第9話 家族
「……何者だ」
そう言い、青年は和樹に剣を差し向けた。
「っ!?」
次の瞬間、誰かに腕を引っ張られ、後ろへ下がった。腕を引っ張ったのはラグトリアだ。
「もうヴェルド! 彼はラキナを連れてきてくれた恩人! 威嚇するのはダメ!」
「む、そうか……だが、こいつは人間族だ。なぜ家にあげた?」
「確かに竜人以外の出入りは禁止されているけど彼はラキナを連れてきてくれた恩人だから特別!」
「む、そうか。だがそいつは男だ。男は皆獣だ。ラキナ達が襲われる可能性がある」
「そんなことない! ……絶対とは言いきれないけど……」
「まぁまぁラグ姉もヴェル兄も落ち着いて」
二人を止めた青年は和樹に近づく。
「うちの兄貴がすまないね。僕はアドラ・ガルウェンス。ヴェル兄とラグ姉の弟でラキナから見ると兄だ。呼び方はアドラとかでいいよ。よろしく」
「あ、あぁ……俺は和樹・斎藤だ。よろしく」
そう言い二人は握手を交わした。
「ほら、ヴェル兄も」
「……」
ギラりとした目が和樹を見る。
(うっわ、こえーな……)
「……ヴェルド・ガルウェンス」
「……さっきも言った通り和樹・斎藤だ。よろしく……」
「よろしくするつもりはない」
「……」
「……」
「まぁまぁ! とりあえずこれでみんな出揃ったことだし、今夜はラキナが無事に家に帰ってきたことと、和樹さんが連れて帰って来てくれたお礼のパーティーをしましょ!」
「いいですね母様」
こうして、夜に向けて着々と準備が進められ、日が落ちた後パーティーが開かれた。
並ぶ料理は……
「ワイバーンの唐揚げ、ティグニスの素揚げ、ファーブニルの尻尾漬けスープ、パランティア焼き等いっぱいあるからどうぞ召し上がり!」
竜、竜、竜、竜! とにかく竜の料理でいっぱいだった!
「これ食って大丈夫なのか……?」
恐る恐る食べる和樹。結果としては元の世界にある唐揚げや出汁をとったラーメンのスープに似ていて普通に美味かった。
お風呂に入らせてもらい、案内された部屋に行く。その部屋についている窓からふと外を眺めるといつの間にか日は完全に沈み、三日月が登っていた。
和樹はベッドの上に寝転がる。
(なんか今日は色んなことがあったなぁ……)
またこの世界に来て、しかも竜人族と出会い、衣食住まで提供してもらえた。
ラグトリアはしばらくここに居てくれても構わないと言っていたが。
(ヴェルドっていう兄がいるからなぁ……なによりそれは申し訳ない)
とはいえ、行く宛てもない。和樹はとりあえず今後のことを考えながらしばらくこの家に住まわせてもらうことにした。
眠る時、誰かが入り込んで来たような気がしたが、気のせいだろう。
翌朝ーー、
「……貴様、一度死ぬか?」
「いや! これは誤解だ!」
和樹は今、命の危機に瀕していた。そんな和樹の隣で寝る10歳の少女。
ラキナだ。気持ちよさそうに眠っている。
「ヴェル兄! 駄目だって!」
「嫌だ。俺はこいつを殺る。じゃないと気が済まない」
「ヴェルド兄〜!」
ラグドラがなんとかヴェルドを止めているが、あまり長くは持たなさそうだ。
そこへ、後ろからラグトリアが現れる。彼女はヴェルドの背後に周ってスっと細い腕を伸ばすと、ヴェルドの首に近づけーー、
ドスッ
気を失って倒れ、地に伏せるヴェルド。
「ドラ、あとはよろしく!」
「う、うん……」
何事も無かったかのよえに満面の笑みで和樹の元へ近づく。
「朝ごはんまでまだ時間があるから街を案内してあげる。ついてきて」
「ラグトリアさん!?」
和樹はラグトリアに手を掴まれ、外に連れ出された。風は吹いていないが、やや気温は低めで少し肌寒い。
「ここが雑貨屋。回復薬や道具系はここで。あっ、通貨はスピアで大丈夫だよー。んでここが洋服屋、ここが防具屋でー、ここが酒屋で……」
次々に紹介していくラグトリア。
やがて街から外れ、森を出る。
「ラグトリアさん、ここは街の外じゃ……」
そう言おうとしたが、その言葉は途中で止まった。
上を向くと綺麗な青空に浮かぶ白い雲。
下を向くと遠くまで広がる大森林。途中には滝が見える。
「綺麗だ……」
思わずそう言わずにはいられなかった。
「ふふ。良かった。ここ、お気に入りの場所なの。ラキナを見つけてくれたお礼として見せたくて」
「お礼なんてそんな……」
途端、彼女は真剣な表情になる。
「大切な妹なの。和樹くんの助けがなきゃ、あの子は今頃倒れていたかもしれない。もう私達家族と会えなかったかもしれない。だから改めて言わせてもらうね。ありがとう」
「っ……」
ラグトリアの素直でまっすぐな言葉に和樹は頭をかく。
(なに照れてんだよ俺)
「あと、ヴェルドのことだけど……誤解しないであげて欲しいの。あの人は基本的に無口で無愛想だし、すぐに勘違いしたりするけど、頭の中ではほとんど分かってるの。今朝のは勘違いというより、多分妹と知らない男の人が一緒に寝てるのに嫉妬して怒ってるんじゃないかなぁって……和樹君がやった訳じゃないって分かってると思うの……ようするに、誤解はしないであげて!」
ラグトリアの一生懸命な言葉に思わず笑みがこぼれる。
「どうしたの?」
「いえ、よく見てるなぁと……」
「もちろん。周りの人に誤解されたら嫌だしね。あっドラやラキナのことも言おっか?」
そうして、ラグトリアの家族の話は数時間にも渡った。
ドラは温和で落ち着いているように見えるけど実は結構熱い男だとか、戦闘になると戦闘狂になるとか
ラキナは結構周りのことを見ていて、気を使ったり遠慮したりするけど年相応なとこが出た時は可愛いだとか、実は頑固なところがあったり、と色んなことを彼女から聞いた。
(ほんとに兄妹のことよく見てるんだな……)
そしてその頃には空が夕陽に染まり、日が落ちそうになっていた。
「っと、そろそろ夜だね。今日色々まわったけど大丈夫? 疲れたりしてない?」
「大丈夫です。この街や景色とか色んなところが見れて楽しかったです」
和樹がそう口にするとラグトリアは小さく微笑んだ。
「そっか。んじゃそろそろ帰ろっか」
「……ラグトリアさん、今日はありがとう」
ラグトリアの背に向かってそう言う和樹。するとラグトリアは和樹に近づく。
「敬語、なしにしよっか。もっと気楽に普段の和樹くんの口調でいいよ」
「っ……分かった」
そう言うとラグトリアは微笑む。その後二人は家の方向へ向かった。
ちなみに家に帰ったあと、再びヴェルドに問い詰められたがラグトリアによって再び気絶させられたのであった。




