003.新種確定で保護先も決まった『コミック1巻発売記念SS』
結果は意外と早く出た。半年後には、斑模様の個体のお腹が膨らんだのだ。三色毛のほうがメスで、灰色の虎模様がオスだったのか。いや、両性具有だった。どちらが父で母になってもおかしくない。たまたま今回は三色毛のほうが妊娠しただけだ。
なぜかエルフ族がとても気に入って、庭の手入れに訪れたついでに面倒を見るようになった。ケットシー亜種として仮登録扱いだが、子供が生まれたら新種確定だ。住む場所も選んでやらなくてはならない。新種に与える土地があっただろうか。ルシファーが考え込む。
「土地以前に、この獣は身を守れるのですか?」
アスタロトに指摘され、エルフと遊んでいるときの話をした。手は柔らかな肉球だが、きゅっと摘まんだり本人が力を入れると爪が出る。動きは俊敏で木登りも可能、飛び降りてもくるりと回転して華麗な着地を披露した。森で暮らしても問題ないが、魔の森となれば話が別だ。
「それなり、だな。フェンリルなどに比べると弱い」
ルシファーは肩を竦めて説明した。角兎相手でも接戦だろう。問題は角兎は魔獣で意思疎通ができないが、この獣は魔族に分類される。ケットシー相手だが話が通じるのだ。魔族は魔獣と違い保護対象だった。
「保護するとなれば……城の敷地か?」
うーんと唸るルシファーに、アスタロトも眉根を寄せた。魔王城の敷地内は様々な種族がひしめいており、この小型の新種が踏まれる心配がある。特にデュラハンのように蹄のある種族に踏まれたら、致命傷になりそうだった。
「エルフに保護してもらうのはどうだ?」
あれほど気に入って面倒を見ているのだ。いっそエルフの領域に同居して、保護してもらえば一石二鳥だ。新しい種族の保護が出来て、エルフ達も満足する。いい考えだとばかり、ルシファーが笑顔で言い放った。
「まず、エルフの意見を聞きましょう。引き取る気がなければ、我が領地でも構いませんが……」
「構うぞ、問題だらけだろ。翌朝には全滅するじゃないか」
「私の領地を何だと思っておられるのか」
むっとした口調で反論するアスタロトには悪いが、ここはルシファーも譲れない。黒い城の中で暮らすとしても、吸血種の餌になってしまう。力説するルシファーに、アスタロトが額を押さえた。偏見だと文句をいうべきか、やりかねない連中がいますと正直に答えるべきか。
「まずエルフだ」
ルシファーは妊娠中の三色毛の獣を抱いて、庭の手入れをしているエルフのもとへ向かった。この時点で、言葉の通じるケットシーが里親候補から外されている。これには理由があった。ケットシーという種族自体が、ドワーフの保護下にあるのだ。
他種族に保護される一族が、新種の保護は無理である。通訳に徹してもらうのが最善策だった。
「あっ! 猫ちゃんだわ」
大喜びで走ってくるエルフの少女は、ルシファーを羨ましそうに見つめた。左腕に抱いた獣を渡しながら、「ねこ?」と繰り返す。
「はい、そう呼んでいます。新種に確定したら、個体名をつけようと思っていますけれど」
抱いて撫でる様子は慣れており、猫と呼ばれた獣も素直に甘えている。関係は良好らしい。
「あの、だな。この新種をエルフに保護してもらう案が出たんだが」
「え? やった! 本当ですか?! すぐに長に連絡しますね!」
集まってきたエルフ達が大興奮で、あっという間に連絡が取られた。その間にも入れ代わり立ち代わり、猫を構いに現れる。
「うん、呼び方は猫でいいや。定着してるし……面倒見てもらうからな」
確定! ルシファーが満足げに頷き、空を見上げてはっとする。
「いけね、リリスのお迎えに行かなくちゃ!」




