。


「それじゃあ最後は瑠愛先輩ですね」


「うん、よろしく」


 逢坂が笑いかけると、瑠愛の頬も薄らと緩んだ。


「瑠愛先輩はひと目見た時から、吸い込まれるような魅力があって大好きになってしまいました。なんと言っても瑠愛先輩の銀髪に、勝手に親近感が湧いちゃいました。でも瑠愛先輩の銀髪は天然なんですもんね。わたしは毎回痛い思いをしてブリーチしてるので、ちょっとだけ羨ましいです。そんな瑠愛先輩とどうしても仲良くなりたくて、出会った当初に電話を掛けちゃいました。「眠くなるまででいいので電話したいです」ってわたしがワガママを言って、瑠愛先輩がオーケー出してくれて。でも今思えば、あの時に電話してて良かったです。だって瑠愛先輩とこんなに仲良くなれたんですもん」


「うん、たくさん仲良くなった」


「ですよね! わたしの思い込みじゃなくて安心しました。瑠愛先輩は可愛くて可愛くて、いつもベタベタくっついちゃいました。わたしが男に生まれてたら、絶対に好きになってたと思います。だけど湊先輩が居る以上、瑠愛先輩の気持ちも揺るがないと思いますが──おっと話が脱線しちゃいました。何が言いたいのかと言うと、ちょっと抜けてるところがあるけど可愛くて綺麗で優しい瑠愛先輩が大好きです。瑠愛先輩、卒業おめでとうございます!」


「ありがと、愛梨」


 瑠愛が頬を緩ませながら言うと、逢坂は照れ笑いを浮かべながら「いえいえ」と頷いた。


「最後になりますが、紬先輩、湊先輩、瑠愛先輩にはほんとにほんとにお世話になりました。こんなわたしと仲良くしてくれて、仲間に入れてくれて、感謝の気持ちでいっぱいです。二年間、本当にお世話になりました! これでわたしからの祝辞を終わりにします」


 深々と頭を下げた逢坂に、四人から拍手が送られる。

 やっぱり逢坂はしっかりしているな。そんなことを改めて痛感した祝辞だった。


「それじゃあ次は先輩たちから答辞を頂きたいのですが……」


 逢坂が俺たちを見回す前に、桜瀬が手を挙げながら腰を上げた。


「じゃあアタシからやらせて貰おうかな」


「はい! 紬先輩ありがとうございます!」


 ペコペコと頭を下げる逢坂と入れ替わるようにして、桜瀬が机の後ろに立った。

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