第75話 竜化
ネルイとテルンの二人は互いに相手の様子を伺う。
「あら? 動かないならこっちからいくわよ?」
次の瞬間、ネルイの姿がテルンの視界から消える。
「っ!」
テルンは思わず両手に持つ槍を構える。
テルンの視界の左に一瞬、ネルイの姿が現れる。
「っ! 暴風」
すかさず飛び下がり、自身がいた場所に向けて荒れ狂う風を放つ。
「ぐっ……!」
テルンがいた位置にネルイが現れ、剣が振り下ろされるも、空振り。
テルンが放った風に直撃し、後ろに吹っ飛ばされる。
「っ……この技は駄目ね。はあっ!」
ネルイは一気にテルンに近づき、心臓目掛けて剣を放つ。
「アイスフィールド!」
「なっ……!?」
テルンの周囲の地面が一面氷の地面と化す。足元が固まり、ネルイは動けない。更にテルンが後ろへ下がったことで腕を伸ばしても剣が届かなくなっていた。
「っ!」
ネルイは自身の足元に剣を指す。
「火焔山」
テルンの作り出した氷の地面が一瞬にして溶かされる。
直後、テルンの槍がネルイに近づく。
「はあっ!」
ガキンッ!
ネルイの剣先とテルンの槍がぶつかり合い、火花を散らす。
「ふふっ。これならどうかしら?」
途端、ネルイの空いた左手に漆黒の剣が生成される。
その剣を握り、テルンに一突きする。
「氷玉」
テルンの掌から氷の玉が放たれ、ネルイの剣に当たる。
そして、次々と凍りつく。
「ちっ……!」
ネルイは舌打ちし、剣を投げ捨てる。
「ふんっ!」
テルンの両サイドからの槍の突き。
ネルイは身体をしなやかに動かし、交わしていく。
そのまま後ろに下がり、ネルイはテルンを睨む。
「めんどくさいわねあんたの氷技……」
「そうか? こっちもお前の貫通技のせいで得意のガードが出来ないからおあいこだと思うけどな」
「ふんっ、敢えて使わずに氷技で反撃してるくせによく言うわね」
その後も二人は火花を散らし合う。ただ、ネルイが攻撃した時だけ、貫通技が発動するため、その場合のみテルンは氷技と風属性の魔法で対応しつつ、反撃する。
「はぁ……はぁ……身体強化力!」
いくら槍の大きさを小さく、二本に分けたとはいえ元の槍が非常に重く、長期戦だとどんどんテルンの体力が削られてく。
それをなんとか身体強化で誤魔化し、戦う。
一方、ネルイの方も疲れが見えてきていた。
「ぜぇ……はぁ……はぁ」
「諦めろネルイ。体力的にお前が負ける。力を得たみたいだがまだ慣れていないようだな」
「……うるさい!」
「なぁ……もうやめにしないか? ネルイ」
テルンはネルイに説得を試みる。だがーー、
「……嫌よ。せっかくここまで来たのに。それだけは絶対に嫌!」
ネルイの身体から紫色のオーラが溢れ出す。これまでにない量だ。
「これまでの戦いは序章に過ぎない……見せてあげるわテルン。あたしが手に入れた新たな力をね!」
まるで強風のように紫色のオーラが辺りに吹き荒れる。
「っ、ネルイ!」
テルンが必死に呼びかけるがネルイは一切反応しない。
「氷玉! 暴風!」
ネルイに向かって放ち、止めようとするが、全て紫色のオーラに弾かれる。
「呪われし暗黒の力よ……いでて邪悪な力をふるえ……!」
次の瞬間、ネルイの身体が紫色の光に包まれる。
「ガッ、グラァァァッーーーー!」
紫色の光はどんどん巨大化し、やがて破裂するように解き放たれる。
「っ!?」
テルンの正面には先程のネルイの姿はない。
そこにいたのは頭に二本の角を生やし、漆黒の翼を背中に持ち、赤い眼光を放つ黒い竜。身体は全身黒い鱗で覆われ、鋭い棘のような尻尾が竜の背中から見える。
「ガッ、ウゴアアアアァッ!」
それほど広くない空間に竜の雄叫びが大きく響き渡る。
テルンの額に汗が流れる。
「ネルイ……なのか……?」
これまでに遭遇したことのない強大な相手に恐れるテルン。
「グルアアァ……!」
黒い竜となったネルイはテルンを見て赤い眼を光らせる。
次の瞬間、黒い竜は漆黒の翼を広げ、物凄い勢いでテルンに突っ込む。
その圧倒的速さにテルンの反応が遅れる。
「がっ……」
黒い竜は巨大な足でテルンの身体を掴み、引きずりまわす。
鎧が地面と擦れ合い、甲高い音が響き渡る。
「っ……!」
テルンはせめてもの反撃に二本の槍を竜の足に突き刺す。
「グギャアアアアッ!」
黒い竜は叫び声を上げ、テルンを放り投げる。
「がはっ……ぐ!」
放り投げられた先に壁があり、それにぶち当たる。
「グオオオオッ!」
黒い竜の口内に赤い光が集まり、それは球体となり火球として瞬時に放たれる。
燃え盛る火の玉がテルンを襲う。
「っ……水泡爆弾!」
テルンは咄嗟に水の泡を放つ。
水の泡は火の玉とぶつかり合い爆発を引き起こす。
白い煙が立ち込める中、テルンはめり込んだ壁からなんとか抜け出す。
がーー、
白い煙の中から黒い剣、ロングソードがテルン目掛けてとんでくる。
「っ! くっ……ジャストガード!」
テルンの正面に青い障壁がはられる。
次の瞬間、黒い剣が障壁に触れる。
障壁はテルンを守ろうと青く光り出す。
しかし、その障壁に亀裂が入る。
バリイィィン!
「なっ……!?」
黒い剣はテルンの障壁を打ち破り、彼の鎧を貫いた。
白い煙が晴れ、黒い竜が姿を現す。
「グルアアァ……」
「そ……ん、な……」
仰向けに倒れ伏すテルン。
彼の身体に刺さった黒い剣を引き抜く。
「が……は」
血……ではなく、光が彼の鎧から溢れ出す。
少しずつ、少しずつ溢れ出し、空へと散っていく。
「ウオオオオオォォォッ!」
黒い竜は高らかに咆哮する。それは勝利を確信した咆哮だった。
「く、そ…………ルイ……」
テルンは高らかに咆哮する黒い竜に手を伸ばす。しかしそれは届く訳もなく、やがて力つき、動かなくなった。
☆☆☆
「ここはどこだ……?」
トルメは立ち止まり、考え込んだ。おかしい。自分はテルンを追っていたはずなのに未だ追いつく気配がない。もうかなりの距離を走ったはずなのに。
「っ……まさか」
あの時の分かれ道を間違えたのか……?
「チルチル……まんまと我に騙されたチルね」
トルメの前に立つのは青いコートを羽織ったトカゲの魔物。名は……
「我が名はレチルロエル! 多彩な魔法を扱う魔術獣チル!」
レチルロエルは杖を構え、赤い目を光らせる。
「お前をここまで誘導したのは我チル! お前にはここでやられてもらうチルよ!」
「……そうはいかないよ」
そう言い、自身の胸に手を添えーー、
「能力解放」
途端、全身の緑色の鎧が黒い鎧へと変化し、その手には黒い斧剣が握られる。
「暴風」
吹き荒れた風がレチルロエルに放たれる。
「岩壁」
レチルロエルの前に壁が現れ、風が防がれる。
「はぁっ!」
一気に間合いを詰め、斧剣を振り下ろすトルメ。
「氷破片」
レチルロエルの杖の先に氷のつぶが多数生成され放たれる。
「っ!」
咄嗟に後ろに飛び下がり、回避するトルメ。
そんな二人がいる空間には濃い魔力が立ち込めていた。




