雄山羊の災厄
第一幕
柱は聳える ただ有る様に 柱は佇む 当然のように
柱は据えられている 安寧のために 支えるために
雄山羊は向かう 柱のもとへ 安らぎを得るために 雄山羊は微睡む 安寧の永遠を盲信のままに
雄山羊は貪る 柱の安らぎを 無限だと信じて
種は撒かれた 柱の中に 崩壊させるための病の種が 盲信を打ち砕く黒花の種が
誰もそれに気づかない 最初に気づくのが柱だとしても 柱は無音に聳えるだけ 音を発することは柱には出来ないのだから
風は吹かない まだその時ではない 種のままでは吹き散ってしまうから
無風の時は続く しかし、終わりは定められている 種が芽吹くまで 蕾となるまで
その時が訪れれば、風は吹く 吹きすさぶ 嵐となる その時まで無風のまま
月は光る 月光を放つ ただ静かに 柱に蒔かれた種を育てている
雄山羊に平穏を与えている 柱の影を映している 今はまだ伏している時
今はまだ照らしている時 終わりが定められた時が訪れるまで
仮面の男は待っている 思考をその下で巡らせている 思い描くシナリオをその通りに動かすために 結末を想定している
逆算し、手中に収めるために 戯言の中に隠しながら 奪われたものを取り戻すために
第二幕
柱は気づいている 中に植えられた種が芽を出していることを 自分にはそれを止める術が無いことを
柱は根付かれている 捲かれた種が育ち、黒花を咲かせることを 災厄の始まりであることを
柱は聞こえていた 蒔かれた種は仮面の男によるものを その嘲笑う声を
月は照らしていた 柱に蒔かれた種が芽吹き、柱に根付き、花を、黒い花を咲かせるまで
ただ静かに しかし、確実に 全てを照らしながらを 抑えることはしなかった
風が運ぶ暗雲 それが雄山羊を覆うまで 月はただ照らしている
鴉は飛んでいた 災厄を告げるために 先駆者として向かっていた
安寧を食む盲信の雄山羊へと 風がもたらす災いを告げるために
雄山羊が聞くか知るか理解するか それは鴉には関係の無いこと
自分はただ告げるだけ 仮面の男による想定された招獄の時を
風はまだ吹いてない だが、時は近づいている 鴉が雄山羊に告げた時
その時こそ 風は吹き始める 嵐となる時へと その時を待ち続ける
雄山羊の平穏を奪い去るために 安寧を崩壊させるために 喪失をもたらすために
種は育っている 柱の中で着実に 柱の中を崩しながら根を伸ばしている 四方八方へと
柱を覆うように根を広げている 侵食するように 黒い花を咲かせるために
花が柱の表面へと咲き誇る時 それは、喪失の嵐が雄山羊へと吹き始める時
第三幕
鴉は出会った 雄山羊へと 鴉は告げた 災厄を
これより訪れる嵐 それにより、雄山羊の安寧は喪われる 逃れることはできない ただ喪い 奪われるのみ
嵐による恐怖が雄山羊を覆う 暗雲が月光を阻む 誰も雄山羊の声を聞かない
雄山羊の声は誰にも届かない 嵐が過ぎ去る時まで
災厄を告げた鴉は飛び去って行った 雄山羊はその声を聞いていなかった
雄山羊がいつものように柱のもとへと歩み始めた時 踏み始めたその時、風が吹き始めた
風が吹き始めた 時が満ちたことを告げられたから 鴉と雄山羊が出会ったから
鴉とすれ違うかのように 風は雄山羊へと吹き出した 嵐となるために 安寧を奪うために
暴風が吹き荒れる 雄山羊を攻め立てるように 木々が押し倒される 根本から引き抜かれて
嵐に煽られ倒木が乱れ舞う 雄山羊の周囲を飛び交う 危険と隣り合わせるかのように
嵐による暴風の中、雄山羊は柱の元へと歩む 恐怖と隣り合わせになりながら
柱の元へと辿り着いた雄山羊は驚く 見慣れぬ黒い花が柱を覆い尽くしていることに
伸ばされた蔦や根が柱に絡み付いている 柱にはひびが入っている 老朽化したように
嵐による暴風の中、柱に絡み付いた黒い花は妖しく咲き誇っている
黒黒と美しい花びらを 災厄の嵐の中で 自分が主人であるかのように咲き誇っている
嵐に煽られ乱れ舞っていた倒木が 黒花に絡み付かれた柱に直撃する
ひびが入っている柱には、避ける術を持ち合わせていない ただ打ち砕かれるのみ
崩壊する柱 悲鳴を上げる雄山羊 黒花は嵐の中、ただ妖しく咲き誇る
暴風に吹き飛ばされることなく 千切れてしまうこともなく 寄生していた柱が崩れているとしても
柱の跡に新たに根を下ろす 地中に根を張り巡らす 妖しく揺れ動きながら
雄山羊に喪失の嵐が攻め立て 黒花が咲き誇る その最中
嵐による暗雲に遮られながらも、月はただ静かに全てを照らしていた
花が咲いたことに 柱が崩れたことに 勝利を確信した仮面の男は、手にしたグラスを傾ける
酔い痴れたかのように、ただ高笑い 敗者となった雄山羊を冷たく見下すかのように
第四幕
嵐となり、柱を砕き、雄山羊に悲鳴をあげさせた風は過ぎ去る
暗雲が流れ行き 月はただ照らす 静かに、冷厳に
崩れた柱の跡には黒花が 嵐による雫を溜らせながら妖艶に咲き誇り続ける
災厄の嵐がもたらした惨状に 雄山羊はただただ絶句する
喪失の災厄は雄山羊が味わっていた 盲信していた安寧を奪い去った
呆然としている雄山羊に 再び鴉が舞い戻る 残酷な宣告を伝えるために
雄山羊に訪れた嵐は 雄山羊の安寧を奪い去った それは永遠に喪われる
再び雄山羊が味わうことは無い 安寧の代わりに空虚が支配する
機会が訪れようとも 砂が零れ落ちるように 雄山羊に留まることは無い
終わりが訪れる時まで 永久の空虚に覆われてしまえ
鴉は伝え終えると翼を羽ばたかせ去って行った 月明かりのもとへと
絶望に襲われた雄山羊は、自分ではどうすることもできないと悟り、再び悲鳴をあげた
月が永遠に沈まない限り、月が自分を照らし続ける限り、永久の空虚が離れ去ることは無いのだから
雄山羊に同情を示すことなく 見下ろすように黒花は咲き誇る
鴉もまた月が照らす夜空を飛びかける
過ぎ去った風は休むかのように無風へと落ち着かせる
全てを静かに冷厳に 月はただ雄山羊を その全てを照らす
敗北者になり果てた雄山羊を 勝者と成り上がった仮面の男は見下し嘲笑う
勝利の美酒がもたらす愉悦に酔い痴れるかのように 奪われたものを取り返した喜びを味わうかのように
砕かれ崩壊した柱は石となり散らばる 柱の破片は再び集まることができるだろうか
集まったとしても支えるための力はすでに無い 飾りへとただ成るのみ
しかし、それこそが 柱にとって救いとなる 安寧の犠牲という贄に成ることはもう無いのだからーー




