第62話 迷子
「っ……すげぇ」
「当たり前よ。ナインド王国はアルヘイム大陸にある国々の中でもトップクラスの経済力を持つ国よ。これぐらいの派手さならいくらでも出来るわ」
感嘆の声を漏らす俺にそう言うエルシィ。
いや、それにしてもすごい。教室が何十個分もあるくらい膨大な広さを誇る会場。テーブルの上にある皿に盛られた料理や天井にあるシャンデリア。そして会場内にたくさんいるお手伝いさんや執事、料理人やパフォーマンスの人、お医者さんや護衛の兵士もたくさんおり、どんだけ金使ってんだと思ってしまう。
やべ、緊張してきた。うっ……こんな時に……
俺は隣にいるエルシィにそっと耳打ちする。たくさんの人がいるから声は聞こえないだろうが念の為。
「エルシィ、トイレ行きたいんだけどいいか?」
「トイレ? あっ、もしかして和樹緊張してる?」
ニヤニヤしながら俺を見るエルシィ。
「あ、当たり前だろ……俺の生活にこんなのねぇよ」
「ふふっ、分かった。まだ始まるまで時間があるから行ってきなさい。あたしとフィアスはそこのテーブルにいるわ」
「分かった、ありがとう」
そう言い、俺はトイレへ向かった。
ん? そういえばトイレってどこだ?
エルシィに聞こうと思い、来た道を引き返そうとするが、すでに割と歩いてきてしまったようでしかもさっきより人混みが増え、彼女達がどこにいるかすら分からなくなっていた。
『シロ、トイレってどこかわかる?』
ダメもとでシロに念話で聞いてみる。
『私も初めてここに来たので分からないです……』
だよなー、てか知ってたらそれはそれでやばいな。
ということで俺はシロと話しつつ、PT会場のあちこちを探し回った。
その結果、途中でシロがトイレに行きたそうな男性を見つけ、その人のあとを追ったことで無事にトイレは見つかった。
だが……
「ここ、どこ?」
『どこなんでしょうか……』
1人と1匹はとある渡り廊下の前でそう呟いた。
「完全に迷子だなこれ」
『ですね……』
早く戻らないとエルシィ達に怒られるな。けどどうやって戻ればいいんだ……?
トイレに行くことを第1に考えていたから来た道の記憶はとっくに忘れたしさっきの男性はもういないしうーん……
そう思っていると向かいにあるドアが開いた。
「……」
「っ!」
中から出てきたのは10歳くらいの金髪碧眼の少女だった。ピンク色のドレスを着ており、まだあどけない顔をしていて可愛らしい。
あ、ロリコンじゃないからな?
「……誰?」
金髪碧眼の少女はじっと俺を見て言う。不思議そうな表情で。
俺は彼女の疑問を解くために名乗った。
「俺は和樹、んでこの肩に乗ってるのがシロだ」
俺の言葉に続いてシロが頭を下げる。
「ふわぁ……っ!」
『ひっ!?』
少女はいつの間にかシロを一点に見つめていた。しかも目をキラキラさせながら。
「……触るか?」
『えっ!?』
シロの声を無視して少女に言う。
「……うん触る」
そう言うと少女は恐る恐るこちらに近づき、シロの頭を撫でた。優しい手つきで壊れ物をそっと扱うかのように。
「すごく柔らかい……」
『っ……これはいいですね……このこの手つきすごくいいです』
シロも気持ちよさそうにしている。しばらく撫でると、少女ははっと気づいたかのようにシロから手を離した。
「あっ、ごめんなさい。初対面なのにこんな……」
「いやいいよ。シロも気持ちよさそうだったし」
「ありがとう。そういえば私の名前まだ言ってなかった。私はオルフェナ・フローズン・ナインド。よろしく」
「あぁ、よろしくな。えと、オルフェナ・フローズン…」
「オルフェでいい。みんなからそう呼ばれてるから。それより和樹はどうしてここに?」
「あぁ、実はトイレに行きたくてでもどこにあるか分からないから途中トイレに行きたそうな人の跡をおって気がついたらここにいたんだ」
「えっ? ここ……偉い人達が使う所だよ?」
「えっ……?」
和樹が少女と話しているその頃、PT会場でお披露目をするパフォーマンスの人達は控え室で最終確認をおこなっていた。
とある部屋では4人の男達が話し合っている。
「いやぁーもうすぐですね、隊長」
「ついに俺達が輝く時が……」
「そうだな。今回ここで俺達が国王陛下のお目に叶うパフォーマンスをすれば名声は各地に広がり客は増えてお金も……楽しみだ」
そう言い笑みを浮かべる男の前には巨大な魚……いや、正確には機械で出来た巨大魚がいた。
「隊長、俺もう緊張して……」
だが、その男の言葉はそこで途切れてしまった。
意識を狩られ、地面に倒れた男の後ろに1人の影が立っていた。
「ガザン!よくも仲間を……!? お前は……なぜここに……ぐはっ!?」
隊長格の男が言い終えるより先に腹に拳を入れられ、意識を失う。
「隊長!? がっ……」
「っ……」
一瞬の出来事だった。短時間で4人の男が地面に倒れ付す。
「ふぅ。たわいもないわい」
そう言うと1人の影は姿を現した。それは鋭い目つきに少量の髪を残したハゲ頭の老人だった。
「あんな魔方陣、偽装すればこっちのもんじゃ。おっと、無駄口を叩いている場合ではないな」
そう言い、老人は機械で出来た魚の元へと近づく。
「くくっ……こいつをこのカプセルで起動させれば面白いものが見れるわい」
そう言い笑みを浮かべる老人。自分の身に起こる危機を彼はまだ気づかなかった。
更にその頃、6人の貴族と思われる男女が会場内から少し離れた路地でたむろしている。
「……どうやらこの城内のどこかにおられるとみて間違いなさそうだな」
「はい。あのお方の気配が結構近いです」
「ならば奴らが見つける前に早急に捜そうではないか。隊長いかがである?」
「よし、それもそうだがその前にツィー、トルメ、魔法陣はどうだ?」
「……さっき忍び込んで調べてみたけど10個中3個の魔法陣から少し異質な魔力を感じた」
「彼らの動きを見るに多分最初らへんに起動されるよ。起動される予定のない魔法陣には仕掛けられていないから恐らく今日の予定を知る内部の者がこの城のどこかに潜んでいると思う」
「よし、ならツィーとトルメは魔法陣の解除を。テルンとイルネは魔法陣を改変させた奴を捜せ。俺とンドネアは会場の奴らをねじ伏せる」
「「「了解!」」」
「……了解」
「了解である!」
それぞれ目的の場所へ向かう中、クロードの表情がほころぶ。
もうすぐあのお方と会える。
自分を救ってくれたあのお方に……




