第43話 トレース・オン
「くっ……」
「ヒヒーン!」
馬とシャルベイは俺に隙を与えることなく徐々に距離を詰めていく。あと数回の攻撃であの槍に貫かれてしまいそうだ。
と、その時、目の前に短髪の女性が現れた。手をシャルベイに向けーー、
「麻痺!」
次の瞬間、女性の手からバチバチッ! と弾ける音とともに静電気のようなものが放たれ、馬もろともシャルベイにヒットした。
「ヒヒイイイイィン!」
足を麻痺させられた馬はその場に倒れる。同時にシャルベイも馬から転げ落ちた。
「大丈夫ですかっカズキさん!」
「ミラシィ様……」
現れた女性はミラシィ様だった。助かったけどどうしてここに……?
「ここからあなたがカードを使えるようにしようと姉様が言ってたんですが途中で道に迷っていました! すみません!」
おい! ……まぁいいか。それよりも
「ここからは使っていいんですか?」
「はい。この魔物に限らずここから出現する魔物はまともに魔法が使えないカズキさんには厳しいですから」
うっ……さりげなくディすらないでくれ。事実だけどさ。
俺はミラシィ様からカードを受け取る。
「あっ、カズキさん、そのカードをそのまま手のひらに持っておいて下さい」
「え? あ、はい」
俺は言われた通り手のひらにカードを乗せたままの状態を保つ。するとミラシィ様が左手で重なるように俺の右手に触れ、更に右手を積み重なったカードへとかざす。
「……秘められし力を解放せよ。能力解放!」
「っ!?」
次の瞬間、カード全体が光を放つのが見えた。だが、それは眩しいというわけではなく、神々(こうごう)しく見える。
やがて光がおさまるとミラシィ様は口を開けた。
「ふぅ。これで終わりです」
「今の光は……?」
「カズキさんが持つカードの真の力を私が解放しました。今から私がその使い方を説明します。まず、カズキさんが現時点で最も仲が良い魔物のカードを選んで下さい」
俺はその言葉に対し、アーリーを選んだ。結構かゆいところに手が届くし何より1番長くいるしな。
「そしたら今度はそのカードを正面にかざして下さい」
言われるまま、俺はカードを正面にかざす。
「次にその魔物をイメージして下さい」
アーリーをイメージする。
「最後になります。トレース・オンと言って下さい」
「と、トレース……おん」
「もっと大きな声で!」
「トレース・オン!」
すると俺がかざしたアーリーのカードが輝きだした。眩しく、思わず目を瞑った。
それからどれくらい時間が経っただろうか。ふと脳内に声が聞こえた。
『主様!』
『その声は……アーリーか?』
『そうです! そして今私は主様と同じところにいます!』
『ん? どういうことだ?』
『目を開けて下さい!』
恐る恐る目を開けると目の前にミラシィ様がいた。
「どうやら成功みたいですね。おめでとうございますカズキさん」
どういうことだ? だがその疑問もすぐに解けた。
身体を見ると、さっきまでは汚れた白いシャツやズボン履いていたはずだが、今は全然違った。
黒い外套に黒いズボン、更に黒いブーツといった全身黒のコーディネートだ。なんかめちゃくちゃかっこいいぞこれ。
「どうやらその子(魔物)のトレーススキルは【武装展開】のようですね」
「これは一体……?」
「トレース・オン。魔物と召喚者が一体化し、更なる力やトレースした魔物の特殊能力を得る。これこそ私がカズキさんに渡したカードの真の力です。本当は最初からそうしたかったのですがごめんなさいカズキさん。あの時のあなたにはまだ早いと思っていたので……」
「そうだったんですね……」
今のタイミングで良かったと思う。最初にその力を貰っても俺は多分その力を持て余していたから。
「それではカズキさん、頑張って下さい。私は姉様と合流して待ってますから!」
そう俺に言い、ミラシィ様は姿を消した。泣き虫だけどほんと優しい神様だな。
さてと、
「そろそろ戦うか」
そう言い、俺は背中に背負っていた剣を取り出す。先ほどコボルトと戦った部屋に置いてあった剣だ。今はアーリーのトレーススキルのおかげが、銀色の剣の形が少し変化していた。言うならば短剣からショートソードへと変化した感じだ。
なんだか力もみなぎっている。
「ヒヒーン!」
剣を構えると馬とシャルベイも麻痺から復活し、態勢を立て直しているところだった。
「うおおおおっ!」
そして俺はそのシャルベイの頭に剣をふりかざしーー、
ガキイイィン!
「っ! かってええええぇ!」
しまったー! こいつには物理攻撃は効かないんだった!
ランチェルなら魔法攻撃が使えそうな気もするが、実はこのトレーススキルには少し難点があった。
「1つだけ注意があります。このトレーススキルは魔物との一体化、言い換えるとこれは魔物と心を一つにします。そのため、ある程度心を通わせている魔物でなければトレーススキルは使えませんので気をつけて下さい」
つまり、現時点でこのトレーススキルが使えるのはアーリーのみという訳だ。トレーススキルが使えるようになるまでの心の通わせ度は期間や俺との関わり方、仲の良さによって大きく変わるらしい。必要度は70%。ランチェルは40%しかなかったため使用出来なかった。ギロにいたっては20%だ。
「くそ、ふりだしかよ……」
『いいえ主様、まだ諦めるのは早いです』
アーリーが俺の脳内に語りかける。
『何か策があるのか?』
『はい。主様、私と主様は現在一体化中です。今なら私が扱う土属性魔法のイメージを主の脳内に送り届ければ主にも扱うことが出来そうです』
『そうか! それだ!』
俺はこちらを向いて突進してくる馬とシャルベイを避け、その背中に右手をかざした。アーリーから俺へと技のイメージが伝わってくる。技名からその効果、どのようにすればその技が繰り出せるか。
「土よ……泥の球となりて弾けよ! 泥爆弾」
すると次の瞬間、俺の手のひらから泥が生成され、みるみるうちに球となりシャルベイへと放たれた。すげえ。小説とかで読んだ技を言ってみたら本当に仕えた。
だがーー、
「ヒヒイィン!?」
悲鳴をあげたのは馬だった。何故ならシャルベイが自身にあたる寸前にレイピアを振り回し、泥爆弾を潰したからだ。
だが、潰された泥爆弾は様々な方向へ飛び散り、シャルベイ達の足元を鈍らせ、更に馬の目を飛び散った泥爆弾が付着したことで馬の視界を潰した。効果はあったようだ。
そう思っているとシャルベイは何故か馬から降りた。
「……へ? うぉ!?」
そしてレイピアを右手に持ち、物凄い速さで突進してきた。
俺は後ろへ飛び下がり、シャルベイから距離をとる。その直後レイピアが俺のいた地面に突き刺さる。
「……っぶねぇ」
まぁまぁ距離をとれたがもしアーリーの能力をトレースしていなければここまで飛び下がれなかっただろう。どうやらこのトレーススキルは身体的にも影響するようだ。今度色々試さないとな。
……にしても、
「こいつどうやって倒そう……」
そうこうしてる間にシャルベイは地面からレイピアを抜き、俺の方へと構えた。
何か手を打たねば。
『アーリー、何か泥爆弾の他に魔法は使えるか? あいつに物理攻撃はほとんど通らないんだ』
『うーん……大きな炎さえあれば手はあるんですけども主様の火属性魔法はいかがですか?』
『無理だな。マッチの火程度だ』
『……なんかすみません』
『いや、いいよ事実だし』
本当はかなり心にぐさっときてるけどな。
『あ、一応方法はあります』
おっ、あるのか? これでやっと次に進めるな。
『なんだ?』
『ひたすらあの者の鎧を主様が私の力を使ってボコボコにしてください。物理攻撃がほとんど通らないとはいえ僅かにダメージは入るはずです。とにかく攻撃してダメージを蓄積させてください』
『え……まじで言ってる?』
『はい。あ、ダメージが蓄積すれば段々足も遅くなっていくと思いますので隙はどんどんできていくはずです』
『お、おう……』
その後、俺はアーリーの言う通りシャルベイの攻撃をかわしつつ、その隙に頭、胴体、足関係なく剣の腹で叩き、アーリーの作り出した岩の拳で殴りまくった。
確かにシャルベイの足はどんどん遅くなっていった。鎧がボコボコに凹み、動きにくくなっているだけだと知ったのは随分と後だった。
そして今、俺は地面に倒れ伏したシャルベイを見下ろしていた。
「はぁ……はぁ……はぁ、や、やっと倒したぜこんちくしょう……」
もうマジで帰りたい。疲れたしあちこち身体が痛いしこれ絶対明日筋肉痛とかになるだろ。
『やりましたね主様! 次、行きましょう』
『あぁ……』
足がガクガクとしつつも気合いで次へと進む。
バトル4/5
「グルルルル……」
「今度はお前か……」
目の前には銀色の体毛に覆われ、緑色の目を俺に向け、ハァハァと舌を垂らす獣。
シルバーウルフ。確かリブルを襲っていたやつと同じだ。フィアス曰く気性が荒く集団で襲う。もう無理だぁ……
『主様、見たところ1匹しかいませんよ? しかもあのシルバーウルフ、目が緑色なので風属性です。私の土属性と相性が良いです』
俺の足を汲み取ったのかアーリーがそう言う。え、マジで?
「よし、それならいける! うおおおおぉ!」
「グラァッ!」
シルバーウルフが威嚇するかのように吠える。だが俺はそれに怯まずシルバーウルフの背中に剣をぶっ刺した。するとシルバーウルフはその場でくたばり、消滅していった。単体なおかつ属性的に有利だとこうも簡単に倒せるんだな。
バトル5/5
よし、これであと残すはあと1バトル! これさえ終わればあのドSっぽい慈愛神の試練から出られ……
「誰がドSなんですかねぇ?」
「うおっ!?」
声がした方を見ると慈愛神が腕を組んで空を浮いていた。
その表情はご機嫌斜めだ。
「……最後はあなたの頑張りを認め、このままクリアにしてあげようと思いましたがドSとは聞き捨てなりません。カレンデュラ」
慈愛神が指を鳴らす。すると次の瞬間、最初の試練で俺を追い回していたドラゴン……
「ギュアアアアッ!」
「げっ……」
慈愛竜カレンデュラが俺の前に姿を現した。なんだかあの竜も怒っているような……
「最後の試練です。カレンデュラと戦い、この子に一度でも攻撃が当たれば試練達成です。もしくは触れても試練達成とみなします。覚悟はいいですか?」
「え? あ、いや……」
「ではスタートです。カレンデュラ!」
「ギュアアアアッーーーーー!」
橙の竜は慈愛神の合図とともに翼を広げ、風を起こす。
「くっ……岩壁!」
よし、これで風は防げる……
「ギュオオオン!」
次の瞬間、竜の声と共に俺の頭上を光の光線のようなものが通り過ぎた。
「へ……?」
土の壁の上の方は半壊。竜の顔が見える。逃げ、いやこれは逆にチャンス!
「泥爆弾!」
計4連発。微妙に方向を変えて放つ。だがカレンデュラはその大きな身体にも関わらずそれを体を回転させて避ける。
「ギュアアアアッーーーー!」
竜は再び風を起こし、俺に放つ。くそっ、近づけさせないつもりか。
『主様! そろそろ主様の体内の魔力に底が見えています! あと5分ほどでトレース状態が解除されます!』
『何だと!?』
おい! そんなの聞いてないぞ!? ミラシィ様そこも説明してくれよ……いや、聞かなかった俺も自業自得か。
こうなったらやることは1つ。
「押し切るのみだ!」
手加減してくれているおかげか目はなんとか開けれる。
「土槍!っ!」
土で槍を生成し、それを地面に突き刺す。幸いここは土のフィールドだからそれが可能だ。
対して竜は俺の考えを知らずか今も俺に風を吹き付ける。見てろよ……
トレーススキルで扱える魔法は俺の体内魔力の量をその魔法が超えなければイメージして作ることが出来る。例えば今のように……
「3、2、1……0! いっけえええぇ! 土槍!」
俺の声と共に竜の腹の下辺りの地面から土の槍が飛び出してきた。
原理はこうだ。俺が土の槍を生成。それを地面に刺し、地中を伝う。そして対象の地面へと辿り着いたら今のように放つ! 奇襲攻撃で悪いが通らしてもらうぞ。
「ギュアッ!」
「何っ!?」
土で出来た槍は確かに竜を狙った。だが竜はそれに気づいていたのか、地面から放たれたその瞬間、ものすごい勢いで地面から離れ、空を飛んだ。
万事休す……
「っていう訳でもない」
「ギュアッ!?」
竜が空を飛んだ次の瞬間、泥爆弾が竜の身体に命中した。




