第5話 ツッコミ・ジ・エンド――魔王の恐るべき嫉妬が襲う相手は――!?
パーティー会場(※恐るべき魔王の玉座の間)に踏み込んだ全身鎧の騎士が、怖じることもなく主たる魔王に、堂々と大声を発する。
「四天王が一人、地獣王より魔王様に、諫言を致す! 敵対せし愚かなる人間共の、中でも最たる宿敵である勇者を歓待するなど、何を考えておられるか! 食事に毒でも盛るかと思いきや、クンクン……ニオイからして、一切感じぬし! 魔王様、アナタは一体、何をしたいのか!?」
『勇者ユリシアを幸せにしたい一択』
「魔王の言葉じゃないでしょーが選択肢を幅広く持ってくださいよ、トップならさあ! ええい本当、部下の話を聞かないし、話が通じないし……ですがそれも今日まで! 今すぐ忌まわしき勇者を屠るのです。それを受け容れぬならば、我が首を取り、魔族の歴史に暗愚として名を刻むが良い! 最後にこの忠臣の名を覚えおけ、我こそアースウル・フルウォルファ・ダリオスディアマンデ・ウルクラ――」
『長いな、土属性っぽいしツッチーでいい?』
「聞けよ!! クソが!!!」
ついつい感情のままに吼えてしまう、四天王のアースウ、フォル、ディ……?
……ツッチーに、メイドのサラが無造作に声をかける。
「アース、ウ、えーと……ツッチー様、魔王様に対して不遜ですし、純粋にうるさいので静かにして頂けませんか?」
「いやツッチーと呼んでんじゃねーわ! というかメイド風情が誰に口を利いてウッウワアァァァッきっ貴様!? 水の四天王サラスヴァーティではないか!?」
「はい、まあ」
「ハイマーではないわハイマーでは! 貴様、同格の同僚がメイドなんぞやっているのを見るコッチの気持ち考えたことあるか!? 四天王だぞ我ら、国でも序列上位の由緒正しい血筋だし、人間で言えば公爵とか伯爵とかだぞ!?」
「そうは言いますが、職に貴賤など無いかと。それぞれの役割を、それぞれの持つ能力や裁量でこなすこと。そこに上下を唱えるのですか?」
「そういうこと言ってんじゃないんだよコッチは! そもそも四天王の能力や裁量でやる仕事じゃないだろが!」
「はあ、そうでしょうか」
「気が無いな返事に! 少しでもいいから興味を持てよ我の言葉に! 全員に言ってんだぞ、この場の全員に! ええい、このっ……!」
重装に包まれた握り拳にギリギリと力を籠めながら、ツッチーは問題の原点である勇者ユリシアに言及する。
「とにかく! 魔王が勇者と呑気に話していること事態、あり得ぬ! 我らは宿敵同士、今こそ干戈を交え、決着をつけるべきで――」
「……そうだよ、その通りだっ……」
「おお、我に同調してくれる者が! 何だコレすごい嬉しい! ……って、ん? あれ、貴様は……勇者?」
「そうだっ――この人(魔族)の言う通りじゃないかっ! 私、何してたんだろ……勇者として、魔王と戦わなくちゃ! えーと……ツッチーさん、ありがとう!」
「ツッチーじゃねーわ! くっ、まさか敵である勇者に擁護されるなど……というか敵である勇者しか同調してくれないとは……何だか涙が出そうだし、いっそ味方してくれた勇者に情が湧いてしまいそうだが……おのれ侮辱しおってと自らを奮い立たせて乗り切る所存。気安い口を利くな勇者、我が爪牙の餌食となれィ――!」
「はっ……し、しまった! 油断したっ……きゃあっ――!?」
敵地のど真ん中で元気一杯に油断していたユリシアに、魔王の配下――取り分け最高戦力と知られる四天王の一人が襲い掛かる――!
無防備なユリシアに、抵抗の暇はなく……されど、そんな彼女を救ったのは――!
『やめんか阿呆』
「ガルルゥ――えっ? ……ぎゃ、ぎゃわーーーーんっ!? えっ、ウソ……今、魔王四天王が魔王に蹴られて……えっそんな話ある!?」
重装鎧に包まれた巨体を軽々と蹴飛ばして、魔王配下の四天王から勇者を救ったのは魔王という――アレっ?
……とにかく、横倒しにされた身を起こしたツッチーが、魔王の暴虐へ非難の言葉を浴びせようとする――!
「な、何をなさるっ……ご乱心なされたか、魔王様――!」
『あ゛? 貴様こそ何をしようとした、俺は魔族全体に令を発し、厳命したはずだな? 勇者ユリシアに危害を加えれば、命はないと。今それに背いたのは、誰だ? 忠臣とはよく吠えたもの、貴様、俺を舐めているのなら――』
「ひっ……わ、我は、そんな……魔王様と、魔族の未来を思って……」
『――――消すぞ』
「……ひっ、ひいいっ……」
大きな図体ですっかり委縮してしまったツッチーと、凶悪な威圧感と暴悪なまでの魔力を吹き出す魔王――の間に、勇者ユリシアが両手を広げて割って入った。
「――何してるんだっ! 敵の私ならともかく、ツッチーはおまえの部下なんだろ! 仲間に乱暴するなんて、それが魔王のやることか! やることかもなぁってちょっと思ったけど……勇者として見過ごせない! やめろ、魔王――」
『わかった、キミが言うならやめる』
「判断が早い! 魔力も威圧感も一瞬で治まったし、私なんかの何がおまえをそうさせるんだ!?」
戸惑うユリシアの、小さな背中に――庇われていたツッチーの口から、自然と言葉が洩れる。
「……OH……天使……?」
「いや勇者だけど。あ、ツッチー、大丈夫か? 怪我とかない?」
「……己を襲おうとした敵を、案ずるとは……そうか、これが勇者の度量……なるほど、我が眼の方が曇っていたようだ。勇者よ……いえ、勇者殿。兜をかぶったまま、失礼いたした。……ふう」
「えっ? ……――!!?」
軽く身を起こしたツッチーが、そのまま低い姿勢で跪き、兜を外すと――露となったのは、魔族としての素顔。深い灰褐色の体毛に覆われ、魔獣の耳を生やした、面長という言葉では収まらぬ面相。
一言で表すなら、狼男だ。ツッチーが、少々自嘲気味に笑う。
「フッ……人間から見れば、恐ろしい異形と映るやもしれませぬが……これも由緒正しき上位魔族の騎士としての礼儀。暫し、ご辛抱を――」
「わ~~~モフモフ~~~♡」
「人ってそんな感じなんです? もしくはそれも勇者の度量?」
「さ、触ってもいいかな……? 犬とか猫とか、好きなんだ……でも生活に余裕がないから、一緒に暮らしたりはできなくて……」
「犬じゃないですし、狼というか、魔狼なんですが。……やめなされ、やめなされ……顔の横をモフモフするのは、やめなされ……顎の下を撫でるのも、やめなされ……くっ、我は誇り高き四天王、このような仕打ちで屈しませんぞ……!」
既に屈して〝ワン〟とでも鳴きそうなツッチーだが、その時、気付いた――己が置かれている窮地に、魔王からの尋常ならざる威圧感に。
「ん? ……――!? ヒッ……あ、あの、魔王様……?」
『…………ニッコリ』
「いや闇で笑顔とか見えませんし!? ナニコレ、上司からの威圧感、っていうか殺意の波動が直に伝わってくる感じ! 怖いんスけど!?」
「わ~、なんか鼻が湿ってる~。ワンちゃんっぽい~♡」
『ゴゴゴゴゴゴ……』
「わ、ワォーーーン!?」
嫉妬する魔王、冷や汗をかく勢いのツッチー、モフモフを堪能する勇者――三者三様、今まさに、玉座の間にて激闘が繰り広げられている――……。




