第42話 慈愛神の試練
「うおっ!?」
いつのまにか俺は先ほどいた白い空間とは別の場所にいた。
といっても先ほどとは違い、地面には石畳の地面があり、辺りを見渡すと綺麗な花が植えられた花壇が真っ直ぐな道に沿って両端に並べられている。空には青空が見え、いくつもの雲が浮かんでいる。まるで庭園のようだ。
と、そこへ2人の女性が俺の目の前に姿を現した。
「ちゃんとここに転移出来たようですね」
「あの、俺はこれから何を……」
「さっき言ったようにこれからあなたには私の試練を受けてもらいます。大きく分けて2つ。まずは1つ目です」
そう言うと彼女は何やら杖のようなものを取り出した。
「絶え間なく咲き誇る純潔の竜よ……我が声に応えよ!」
何やら唱えながら右手を地面に添えた次の瞬間、黄金の魔法陣が現れ、輝きを放ちながら何かが現れた。
竜だ。それも数十メートルはあるであろう大きさだ。手の甲や頭の上など身体のあちこちに黄色やオレンジ色の花が咲き乱れ、鮮やかな色合いを出している。眼や翼の色は黄色とオレンジの混ざった色になっておりかなり綺麗だ。
「この子は私の大切な仲間、慈愛竜カレンデュラです。さて、では早速始めましょうか」
思わず見入ってしまっていたが慈愛神の言葉にはっと我に帰る。
「始めるって何をするんですか……?」
俺の疑問に慈愛神はふふっと笑った。なにそれ怖い!
「今からあなたの基礎体力上昇を兼ねて試練を与えます。私が今召喚したこの子、カレンデュラから一定時間逃げなさい。生き延びたら試練達成。場所はここから1キロ以内まで。制限時間は30分です。よーい……」
「え!? ちょっと待ってくれ! いくらなんでも急過ぎ……あぁもう!」
俺は一目散に逃げ出した。脳裏に追い回される映像が浮かび、割とガチで身の危険を感じたからだ。
「ドン! カレンデュラ! あの少年を追いかけて下さい。死なない程度なら何をやっても構いません」
「ギュアァッ!」
慈愛神の声と共に竜が動き出した。
バサアァッーー! と翼を広げこちらを見る。それと同時にものすごい強い風が俺の方へ押し寄せてくる。
「うおぉっ!? っ、ぶねぇ!」
俺は咄嗟にしゃがみ込んだ。俺の頭上を突風とも言える強烈な風が通り過ぎる。
あれ? ひょっとして直撃したら下手し俺死ぬんじゃね?
そう思う手汗や冷や汗がダラダラと流れてくる。
服が汗でビショビショだ。早く着替えたい……
その前にあのバカでかい竜から30分間も逃げなきゃいけないんだが……
ん? なんか竜の口に光が集まってるような……まさか……
「ギュアァッーーーー!」
「うわああああぁっーー!」
次の瞬間、最悪なことに予想していたことが見事に的中した。
俺の身体ギリギリを光の光線のようなものが通り過ぎたのだ。
おいおいおいまじか! 死なない程度ならなんでもありかよ! いや、どっかで死ぬよなこれ!
もうやけくそだ! やってやるぞおおおお! ああぁ怖ええええぇ!
その後俺は何度も竜に光線を放たれながらもなんとか(3、4回ほど服とズボンをパンツごとかすった)30分間を逃げ延びた。途中火炎弾みたいなの放ってきやがって辺りの地面が炎の海になって焼き死にかけたけどな!
「はぁ、はぁ……」
もはや着ていた白いシャツがボロボロである。帰ったらフェーネに謝らないとな……
てかもう帰りたい。そしてフェーネに癒されよう。そうしよう。
「第1の試練お疲れ様です」
そう言い、酒神ことミラシィ様が俺に飲み物を差し出した。うん、味はアクエリアスだ。むちゃくちゃ美味しい。
運動後の飲み物はやっぱこれだよな。
「第1の試練よくぞ耐えました。これであなたは体力とスタミナが少し上昇したはずです」
「そう、なんですか?」
身体を見るに特に変化はなさそうだが。
「目に見えては分かりません。ですが……そうですね。これから第2の試練を兼ねて試してみましょう。ミラシィ!」
「はい姉様!」
ミラシィ様が返事し、俺の方に近づいてくる。
「カズキさん、ちょっとそのカードを貸してもらえませんか?」
「え? あ、はい分かりました。オープン」
意図が分からないが俺はアイテムボックスから取り出し、ミラシィ様にカードを全て手渡す。ちなみにさっきの卵の魔物もこのカードの中に入っている。
「姉様、おっけーです!」
ミラシィ様の言葉に慈愛神が頷く。
「では、これより第2の試練を始めます」
「へ?」
次の瞬間、先ほどまでほとんどまっすぐにしか続いていなかった道に新たな道が出現した。どういうこと?
「あなたにはこれからこの道を通ってもらい、私が用意した魔物と戦ってもらいます」
「え? ちょっ……カードは……」
「あなたのカードは使うべき所へ進むまで使用禁止とします。バトルフロアは5バトルまであります。それでは……始め!」
途端、辺りの雰囲気が一気に変わった。ほのぼのとしていたものから張り詰めた雰囲気へと。あと何やらご丁寧にBGMのようなものも流れている。試練にぴったりの音楽だ。
バトル1/5
「ん? あれは……」
そう思いながら進んでいると視界に何かが現れた。あれは確か……
くりっとした目にちっちゃな尻尾。手足はなく、口からはチラリと舌を垂らしている。
「ツチノコ! ……じゃなくてチュロリアだな」
まさかこんなところでまた会うとはな……俺を初見でボコってきたある意味因縁のある相手だ。
てか、カードないけどどうやって戦うんだ?
「あの、慈愛神様。どうやって戦えば宜しいんでしょうか?」
しーん。俺の声が辺りに響き渡るだけで返事は何も返ってこない。え?嘘だろ?何か言ってくれたり武器とかくれないの?
「チィーーー!」
「うおっ! あぶね!」
真正面から頭突きをしてきたチュロリアを左に動いてかわす。
そしてチュロリアはそのまま奥へ突っ込み、花壇の中へと入り込んだ。
抜け出せないのかピクピクと尻尾が動いている。
初見の時はお前にやられたが今度はそうはいかねぇぞ!
「っ!」
するとチュロリアは花壇に突っ込んだままそれを持ち上げ、態勢を立て直した。
って、顔面花壇になってんぞ!?
「フガ、モガ、グモッ!」
それでも構わずチュロリアは俺に突進してきた。
俺は今度は右に避け、ついでにチュロリアの尻尾をギュッと掴んだ。
そしてそのまま上に振り上げーー、
「ふんっ!」
「ブッ!?」
頭にかぶってる花壇ごとチュロリアを地面に叩きつけた。
ガッシャーン! と甲高い音が辺りに響き渡る。
そしてチュロリアは地面にへばったまま姿を消した。
「……勝ったってことでいいのか?」
呆気なく終わったからかちょっと拍子抜けしていると次の道が出現した。あ、ほんとにいいのね。
バトル2/5
「グルルルル……」
先へ進むと今度は頭に犬耳を生やした魔物が剣を持って立ちはだかっていた。
てことは今度はコボルトか?
おいおい、もうこいつは素手じゃ流石に戦えねえぞ。どうするんだよ……ん?
ふと入口のそば置いてある燭台を見るとそこに銀色の短剣が置かれていた。
「これで戦えっていうことか」
俺も剣を握り、コボルトと対峙する。
互いに睨み合いつつ、じりじりと距離を詰めていく。
と、手慣れた雰囲気を出すが完全に素人だ。剣なんて全く扱ったことがない。
「グルアッ!」
と、次の瞬間コボルトは一気に間合いを詰めて俺に近づいてきた。そのままひと突きにするつもりか?
ちなみにこういう敵の行動はRPGのゲームをよくやっていたから割と知ってたりする。
ガキンッ! 高い金属音が鳴り響く。
「っ! くっ!」
一瞬、重い衝撃が剣にのしかかる。
あれ? でも思ったより軽いぞ? ほいっと。俺は突き飛ばすようなイメージで剣に力を加えた。
「グッ!?」
コボルトは驚いた表情で後ろへ弾き飛ばされた。へ? 俺こんなに力あったっけ?
……そうか! あの最初の試練か!
そういえば追いつかれた時食われそうになったのを必死に手であの竜の口を押さえていたっけ。あれも今の俺の力に繋がってるのか……なんだかんだ最初の試練は俺の身体強化イベみたいなものだったんだな。死にかけたけど。
「グオオッ!」
コボルトが態勢を立て直し、再び剣を構えて突進してきた。
今度は受け止めず、しゃがんで姿勢を低くし、コボルトの剣を避けた。そしてそのままコボルトの足に剣をぶっさす。初めてだったが割とうまくいった。
「グオオッーー!」
グシュッという音と共にコボルトの叫び声が響き渡る。それと同時にコボルトの足から血がブシュッと吹き出す。うわ、この感触気持ち悪いな……いくら獣といえど刺したのが初めてだからか……?
精神的に参る人もでるってラノベに書いてたから気をつけないとな…。
そう思っているとコボルトは地面に膝をつき、そのまま消滅した。
それと同時に次への道が出現した。
バトル3/5
今度は馬に乗った騎士が行く手を遮る。あれはボブから聞いたことがある。確かシャルベイというライダーナイト種だ。一度ユーフィ達と古い塔を探索した時に出会ったことがある。
俺は辺りを見渡す。そこそこ広い場所で地形は円型。
この場合確かシャルベイは弧を描きながら移動し、レイピアを振り回してくるはずだ。
「まずいな……」
馬の脚はもちろん早いだろうし、あの騎士の銀の鎧も当然硬いだろう。
シャルベイは物理攻撃、つまり剣や拳によるダメージをほぼ無効化するため、この場合は魔法攻撃が有効打だ。
だが、俺は自分でも分かっているが属性魔法がほとんど使えない。
てことはだ。やつに有効なダメージを与える攻撃がなく、倒せないということだ。
くっ……あのカードがあれば倒せるのに。
いや、これまで俺はあのカード……ミラシィ様の力に頼りすぎていたのかもしれないな。
これまで色んな魔物が現れたが全てカードの力を借りている。決して自分の力じゃない。あの神様の力だ。
けど神様から力をもらってもなお属性魔法が使えないのは恐らくそれは自分が何も努力していないからだ。ラノベみたいにすぐ使えるなんて上手い話普通ありえないからな。……逆に言うとラノベにはガンガンあるけど。
「……久しぶりにやってみるか」
分かってはいるがあの魔物にダメージを与えられるのは魔法攻撃だけだ。やるしかない。
手を広げ、血流を指先に込めるように意識する。
そして頭の中でイメージする。
「炎よ……槍と化し、焼き貫け! 炎槍!」
シャルベイに手を向けて唱える。するとしゅぼっとライターの火くらいの大きさの炎が放たれた。
うっわ、やっぱり弱えぇ!
「フーーー!」
そしてシャルベイが乗る馬が鼻息自身に近づいてきたその炎を消し去った。
ですよね! うん、知ってた!
「ヒヒーン!」
次の瞬間、馬が声をあげ、俺の方に向かって猛突進し始めた。もちろんシャルベイはすでに槍をブンブンと横に振り回しながら。
「これ、詰んでるくね?」




