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どんなに頑張ったとしても努力は報われないという事はいくらでもある。それを現すように、チビの打率はめりめりと減っていき、今では打率が.158という誰が見ても不調だと分かるまでに落ち込んだ。彼は何故、ここまで成績を落としてしまったのか。その理由は打った時の感覚が悪いのだと考えていた。
そもそもバッティングの感覚はヒットを打てたかどうかで判断は出来ない。どうやってヒットを打てるのかと打席で考えた上で、自分の納得する答えが導き出された時、始めて自分の中に爽快感として現れる。それがヒットか凡退かは関係なく、ようするにヒットを打てるだろうという確信を持ってバットを振れればそれでいいのだ。
しかし、今のチビにはそれがない。打席に立っても「どうせ、ヒットなんて打てやしない」という妄想に陥り、ヒットを打つ事が困難になってしまっている。実際にどうやってもヒットが打てないのでチビの苦しみはより強固のものとなってしまう。これだけ努力をしているにも関わらず、何も変わらないというのは辛いものだ。
この感情は誰もが体感したであろう感情であり、プロ野球選手か否かは関係ない。人間ならばどうしても壁にぶちあたる瞬間は訪れる。プロ野球選手は特にそのタイミングが何度も訪れるという、もはや職業病と化しているかもしれない。それだけ、努力が報われない事は誰しもが感じている感情だという事だ。
しかし、何故か自分だけが報われていないんじゃないかと錯覚に陥ってしまう。それが今のチビだった。周りの顔なじみの打者は2軍だが打率.300を超えている強打者ばかりであり、2軍の中ではただ一人、チビだけが打率1割と低迷してしまっている。これでは「周りは結果を残しているのに、どうして僕だけ」という悲観的な思いが出てきてしまって当然だ。
彼の苦悩は一体、どうすれば克服されるのか。全く分からない。しかし、壁を超えない限り人は成長出来ないので克服せざる終えない。22世紀最強の5ツールプレーヤーを目指す彼が、こんなところで立ち止まってはいけないのだ。
 




