第23話 アレスの行方、謎
その頃、フィアスは家にいた。
更にいうと二階のベランダから外を眺めている。
「……はぁ」
和樹さん、今日お出かけかな? 朝宿屋に行ったけどいなかったし、どこに行ったんだろ……? まだあの時のお礼も言えてないんだけどなぁ……
あ、もしかして昨日の子とどこか遊びに行ってるのかな?
だとしたら今日はやめとこうかな。
……でも、なんか寂しいなぁ。
そう思っていると背後から突然、誰かに抱きつかれた。
「きゃっ!」
「フィ〜アス! どうしたの? そんなに寂しそうな顔して」
「っ! シェルカ姉さん……」
背後から抱きついたのはフィアスと同じ白い髪でショートカットの女性だった。その顔は利発そうなイメージを連想させる。
名はシェルカ・アストレイン。アストレイン家の長女でフィアスのことを大切に思ってくれてるうちの一人だ。
両親はフィアスのことを放置しているため、フィアスにとっては甘えられる数少ない相手だ。
シェルカははっと何か思いついたような表情をし、それからニヤニヤとしながらフィアスに言った。
「あっ、もしかして好きな人でもいるの?」
「っ!? そんなことないよ!」
シェルカの言葉に思わず顔を赤らめて叫ぶ。なぜかこの時、咄嗟に和樹の顔が浮かび上がり、あまりの恥ずかしさに顔を隠したのだ。
別に好きだとかいう理由で頭に浮かんだ訳じゃない、はず。
ただ何故か咄嗟に思い浮かんだのが和樹だった。ただそれだけ。
「そう? でも最近のフィアス、なんか楽しそうだよ? と、思ってたら今度は寂しそうな顔してるし、お相手がいるのかなーって思ったんだけどなぁ」
「っ……和樹さんはそんなんじゃないです」
「へぇ〜? その子、和樹って名前の子なんだ?」
「っ……! 少し風に当たってくる!」
一方的に告げ、その場から逃げ出すフィアス。そんな妹の姿を姉であるシェルカは微笑ましい表情で見ていた。
あれから、俺達は他の魔物に遭遇することなく無事外へと脱出出来た。いや、この場合無事とは言えない……
「おい待てユーフィ。どこに行くつもりだ?」
「離して! まだ中にいるアレスを助けないと!」
そう、俺達を逃してくれたあのアレスがまだこの塔の中にいるのだ。しかも1人で。
「やめとけ、今行くとお前もあの紫色の怪物の餌食になるかもしれねぇ。だからひとまずギルドに報告……」
「ボブはアレスのこと心配じゃないの……?」
ユーフィがそう言った途端、妙に辺りが静かになる。
「んなわけねぇだろ……!」
拳をブルブルと震わせるボブ。きっと今すぐにでもアレスを助けに行きたいはず。
なら、俺が行くか……? このカードがあればなんとかなるはず……
「和樹さん、変なこと考えちゃダメですよ?」
「……分かってる」
どうやらコレットには俺の考えがお見通しだったようだ。
そうだな。今行くと確かにあの紫色の怪物と出くわすかもしれない。
しかもあの怪物のことを知る者が俺たち の中にいない。そんな今、下手に行動するわけにはいかない。
けど、アレスは今もこうしてたった一人で魔物と戦っている。そう思うと、じっとしていらずになんかいられなかった。
だがくしくも、その後俺達は苦渋の末に一度ギルドに報告しに帰ることにした。
そしてすぐにベテランの冒険者や調査員達が派遣された。
一階から五階の隅々まで捜索され、ユーフィ達が見つけたものの他にも大量の品物が見つかった。そのほとんどが古く錆びた生活用品だったのだが、稀に絵画や壺なども見つかった。
塔に住み着いていた魔物達もみなベテランの冒険者達によって討伐され、ギルドは今度また同じことが起きないよう廃墟などの古い建物への調査は今後、ベテランの冒険者以外禁止とみなされ、自体はことなきを得た。
ただひとつ。アレスがどこにも見つからなかったことを除いて。
その日の夜、宿屋で丸いテーブルを囲んで座る4人の姿があった。
「……」
誰も言葉を発さない。そりゃそうだ。今日5人でクエストをやりに行ってあんな事が起きたんだ。こんな時に平然としてられる訳がない。
俺たちの囮になって行方不明になってしまったアレス。
このまま見つから……
「……あたしのせいだ」
誰かがポツリと言った。ユーフィだ。
「……お前のせいじゃない」
と、否定するのはボブ。
それを聞いた次の瞬間、ユーフィは机をバン! と叩いて立ち上がった。その目には涙が溢れでていた。
「んな訳ないでしょ!? 全部あたしのせいよ! あたしが! 今日みんなを集めてあんなとこに行ったからアレスが! あんな所にいかなければ良かったのよ!」
「だからお前のせいじゃない!」
「そうだよユーフィ!」
ボブに続き、コレットも否定する。
それに対して俺は何て言ってやればいいのか分からず、ただじっと聞いていた。
「でもっ……! あたしがアレスをっ……!」
両手を顔に当て、叫ぶユーフィ。
「……すまねぇ和樹、こんなことになっちまって。お前は先に帰ってろ」
「え? でも……」
俺が言おうとした時、ボブの顔には頼むという風な表情が出ていることに気づき、口を噤んだ。
「……分かった。2人とも、あとは頼む」
俺の言葉にボブとコレットは静かに頷いた。
これからどうしようか……そう思いながらなんとなく外の風に当たりたくなり、宿屋を出た。
と、そこで少年とすれ違う。俺と同じくらいの歳だ。赤い髪色の……赤い髪?
「っ!?」
俺は思わず後ろを振り向く。と、向こうも俺のことを見ていた。
「え? あ、アレス……?」
いや、見間違いだ。こんな所にアレスがいる訳がない。そう思い、この場を去ろうとする。
その時ーー、
「和樹?」
「っ!?」
振り向くと声の主は赤い髪色の少年だった。
俺は思わず彼の元へ駆けつけた。
「……本当に、アレスなのか?」
俺の問いに彼はコクリと頷いた。
俺はすぐにアレスを連れてみんなのところへ行った。
「あ、アレス!?」
真っ先に驚いたのはユーフィだ。目をむき出しにしてアレスを見ている。
そしてアレスと分かるや否やアレスに抱きついた。
「おいおい、本当にアレスなのか……? 偽物とか……」
「そんな訳ないわ! ずっと一緒に過ごしてきたんだから見間違えるはずないもの!」
そう言いポロポロと涙を流すユーフィ。
「無事に戻って来て良かったです。でもどうやって戻って来たんですか……?」
確かにそれは思う。あの時、馬に跨る騎士の魔物に加え、紫色の怪物もいた。そんな中、一人でどうやって切り抜けたのか。
「いやぁ、それが……俺にもよく分からないんだ」
「……え?」
「おいおい、まさか記憶喪失か……?」
ボブが表情を険しくする。
「いや、そうじゃなくて、実は俺、いつのまにか気を失ってたらしいんだけど気づいた時には塔の近くにある森にいたんだ。さっきはそこから歩いて帰ってきた」
「……不思議だな」
気づいたら森の中にいた? どういうことだ? 確かにアレスは塔の中にいた。それがどれをどうして森に……?
「いいじゃないそんなの。アレスが戻って来たんだから」
「そうだな」
ユーフィの言葉に俺たちは頷いた。
あのあと俺はみんなと別れ、宿屋に泊まり、疲れた体をなんとか動かして夕食と風呂を終え、ベッドに寝転がった。
「……疲れた」
今日は本当に疲れた。そして危なかった。全員帰ってこれたからいいものの下手すれば……
いや、もうこれ以上考えるのはやめよう。全員帰って来れたんだから。
ただ、1つ。アレスがどうして森の中にいたのか、それが気がかりだった。




