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ベンチへと腰掛け、荷物を横に置く。ケーキには保冷の為に氷を入れてもらっている。
辺りを見回し、行き交う人々を眺める。
みんな楽しそう。 私も……、他の人からは、楽しそうに見えているのかな?
父や義姉の目をいつも気にしていた。常にビクビクしていたあの頃と違って、今はとても自分らしくいられる。
ルイーザさんと出会えて、グレッグ様にも親切にしてもらって、恵まれすぎてる。
澄み切った空を見上げて、正面に顔を戻すと、グレッグ様がちょうどこちらへと歩いて来る所だった。
「ソフィア。」
「ありがとうございます。あのおいくらでしょうか?」
差し出されたカップを受け取る。
「大丈夫だ。」
「いえいえ、そんな訳にはいきません!」
お財布を取り出し、慌てて金額を尋ねる。
「では、次回はソフィアが奢ってくれたらいい。」
「え?」
グレッグ様はそれ以上何も言わずに、ドリンクを飲んでいた。
手渡されたドリンクは、アセロラジュースだった。上にスライスしたレモンが乗っている。この辺りではごく一般的な飲み物だ。
私は、コップを見つめて、一口飲む。
いつもより、ほんのり甘酸っぱく感じるのはどうしてだろう。
また、一緒に買い物に付き合ってくれるということだろうか。 グレッグ様とまた会える。
嬉しい。
でも、私なんかがグレッグ様の休日を奪っていいのかな……。 よくない。これ以上甘えてはいけないわ。
「では、もしも、そういう機会があれば、ご馳走させてくださいね。」
きっと、その機会は訪れないだろうけど。
「あぁ。楽しみにしてる。」
グレッグ様は、なんて優しい方なんだろう。ブルーグレーの瞳に見つめられて、つい魅入ってしまった。心まで綺麗な方。
「ん? 私の顔に何かついているか?」
「いいえ! す、すみません」
いけない、失礼なことをしてしまった。
「いや、謝らなくていいんだ。ソフィア、一緒にお昼はどうだ?」
グレッグ様に問われて、私は大事なことを思い出す。
「あ!すみません! そうでした!今日は、午後から三日月亭のお仕事をお手伝いしようと思っていたのでした。誘っていただいたのに、すみません。」
私は軽く頭を下げる。
「もう大丈夫なのか?」
「はい。怪我もほとんど治りましたし、いつまでも甘えている訳にいきません。だから、今日から働かせてもらうつもりです。」
「そうか。では、あまり長居してはいけないな。飲み終わったら戻ろう。」
「はい。」
ドリンクを飲み終えると、三日月亭への帰路に着く。
手袋をいつ渡そうか、ずっと悩んでそわそわしていた。 結局、タイミングが掴めずに三日月亭の前に辿り着いてしまった。
今しかない。
「あの!グレッグ様。本日はありがとうございました。 えっと、今日の、お礼といってはなんですが、先程暖かそうな手袋を見つけたので、その、もしよろしければ使っていただければと……どうぞ。」
緊張して上手く話せない。
勢いよく手袋を渡すと、お辞儀をして急いで三日月亭へと駆け出した。
「ソフィア、ありがとう! また来週来る。」
「え?」
振り向いた時には、グレッグ様は立ち去っていた。
来週?
もしかして、また護衛をしてくれるということ?
いったいどういうことなんだろう?
聞き間違いかな……。
「ただいま戻りましたー。ダンさん、ルイーザさん、ケーキを入れていきますので、後で食べてくださいねー。」
「ソフィア、おかえり。」
「おかえり。」
お土産のケーキを保管した後、私は久々に三日月亭の仕事を始めた。




