第77話 立ちはだかる天使たち
先へと進むと地面に光が射した。
思わず空を見上げるとそこは見慣れた青い空があった。
これまでのどんよりとした空間とは大違いだ。
「……あそこに扉があるわね」
ルミ姉の指さす方向に3つの扉がある。左から順番に星型のマークが着いた扉、鎌のマークが着いた扉、そして最後に歯車のマークが着いた扉。
「この扉のどれかに闇の王がいるのかしら?」
「今の段階では分からないですね。そのうち2つは罠の可能性も有り得ます」
「……罠を気にしていたらキリがない。手分けしていこう。私はあの歯車の扉に入る」
躊躇うことなく歯車のマークのついた扉へ向かうツィー。
「あっ、ツィー!」
「それがいいわね。ルーシャ、あたしは真ん中の扉に行くわ。あなたは和樹と共に左の扉に行きなさい」
そう言い、それぞれが目的の扉へと向かう。大丈夫なのかこれ……てか分かってはいたけどこの中で俺が1番弱いから2人なんだろな……
「私達も行きましょう。和樹さん」
「は、はい」
「あと、あなたが弱いから私がいる訳ではありません。むしろ、私はあなたに守ってもらう側です。この身体はオルフェのものですから私は生前ほど力がある訳ではありません」
バレてたー! ……そういうことか。ならその役目をしっかり果たそう。
「頼りにしてますよ」
「頑張ります」
あんな笑顔で言われたらやるしかないわだろこれ。ゲームでいう最終決戦的な予感がかなりするから不安はある。でも、ここで逃げるわけにはいかない。それは俺としても気分が悪い。闇の王を倒し、スティヴィア様の力で元の世界へ帰る。
フラグ? そんなもの関係ない。絶対に帰ってみせる。
そんなことを考えているうちに扉の前にたどり着いた。
「覚悟はいいですか? この先何があっても慌てず、落ち着いて行動してください」
「分かった」
「では、行きましょう」
白い扉が開け放たれる。そして俺達は素早く扉の向こうへと入り込む。
瞬時にあたりを警戒するルーシャ様。俺もランチェルをカードの中に戻し、アーリーをトレースした状態で辺りを見渡す。
「ここは一体……」
そこには広々とした空間が広がっていた。
奥に白い柱が数本立っているのが見える。その周囲には噴水や草原があり、穏やかな雰囲気を感じる。
「っ! なにか来ます。気をつけて下さい!」
「っ!」
ルーシャ様が言った次の瞬間、噴水の前に白い白衣のようなものを着た女性が現れる。背中に六枚の翼を生やしたその姿はまさに天使だった。
女性はやがて目を開け、俺達の方を見た。その目は穏やかで青く輝いている。
「……ついにここまで来ましたか。やはり運命というものは変えられない……」
運命? それはどういうことなのだろうか。そう思っていると彼女は両手を広げた。
「魔天使の空間へようこそ。私の名はエニッタ。魔を司る天使です。あなた方は……っ!」
女性は途中で口を閉じ、驚いた表情になる。
「まさか生きておられるとは思いもよりませんでした。……ルーシャ様」
「「っ!?」」
まさか、一目で見破ったのか?驚く俺に対し、ルーシャ様は眉一つ動かさない。
「っ、一目で分析するその能力……そういうあなたは聖域の守護天使エニッタですね?」
「はい、そうです。覚えてくれていたんですね私の事」
そう答えるエニッタという女性は一瞬だが、少し寂しそうな表情を見せた。
「……どうやら転生したという訳ではないようですね。一体何があったのですか?」
「理由は今のあなたには言えません。あなたこそ、どうしてこんな所にいるのですか?」
「それこそ、今のあなたには言えません」
互いに牽制し合う二人。やがてエニッタの方がため息をついた。だが次の瞬間、彼女の目が据わった。
「ずっとこうしている訳にも行きません。本題に入りましょう。あなた方は我らの主の元へ向かおうとしている。目的は我らが捕らえた者達の解放ですね?」
「えぇ、そうです」
「私は気づいておりました。捕らえた者達の中にあなたがいないと分かった時から。どこかであなたと会う時が来ると。まさかこのような形で会うとは思ってもみませんでしたが……」
「一つ質問です。あなた方は我らの主をどう思っていますか? これはそこの少年に対しても同様に問います」
そう言い、彼女は俺の方へチラリと目を向ける。怖っ! 下手なこと言ったらやばそうだな。にしても、あの人の主というと闇の王か。
「……可哀想な方、ですね」
すると女性は俺の方を向く。
えーと……
これまでの記憶を思い出す。村や街、そして国のみんなを襲ってきたリブル達を従える親玉。一言でまとめるなら……
「この世界の平和を乱す者、ですかね」
俺がそう言うと、エニッタの目は最初の穏やかな目に戻った。
「……なるほど。客観的な視点、主観的な視点、どちらも正解です。……続けて問います。あなた方は我らの主をどうするつもりですか?」
俺はルーシャ様の方を見た。クインテット騎兵達は闇の王の討伐を望んでいた。だが、ルーシャ様はどうだろうか。俺が勝手に言ってはいけない気がした。
「……」
ルーシャ様はしばらく考え込む。やがて目を開き、エニッタを見る。
「……かつて私はあの方と戦ったことがあります。その際、いくつか感じたことがあります。私はそれをあの方のに聞き、真意を知りたい。そしてあの方を変えたい。もし、それが叶わないとすれば……」
次の瞬間、ルーシャ様は真剣な表情になる。
「私はあの方を倒します。ここに来たみんなと共に」
「そうですか……」
エニッタは目を閉じる。途端、彼女の周囲に青いオーラが発生する。
「和樹さん、離れていて下さい。今回は私がやります」
「分かった」
なぜ? 大丈夫か? などといったことは言わない。俺は大人しく後ろへ下がる。
「……それなら私はあなたをここで倒します。あの方に危害を加える可能性のあるものは全て排除します。全てはあの方の為に!」
次の瞬間、エニッタはルーシャ様との間合いを一気に詰めてきた。
「電撃!」
手のひらからバチバチッ! と青い線が放たれる。
「マジックバリア!」
ルーシャ様は逃げることなく立ち向かい、目の前に六角形の障壁を張る。
バリバリバリバリィ!
電撃は障壁に弾かれ、青い火花が辺りに弾ける。
「貫け炎の槍! 爆炎槍!」
一歩下がり、右手で炎の槍を生成する。
「はあぁっ!」
「溶かせ、氷息吹」
炎の槍にまとわりつく氷の息吹。蒸発し、水蒸気が発生する。
残ったのは焦げた槍。勢いは落ちたがまだルーシャの方へと近づく。
「閃光盾」
黄色い縦がルーシャ様の前に現れる。
槍がその障壁に触れた直後、カメラに撮られた時のフラッシュが辺りに放たれる。
「ぐあっ!?」
「大いなる風よ、荒れ狂え! 暴風」
エニッタに向けて放たれる緑の渦。
「きゃああっ!」
渦に直撃し、吹っ飛ばされるエニッタ。柱に強打し、声を漏らす。
「ぐ……さすがルーシャ様……がはっ」
エニッタはルーシャに向け、両手を中央に構える。何やらブツブツと唱えている。
「っ! させません! ホーリーライト」
かなり細い光の柱がエニッタの左手を貫く。
「きゃああああぁ!?」
エニッタの左手が赤く腫れ、そして柱から地面に落ちる。
「く……予想外の速さですね……」
そう言い、よろめきつつも立ち上がるエニッタ。その身体はすでに所々白衣が破けていた。
「うっ……」
「ルーシャ様!?」
頭を抑え、その場にしゃがみこむルーシャ様。俺は思わず駆けつける。
「大丈夫ですか!?」
「く……どうやらこの身体ではそろそろ魔力が枯渇しそうですね。これ以上はこの子の命が危険です」
和樹さん、と俺の名前を呼ぶ。
「ごめんなさい。あなたの力を借りても良いですか?」
「その必要はありません」
その声の方を向くと声の主はエニッタだった。右手で左肩を押さえながらこちらに来る。
「状態異常三つ感知。目眩、麻痺、火傷。その他にも肩など数箇所を強打。たった数分でこの怪我です。正直この状態でそこの少年と戦うと負けるのは私。あなたの勝ちですルーシャ様」
そう言うエニッタにルーシャ様はどこかほっとしたような表情を浮かべていた。
そしてエニッタは残った右手で何かを生成し始めた。それは青い扉だった。
「ここにはあの方へと繋がる道はありません。他の二つのどちらかでしょう。どうぞ、ここから三つの扉の前に戻れます」
「どの扉が闇の王へと繋がる道ですか?」
ルーシャ様が問うがエニッタは首を横に振る。
「……残念ながら私には分かりません。ただこの部屋を任されただけなので」
「分かりました。行きましょう和樹さん」
「あ、あぁ……」
俺はエニッタの方を見ながら歯切れ悪い返事をした。そんな俺を見て察したのかルーシャ様が言う。
「エニッタを倒す必要はありません。彼女から先程の戦意は感じられません。それに……闇の王の味方をしたとはいえ、私は彼女とあまり戦いたくありません」
そうだな。そりゃあかつての仲間と戦いたい訳ないよな。
そう言うと、ルーシャ様は扉に向かって歩き出す。が、何故か歩みを止め、彼女はエニッタの方を向く。
「エニッタ、最後に一つ聞きます。何故あなたは闇の王の元についたのですか?」
「……」
するとエニッタは押し黙ってしまった。ルーシャ様は諦め、部屋を出ようとする。
その時ーー、
「……かつて、起きた世界の戦争。そこで傷ついた私を救ってくださったのがあの方です。戦ったあなたからすると信じられないかもしれませんが」
そう言い苦笑するエニッタ。
「負けた身で言うのもなんですがどうかあの方を止めて下さい。あの方はもう、あの方ではなくなってしまっているんです。本当は心が広く、お優しい方なんです……」
その言葉を聞いたルーシャ様はエニッタの方を向く。
「分かりました。最善を尽くしましょう」
そう言い、今度こそこの部屋を出た。
☆☆☆
一方、鎌のマークがついた扉の向こうでは、二人の女性が対峙していた。片方は黒い外套に身を包み、もう片方はベージュ色のコートに身を包む茶髪の女性ルミ。
そんな二人は既に息を切らしそうになっていた。
「はぁ……はぁ……なんなんだ貴様は?」
吐き捨てるように言う黒い外套姿の女。
「はぁ……っ、さぁ?誰かしらねぇ」
「……っ! ふっざけんなよてめぇ!」
女は手に持つ鎌を振るう。
「女がそんな物使うなんてはしたないわよ?」
「ぐあぁ!?」
鎌を容易く避け、みぞおちに拳をめり込ませるルミ。女は苦しみ、鎌を落とす。
更に回し蹴りを放ち、女を蹴り飛ばした。
「がはっ……ぐっ……おのれ……」
「あなたの負けよ。諦めなさい」
「ぐ……誰が認めるものか……!」
そう言い、立ち上がる女。すでに満身創痍となっているにもかかわらず彼女は立つ。
「……しぶといわね。そこまでしてなんであなたは闇の王を守るのかしら?」
「き、貴様には分からない……あの方の真の姿を……前はあんなんじゃ、なかったのに……」
そう言うと今度こそ女は地面に倒れた。気絶だ。
「……気になるわね最後の言葉」
それだけ言い、ルミは現れた扉から部屋を出ていった。
☆☆☆
一方、歯車のマークがついた部屋ではーー、
「……誰もいない」
そこは辺を見渡す限り、誰もいないそして何も無い。殺風景な空間だった。ただ一つ、あるとすれば中央にある宝玉のようなものだけだ。
ツィーはとりあえず宝玉の元へ歩み寄る。
宝玉の元まであと1メートルとなったその時ーー、
「っ! はあぁっ!」
上から降ってきたものを咄嗟に大剣で薙ぎ払うツィー。
真っ二つとなった何かから魔物が飛び出す。
「いぃぃぃやあぁぁぁ!」
ツィーは襲ってくる魔物を反射的に大剣の腹でぶちのめす。
「……ほう。俺の二段構えの不意打ちを破るか。なかなかの腕だな貴様」
そう言い、男が空から地面に降り立つ。六枚の翼を生やした天使。だが、その顔は青白い顔に無表情と、冷酷さを感じさせる。
「……あなたは誰?」
「……名前を尋ねる前にまず自分から名乗れ」
「……私? 私はツィー」
「……ツィーか。よかろう、俺の名を教えてやろう。俺の名はオベリスクだ」




