第8話 竜人
和樹とラキナの二人は周りの景色を見たあと互いを見あった。
そして和樹はラキナの顔を見て声を上げた。
「え?」
「どうしたの?」
「いや、えと……」
ラキナに問われ、和樹は口ごもる。なぜなら今、和樹の目の前にいる少女がラキナとは少し違った顔立ちをしていたからだ。
(え、ラキナ……?)
今、目の前で自分に話しかける少女の声は確かにラキナのものだ。だが、その顔立ちが和樹の記憶と少し違うのだ。髪も少し伸びており、幼かった顔が少し少女らしくなっていた。
「急にどうしたの? 和樹、なんか変だよ?」
「和樹?……って、やっぱりラキナなのか?」
「そうだけど……なんでそんなに驚くの?」
「いや、だって見た目が……」
「……え?」
ラキナは辺りを見渡し、何かを探し始めた。やがて岩の根元に生える結晶のようなものを見つけ、そこに駆けつける。
結晶に顔を映すラキナ。そこには幼かった頃のあどけない顔から可愛らしい顔へと変化していた。髪も少し長くなっている。手も足も伸び、今着ている服やスカートの丈が少し短く見える。
「……えぇぇぇぇぇ!?」
顔を両手に当てて叫ぶラキナ。
「……大丈夫か?」
「……全然大丈夫じゃない」
「だよなぁ……」
突然のことに驚いていると、
「おい、そこのお前」
「「っ!?」」
声がした方を見るとそこには槍や剣をかまえた人が三人いた。
正確には人ではない。見たところラキナと似たような見た目をしていることから竜人族と思われる。
(角や尻尾……もしかして竜人族か!? てことはここは竜の世界なのか? いや、ミラシィ様に転移させられた世界と同じとは限らないが……)
和樹はこのあとの展開を予想してこっそりポケットにあるデッキからカードを数枚取り出す。
やがて一人の竜人族らしき男が槍を構えてこちらに近づいてきた。
「そこにいる子供を離せ。痛い目に逢いたくないならな」
「っ……」
「大丈夫だラキナ」
威圧を放つ相手に対し、和樹は警戒する。
背中に隠し持っていたカードを正面に突き出し、唱えた。
ミラシィ様から与えてもらった力、モンスターを使役する召喚とモンスターの力を自身に宿らせる憑依を使用するつもりだ。
ちなみにこの世界が別世界だった場合、カードの効果は発動しないどころか、持っているデッキ自体が紙も同然になってしまうのでこれは一種の賭けでもある。
(頼むからあの世界であってくれ……)
「ランチェルとシロを召喚!」
一応元の世界に帰って何もしなかった訳では無い。
色んな小説、アニメを漁り、この世界にあるか、そもそもその情報が適用されるか分からないがなんとなく属性相性やタイプ相性を覚え、元の世界で発動こそしないものの召喚や憑依させる時の言葉の練習をしていた。
和樹が宣言した瞬間、二枚のカードが光り出す。
(よし!)
「うおっ!?」
「なんだ!?」
「チェル!」
「主様! お久しぶりです!」
ランプの魔物ランチェルと白い狐の魔物シロだ。
「よし! てことは前に来た世界で合ってるっぽいな! ラキナ目を閉じろ! ランチェルはフラッシュ! シロはアイツらの足止めをしてくれ!」
「チェル!」
「承知!」
そして和樹は更にカードを取り出す。
「……アーリーをトレース!」
途端、和樹の服装が黒い外套へと変化する。手には漆黒のロングソードが握られている。
『お久しぶりです主!』
「久しぶりだな! アーリー!」
「フラッシュチェル!」
ランチェルの身体が強い光を放つ。
「ぐあぁぁぁぁぁ!」
「目がぁぁぁぁぁ!」
のたうち回る竜人族。
「フリーズアイス!」
シロの口から放たれた冷気はのたうち回る竜人族を凍らせ、地面に貼り付ける。
「よし!」
『主! 前!』
「うおっ!? 痛てぇ!?」
アーリーの念話で咄嗟に右に避けた。それと同時に俺の頬をギラりと光る槍が掠めた。
「ふん。まぁ避けられるか……ならば」
竜人族は背中に担ぐ荷物から斧を取り出す。
「っ!……」
それを見た俺は思わず足がすくむ。
『主! 嫌な予感がします!』
「っ! アーススパイク!」
剣を地面につき刺し、地面に亀裂を入れる。その亀裂は竜人族の元へと向かっていく。
「うらぁぁぁぁぁ!!!」
「うおっ!?」
大地が揺れるほどの振動。竜人族は近づく亀裂に向けて斧を振り下ろした。
(バカ威力高ぇじゃねぇか……!! 近づかなくて良かったわー!)
「ふん!」
竜人族はジャンプし、俺に向かってくる。更に、自身の身体を回転させると同時に斧も振り回す。
ランチェルは再びフラッシュ。シロは竜人族に向かってアイスビームを放つが……
「主! 私とランチェルの攻撃が聞きません!」
「チェル!」
「まじかよ!?」
もう間近まで迫っている。
「和樹!」
「終わりだ! 人間族!」
これが当たれば和樹の首が吹っ飛ぶ……
「ガード!」
和樹は新たにカードを取り出す。
それは鳥の魔物、ギロだ。
ガキイィン!
「なっ! ぬおっ!?」
竜人族は斧ごと吹き飛ばされる。
「助かったぞギロ。久しぶりだな」
「お久しぶりです主。全く人使いが荒いものですね」
「それはすまんて」
「なんだそいつらは……召喚士かと思いきや魔法陣はかかねぇし急に武装しやがるし……」
竜人族は再び斧をかまえる。
「なら貴様にとっておきのやつを見せてやろう」
竜人族が斧に光を集め、振り下ろす。
和樹達もかまえる。
「お互いそこまでにしなさい!」
「「っ!?」」
凛とした声が辺りに響き渡る。
「……この声は」
「っ!? 貴方は!?」
和樹の前に一人の竜人族がスっと現れた。その直後、斧持ちの竜人族がぐべっという声を漏らし、地面に伏した。
「っ……!」
その竜人族は女性だった。しかもかなり美しく、胸も大きい。髪はラキナと同じ銀髪で頭には白銀の角が二本生えている。
思わず見とれてしまうくらい綺麗だった。
「この度は同胞が不貞を働き、申し訳ございません。私ラグトリアが彼らに変わってお詫び申し上げます」
「それはどうも……」
見とれている俺の隣にラキナが現れる。
「ラグ姉……」
「……ラキナ? ラキナなのね! その見た目はどうしたの!? とにかく無事で良かった〜!」
「むぎゅう……」
ラグトリアに抱きしめられるラキナ。その豊満な胸に顔を埋めさせられ、苦しそうだ。
(……羨ましい)
巨乳は好きだがあまりにもデカすぎるのは好きではない和樹。だがあれは程よい大きさをしている。
(ぶっちゃけラキナが羨ましい)
呆然とする斧持ち竜人族を放置し、ラグトリアにこれまでの事情を軽く話す和樹。
といっても別の世界から来ましたなんて言葉信じてくれるとは思えないが一応和樹は話すことにした。
「なるほどね。きっかけが何か分かっていない以上、成長に関しては様子見かな。あと、きみは……」
「和樹でいいですよ」
「じゃあ和樹くん! ラキナを連れてきてくれてありがとね」
「いえ、ラキナが再会出来てよかったです」
「よし、とりあえず母様達に報告しなきゃだから一旦戻ろっか。きみもくる? なんなら滞在してくれてもいいし。ラキナもその方がいいでしょ?」
「うんっそれがいい」
「お、おう……じゃあお言葉に甘えて……」
「よし、そうと決まれば早速家に行ってみんなに報告ね」
「あ、あの……」
「ん? どうしたの?」
「そこにいる竜人族達は……」
「あの人達はそのうち起き上がるからほっといていいよ」
「あ、はい」
地面に倒れ伏す三人の竜人族を放置し、和樹とラキナはラグトリアについて行った。
後で聞くとあの三人は集落の周りを巡回する警備兵と知り、和樹は申し訳ない気持ちになった。
しばらく歩くと先程まで岩だらけだった地形が変わり、木や草花が生い茂る森に入った。
更に森の奥へ進むと開けた空間に出る。
そこからはいくつもの道に別れており、ドーム状の家や雑貨屋のような店、酒場など様々な所へ繋がっている。
「ここからは似たような建物や景色が並んでるからしっかりついてきてね。じゃないと迷子になっちゃうから」
「分かりました」
ラグトリアの後をついていく。途中、巨大な大木が視界に入る。
(でかいな……)
3階建ての家やビルのような建物もあったが、それら以上に大木は大きかった。その入口には先程出会ったのと似たような警備兵が立っている。
何か大事なものや神聖なものがあるのだろうか。と和樹は疑問に思う。
「ついたよ」
そうこうしているうちにラグトリアの家についたようだ。
ドーム状の家の上に更にドーム状の家がある。見たところ3階までありそうだ。
「そういえばまだ名乗っていなかったね。私はラグトリア・ガルウェンス。もう知ってると思うけどラキナの姉です」
「俺は和樹斎藤といいます」
「ちゃんとした名前は初めて聞いたけど呼び名は和樹くんのままで良さそうだね。入って入って」
ラグトリアに促され、和樹とラキナは家の中へと入った。
「……おぉ」
中は色とりどりの花で埋め尽くされていた。棚や壁が隠れるぐらい埋めつくされている。
「母がお花好きなの。あ、入ったらこっちの部屋にきて」
ラグトリアについて行くとラキナが女性に抱きしめられていた。この人もかなりの美人だ。ラグトリアがあれだけ美人なのだから親であるラグファも当然とも言えるが。
(というかラキナとラグトリアのお姉さんにしか見えんぞ……これが竜人族か)
竜人族は数百年の時を生きる。
「ラキナ!? その見た目……でも無事で良かったー! もう……ほんとに無事で……」
「むぎゅう……」
(あ、これさっき見たやつだ)
「っ! こほん。お見苦しいところをお見せしました。私はラグファ・ガルウェンス。ラキナの母です。娘を保護してくれてありがとうございます」
「和樹斎藤です。いえいえ、大したことはしてませんから……頭をあげて下さい」
ラグファの土下座のような姿勢に慌てる和樹。
その後、和樹はラキナとの出会いやその後のことなどこれまでのことをラグファに話した。
「なるほど……全くの未知ですね……そんな話、私も初めてです」
「ですよね……」
「……ただ、もしかしたらギラーフ様がいなくなってしまったことが関係しているのかもしれませんね……」
「ギラーフ?」
聞き慣れない名前に和樹が問う。
「無属性の力を持つ世界龍様のことです。この世界には世界の調和を護る龍王様がいます。火、水、風、地、光、闇、無の七つの属性が存在し、七大龍王と呼ばれたりもします。今私達がいるこのドラクリフ大陸に守護龍としていたのですが、ギラーフ様は約90年前に起きた事件でいなくなりました」
「事件?」
「神々の戦争です。正確に言うとその戦争に巻き込まれ、ギラーフ様は倒れました」
「神々の戦争?」
「ご存知じゃありませんか? 私も聞いた話ですが邪神に堕ちてしまった神や邪神龍を倒すために神々や世界龍様達が協力して彼らと戦った戦争です」
「聞いたことないですね……」
「そうですか、あっ、このことが和樹さんと直接関係があるかは分かりませんのであまり気にしないでくださいね?」
その時、コンコンとドアが開く音が聞こえた。誰か帰ってきたようだ。
廊下を歩く音が複数聞こえ、部屋に入ってくる。
二人の男が入ってきた。
一人は優しそうな瞳で温厚そうな青年。もう一人はキリッとした眉に睨みつけるような瞳でこちらを見る青年。
「……何者だ」
そう言い、青年は和樹に剣を差し向けた。




