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あまりに不遇な女勇者へ、魔王が望んだハッピーエンド  作者: 初美陽一


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第10話 人間の(放っておいてもその内、勝手に終わりそうな)王

 人間側の王国で、最高権力者たる者がする王城内の謁見の間には、国の大臣や近衛兵らが多く集まり、左右に控えていた。


 赤いカーペットのかれた階段をへだてて、見下ろすように玉座に腰かけるのは、豪奢ごうしゃな衣装と赤いマントを身に付ける小太りな男――即ち人間の、王である。横には己の威勢いせい誇示こじするかのように、美女に大きな羽うちわであおがせていた。


 果たしてその王が座したまま、眼下がんかに見下ろす女勇者ユリシアを含むパーティーに対し、くだされるありがた~い御言葉たるや如何なるものか。


「ええい、魔王討伐の任を果たせぬまま、おめおめと逃げ帰るとは……魔王を滅ぼすまで、王国の地を踏むことは許さぬと言ったはずだが、忘れたようだな! ……しかも()()()()()()()()()()()()()とは、どういう了見りょうけんだ!」


「えっ」

「「えっ」」


 王の思いがけぬ言葉に、勇者ユリシアが思わず伏せていた顔を上げ、傍に控える近衛兵も怪訝けげんな顔をしていた。

 だが、そんな反応に気付くこともなく、王は得意顔で続ける。


「ふふん、大方、罰を受けるのを恐れ、雇った者でも送りつけてきたのだろうが……そのような小賢こざかしい真似で逃れられると思うな! 貴様らが使者か何かは知らぬが、所詮は忠誠など無いに等しき烏合うごうしゅうじゃろう……勇者の居場所を吐いた者には褒美をくれてやる! さあ勇者はどこだ、答えてみよ! ど~うした、答えられんのかァ~? フハハハハ……」


「……お、王よ、自分は近衛兵ですが、失礼します! 勇者はそこに――」


「ムムッ! が高い!」


「どうすりゃイイんスか一体!」


(何したいんだろ、この王様……)


 陽の高いうちから酔っ払っているのだろうか、近衛兵を叱咤しったする変な王さんに、勇者ユリシアも呆れている。しかし他の近衛兵が、くじけぬ心で別方向から告げた。


「あ、あの、勇者は、目の前におります。あの、控えている……可憐で愛らしく円らな瞳が特徴的な少女が……勇者殿です」


Uh-Hahn(アーハーン)? な~にを言っとるか、勇者はみすぼらしい少年じゃったろうが~? そんなことも分からんとか、おぬしの目は節穴ふしあなか~? Nh-Ah~Nh(ンッ、ア~ン)?」


「クッソ腹立つなコイツ……あっすいません、ハエが飛んでてついソイツに口走ってしまいました。でなくてホラ、〝裏切り者の勇者の()〟って言われてたでしょう? だから女の子ですよ、現・勇者は女の子。ていうかそういう書類とか、以前の謁見の前にも提出されてたはずですが、読んでないんですか?」


「ええい愚か者! 王族のような高貴なる者は多忙なのだ、いちいちそのようなもの読んでいられるか! というか何だ、それではまるでワシが、男か女かの見分けも付けられんような節穴の目だとでもいうようでもないか!」


「はあ、まあ……そういうことに、なっちゃいますね……」


「ふんっ、なるほどな~! やれやれ、全くぅ……勇者が女だとぉ? どらどら、どんな顔をしておるやら……ふんふん、ふぅん? ほぉ~~~ん……?」


 玉座から身を乗り出し、前のめりになって、女勇者ユリシアを凝視する。

 そんな王の口から、ぼろっと言葉が漏れ出た。


「……えっ、うせやん……めちゃ美少女やねんけど……」


「王?」


「おっと、ゴホン。……ふう、さて」


 一つ咳払いし、王は――にっこり、穏やかな笑みを浮かべつつ言う。


「よくぞ帰ってきた、うるわしき勇者よ……そなたの大切な身に何かありはしないかと、この心をずっと砕いておったぞ……何事もなく、いやむしろさなぎが蝶となったよう美しくなり帰還してくれて……心底安堵しておるぞよ……?」


(……以前の態度と違い過ぎて、心の底から気持ち悪い……)


 王たる者の高貴なる笑顔は、ニタニタと粘着質で目つきは湿っている。

 ――だが、さすが心がお広いのだろうか、まさかこの場に〝人ならざる者〟が(まさか三人も)紛れ込んでいるとは、夢にも思っていないらしい。


 さて、メイド姿の美女と、兜を外しもしない重装騎士は、()()()()()()()()に気付いていた。


「……さて、あの残念な愚物ぐぶつが人間の王らしいですが……よほど愚鈍ぐどんなのか、この空気にも気付いておられぬご様子ですね」


「……あ、主、()()()()よ、どうか落ち着いてくだされ……」


 冷静なメイドと、震え声の重装騎士の、視線の先にいる人物は、一見すると穏やかに笑っている……が、しかし。



「……フ、フフ、フ、フ、フ……フフフフフフ」



 勇者ユリシアへの悪態からの、不快な湿度の色目、それを放っている王へと――エンデは尋常ならざる威圧感と魔力と共に、えかねるような笑い声を漏らしていた。


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