030 絶不調
「はあ……憂鬱だなあ、行きたくないな」
チビはそう思っていた。どれだけ頑張っても結果が出ずに精神的に病んできたのだ。と言っても、まだ軽度の段階なのだが、それでも倦怠感が出てしまっているのはちょっと危ない。嫌だという感情があれば自然と集中力が切れてしまい、プレーにも大きく影響が出ざる終えない。
「おい、チビ君。もうすぐバスが出発する時間だぞ」
寮内で行きたくない行きたくないと唸っていると、パコが部屋を開けて迎えに来てくれたではないか。同期入団なのでライバルと言えばライバルなのかもしれないが、このようにパコはまるで友達のように接してくれるのだ。精神的にはとてもありがたい事である。自分は一人で戦っているのではないと少しの間だけでも思わさせてくれる故に。
「あ、うん。分かった」
「もたもたしてると遅刻しちまうぞ」
チビは落ち込んでいる時は猫耳を閉ざす癖があるので、恐らくパコに気持ちを見好かれていたのだろう。バスに乗って遠征先に行く道中、隣の席で何があったんだと話しかけられたではないか。もうチビはずたずたにプライドを引き裂かれた状態であるため、何かも打ち明けるかのように喋り始めた。
「結果が出なくて不安になってるんだ」
チビの打率は現時点で.155。しかもこれは2軍の成績なのだから誰にも擁護しようがない。1軍でこの成績なら年齢的にも「どんまい」の一言が聞けたかもしれないが、これは2軍での打撃成績である。どう考えても「どんまい」の一言では済まされない。チビも動揺してしまうのも無理はない。
「24タコか。大不調だな」
パコはウェアラブル端末でチビの成績を確認していた。例え2軍選手だろうが、今の時代は成績がインターネットに載っているのだ。
「どうやってもヒットが出なくて……」
「さて、どうしたものかな」
一緒になってヒットを打つための秘策を考えてくれるのはとてもありがたい。孤独じゃないという事だからだ。
「毎日練習してるのに、一行に上手くなる気配が無いよ」
チビはそうだと言うのだった。




