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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
3章

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『決闘』 エーレvsカイ・オルドレン

 



 職員の声が最後の数字を終え、「はじめ!」とかかる。


 その声との直後――



 先に仕掛けたのは、カイ・オルドレン。

 彼は素早く膝を折って、地面に片手を付ける。すると小さな衝撃音と共に、そこから大きな岩石が、突き出していった。

 それは岩とは思えない勢いで、エーレに貫こうと牙を剥く。


 一方、剣も抜かずのままの、泰然とした様子のエーレ。

 岩の先端が彼の体を貫く直前――彼はさっと身を躱して、右へと小さなステップを刻む。

 それと同時だった。

 エーレの動きを予測していたようにーーその正面にはすでにカイがいて、彼の両手剣がエーレの足元から這い上がる。


 刃がエーレの眼前スレスレを裂いていく。まるで、エーレが一枚の紙になって、ひらりと避けたように見えた。

 そのまま彼は時計周りにくるりと回転して、カイの背後を取った。

 そのまま流れるような動作で、素早く鞘から抜いた細身の長剣を、彼の首に向けて薙ぐ。

 容赦のない斬撃に僕は思わず、片目を瞑った。



 しかし――

 鈍い耳障りな音が耳朶に響いた。エーレの長剣はカイの肌には届くことなく、見えない壁に阻まれるように、はじき返された。


 土の、結界の魔法だ。

 その結界は意思を持っているかのように、切りこまれたところから形を成し、エーレを貫こうと伸びていく。

 咄嗟にエーレはそれを躱すため、大きく後ろへ跳躍した。



 2人の間に、再び距離が空いた。



「私の守りは君ごときには崩せまい! さぁ、身の程を知らしめてやろう」



 勝利を確信した咆哮のように、カイは声をあげ、両手剣を構えた。

 応えるように、エーレが半身を逸らして、下段に剣を下ろした。


 ゆらり、と。

 脱力しているようにも見えた、その構え。

 しかし、彼の右手から伸びる剣先は、意思を持っているかのように、小さく光る。

 ミレイユに教えてもらった構えとは似ていて、異なるそのそれに、自然と目を引き付けられた。



 僕なら、あのエーレに打ち込むことは出来ない。

 隙が見当たらない。どこから刃が飛んでくるか、全く読めない――そんな錯覚に陥るような空気感を漂わせていた。


 カイは、じりっと一度、右足を滑らせると、素早く正面から踏み込んでいく。

 リーチの長いカイの両手剣がエーレを狙い、エーレはそれを躱しながら、間合いに詰め寄ろうとするも、それは先ほどと同じような土魔法で攻撃で阻まれる。

 エーレは防戦一方だった。



「大丈夫なんですか、エーレ」



 カイは魔法を使っているのに、エーレが魔法を使う気配がない。

 その上、カイの魔法構成速度は、常人よりも格段に速い。



「カイは防御特化だからねぇ、エーレさんでも、崩すのには時間がかかるみたい」



 左隣でぼんやりと観戦しているシュトルツの声は、暢気なものだった。



「あの人まだ土魔法しか使っていませんよね?

 どうしてエーレは、断絶で魔法自体を阻害しないですか?」



 断絶の本質を持つ氷魔法なら、相手の生命力に干渉して、精霊との同調を一時的に遮断してしまうことだって、可能なはずだ。

 僕の質問に答えたのは、ミレイユのため息だった。



「あんた、光魔法の特性知らないの? 光の本質相手には、弱体阻害魔法は通じにくい。

 その上、あいつは土の精霊との親和率が高い。その親和率を上回らないと、断絶は効きにくい。

 つまり土と光の組み合わせは、氷と風にとって相性最悪なのよ」


「そんな……だから、エーレは魔法を使わないんですか?」



 魔法での相性も最悪で、開けたこの場所では、片手剣は両手剣相手には不利だ。

 魔法を躱し、結界があると知っていながら、打ち込み、弾かれて、カイの斬撃を躱す。

 エーレのバランスの取れた剣技は見事なものだったが、どうみても勝算は低いように見えた。

 思わず、暗い声が漏れ出た僕に、シュトルツが小さく笑った。



「まぁ、見てなって。エーレさんは策士だから」


「あと数分というところか」



 更に隣のリーベの平坦な声が告げる。



 ――策士?数分?


 彼らはエーレの戦い方から、何かを感じ取っているような口ぶりだ。

 思わず、首を傾げた僕の視界を、天井を突き破るように伸びていく岩石が埋めた。

 間をおかず、足元から突き上げられたエーレが上空へ投げ出されたのが見えた。

 岩石が幻だったように跡形もなく消え去り、宙を舞うエーレに向かって、カイが跳躍。



「風の本質は知ってるでしょ?」



 隣からそんなミレイユの声が聞こえたけれど、戦況から目が離せない。

 地面へと落ちていくエーレに、カイの両手剣が振り上げられる。


 途端――小さく渦巻いた風が、エーレの体を持ち上げ、斬撃を間一髪でひらりと躱した後、そのまま後転。カイの背へと、懲りずに片手剣を振るう。

 また結界に阻まれる……そう思っていた時だった――



 剣が結界に届いた衝撃音に続き、バラァンという、何かが細かく砕けるような――軽やかで乾いた破裂音が響いた。



「’’不和’’――特性として、よく使われているのは’’伝達’’。わかった?」



 異変を感じ取ったのか。カイは着地した途端、素早く振り返りながら、勢いよく一閃。

 遅れて着地したエーレが、上からそれを受け止めるかと思いきや……

 剣身を傾け、両手剣の上を滑らせた。

 そして、踏み込みと同時に体を逸らして、間合いのさらに奥――相手の懐へ飛び込む。


 咄嗟にカイが結界を張ろうとしているのがわかった。



「お前の十八番(それ)はもう砕いた」



 エーレは流した剣をそのまま手首で返し、刃先を跳ね上げるようにして、気が付けば――

 剣先はぴたりと、カイの喉元へ突き付けられていた。




 音が消えた。まるで空気が薄くなり、世界が息を呑んだように制止する。

 その数瞬は、時間が止まったような緊迫感に包まれた。




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