第10話 2日目の旅と青年
ミール街を出て2日目。
「……えっと、和樹さん。大丈夫ですか?」
と、御者台に座り、馬を操りつつ俺に話しかけるフィアス。
「え? あ、だ、大丈夫だ……」
「その割には目にくまができているような……」
まじか……宿屋に着いたら鏡で確かめないとな。
どうしてこうなったかというと、結局俺は昨日のことが頭から離れず、ずっと朝まで考えていたのだ。
そう、昨日の夜どこからともなく俺の部屋に現れたあの人形のことを。
これは夢。確かにそうかもしれない。と、朝までの俺は考えつつ頭のどこかでそう思っていた。
だが宿屋を出た途端、その考えは変わった。
ちょうど俺が昨日の夜落としたと思われる辺りの地面に砂で汚れていたが緑色の帽子が落ちていたのだ。更にその帽子の上には赤い羽根のようなものが付いていたのだから間違いない。
しかし、フィアスに聞くとそんな人形のモンスターはこの街の周辺にはいないらしい。ますます謎だ。
「和樹さん、少し横になっててもいいですよ。この辺はあまり魔獣や魔物もでませんし」
「え、でも……」
「和樹さん昨日あまり眠れてないですよね」
「うっ……」
バレてたか……
フィアスはそんな俺の考えを読み取ったのか続けて言う。
「そりゃあ和樹さんの顔を見てたら分かりますよ」
そんなにひどいのか……だとするとあまり人には見せられないな。
「ですから少し横になっててください。私が見てますから」
「……分かった、ありがとう」
どちらにせよこのまま寝不足が続いたら身体に悪いのでお言葉に甘えて俺は横になった。やはり疲れていたのか俺はすぐに意識を失った。
あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか。
次に目を覚ましたのはフィアスに叩き起こされた時だった。
「和樹さん! 起きて下さい!」
慌てた表情で俺に叫ぶフィアス。辺りはたくさんの木々に囲まれている。どうやら森に入ったようだ。
「ん……どしたんだフィアス……っ!?」
身体を起こし、フィアスが見てる方を向くとここから少し離れた木の下で1人の青年が4匹の狼に囲まれていた。
ブラウン色の髪に目鼻立ちの整った顔。なかなかのイケメンだ。
青年は4匹の狼に囲まれてながらも怖じけずに腰に身につけていた剣を構えていた。
「フィアス、あれは……」
「あれはシルバーウルフです。召喚された子ならともかく野生のシルバーウルフは気性がやや荒く、集団で1つの獲物を襲います! 早く助けに行きましょう!」
そう言い、2つの剣を構えるフィアス。
俺もポケットからカードを取り出した。
えとなんて言うんだったけ……そうだ!
「アーリーを召喚!」
アーリーがカードの中から登場し、指示を頼むと言わんばかりに俺を見上げる。
ちょっとは慣れてきたかな。言葉も省略したが問題はない。
目の前に黒い煙が現れ、その中から姿をあらわすアーリー。
「アーリー、向こうにいるシルバーウルフをなんとかしてくれ」
するとアーリーは任せて! と言わんばかりに俺に敬礼をし、青年の方へ向かうフィアスを追った。
「氷よ……二つ剣に宿れ。っ!」
走りながら詠唱するフィアス。途端、剣の周りに氷がまとわりつく。
そしてその氷をまとった剣の腹を近くにいる2匹のシルバーウルフの身体に当てる。
するとたちまちシルバーウルフの身体が足元から頭の近くまで凍りつき、身動きが取れなくなる。なるほど、しばらく動けなくするために剣に魔法をかけたのか。
俺がフィアスの戦いを見ているうちに1匹の狼が白目を剥きながら遠くへ吹っ飛ばされるのが見えた。アーリーがやったのだろう。
そして最後の1匹は青年が狼の噛みつきを避けつつ、心臓を突き刺したことで動かなくなった。
あぁ、俺も直接戦いたい……
その後俺たちは青年を乗せて馬車を走らせた。しばらくすると広い平野へ出る。
「いやーありがとう君達。おかげで助かったよ」
あっはっはと笑いながらそう言う青年。
「無事で良かったです。そういえばあなたは……」
「あぁ、僕? 僕はリブル・アストロン。リブルって呼んでくれ」
「私はフィアス・アストレインです。フィアスでいいですよ」
続いて俺も名乗る。
「俺は斉藤和樹。和樹でいい」
「へぇ、珍しい名前だね」
自己紹介も終わったところで俺はリブルに尋ねた。
「リブルはどうしてこんなところに?」
するとリブルは頭を掻きながら言う。
「いやー実は王都にいる男爵様にお届け物があってここまで来たんだけどいつの間にか地図をなくしてね。探し回ってたらいつの間にか野生のシルバーウルフに囲まれてた」
そう言い再び笑うリブル。そんな彼の能天気さに俺もフィアスも思わず苦笑した。
ついでに目的地を尋ねると俺たちと同じ
アステムという街だったので一緒にそこまで行くことにした。
「へぇ、和樹って召喚魔術が使えるのか。それも魔法陣を描かずに紙の中から。すごいね」
そう言いまじまじと俺を見つめるリブル。やめい! 俺にそんな趣味はない!
「紙じゃなくてカードな。といっても俺自身、剣は扱えないし属性魔法もまともに扱えないから何もないけどな」
「それでもすごいよ。僕が言うのもなんだけど人間、良いところも悪いとこもあるからあまり気にしなくてもいいと思うよ」
「そういうものなのか?」
「そう!」
初対面にもかかわらず俺はリブルとの話が盛り上がっていた。
なんかいいなこういうの。どこか懐かしさを感じる。
「和樹さん、リブルさん。もうすぐ着きますよ」
そうこうしているうちにアステム街に着くのであった。
アステム街は王都に近いのもあってかなり人が混むらしいのだが、日が暮れてきたせいかそこまで人通りは少なく、露店の近くを数人の人々が歩いているだけであった。
「あっ、僕はここでお別れかな。このまま王都へ向かうから」
「え? でももう日も暮れてきてるし宿屋に泊まった方がいいんじゃ……」
「早めに届けて欲しいって言われてるからそれは無理かな。ありがとう2人とも。世話になったよ」
「またなリブル」
「リブルさん、お元気で」
そう言うとリブルは俺たちに背を向け、歩き出した。オレンジ色に染まった夕日がリブルの後ろ姿とやたらマッチしていた。
リブルの後ろ姿を見届けた後、俺たちは宿屋に泊まった。食事と風呂を終え、自分の部屋に入る。
「っ!」
と、そこで俺はふと昨日のことを思い出し、辺りをくまなく見た。
「……テーブルの下に天井にテレビの裏……あとベットの下……よし。何もいないな」
結局これといって怪しそうなものは一つもなかった。まぁ普通そうだよな。
そういえばフィアスの部屋は大丈夫だろうか。あと他の部屋とかも。うーん、心配だけど全て確認って無理だしなぁ……
その時、バンッ! と言う音が部屋の外から聞こえた。そしてドタドタという足音がこちらに向かってくる。
「っ? ……ってフィアスか「和樹さぁん!!」うおっ!?」
俺の部屋に入ってきたのはフィアスだった。何故か涙目になっている。
そして彼女は部屋に入ってきた勢いのまま俺に抱きついてきた。
ちょっと待て! 近い近い近い! 近すぎる!
しかも何やら柔らかいものがむにゅんと俺の胸に押し付けられる。思ったより大きい。フィアスって見た目は小さく見えるけど着痩せするタイプだったんだな……じゃなくて!
「落ち着け! そして離れろ! 何があったんだ!?」
俺はこのままにしたい気持ちをぐっとこらえ、フィアスの肩を掴んで引き剥がした。
ひっく。と、喉を鳴らしながら呟く。
「……でました」
ん? 何が?
「……焦げ茶色の虫」
「っ……?」
疑問に思った俺はひとまずフィアスを俺の部屋におき、俺は隣にある彼女の部屋に入った。
「まさか……こいつ?」
確かにフィアスの言う通りテーブルの下に奴はいた。
焦げ茶色の奴。
家庭の奥さんに害を及ぼすあいつだ。
「まさかこんな異世界にもいるとはな……」
家庭の天敵はどこにでもいるようで思わずため息をつく。とりあえずティッシュで奴を捕らえ、窓を開けて外に逃がした。今日は一階の部屋だから地面に急降下することもないだろう。
普通、あの場面に遭遇したら殺すのが一般的なのだろうが俺はあえて逃がした。例え嫌われ者でもあまり必要以上に殺したかなかったからだ。
ひとまずこれで解決だろう。
「フィアスー追い払ったぞ……っ!?」
「すぅ……」
あの短時間の間(ゴキブリを逃す間)にフィアスは俺のベッドにある枕を抱き枕にして眠っていた。
まじですか。お嬢様。
仕方なく俺は気持ちよさそうに眠っている彼女に毛布をかけると部屋を出て、フィアスの部屋で寝ることにした。
強いて言うなら俺も一緒に入って寝たか……なんでもないですはい。




