10.エンディングですか?
─きんこ~ん─
予鈴と同時に教室に滑り込み、席に着く。
転校してまだ日は浅いが、それでも大きな変わりがあるわけではなく。ざわつく教室や窓から差し込む光り、黒板の隅の消し損ねた線など見ると………昨日の事が夢のように思える。
実際、寝坊するほどの疲労はあったものの少々頭が重たいていど。一番深かった胸の傷はうっすら跡が残ってるが、他は完治。制服も、G.O.が新品を用意してくれた。
ぼんやりとホームルームを聞きながら、制服の袖をなぞってみる。もちろんそこには傷跡も縫い跡もない。かろうじて痕跡といえるのは、フェイクで付けた額の絆創膏。それと………
少し離れた物部の席、彼の後頭部を見る。ネットが巻かれたあの頭は、あの出来事の証左ともいえる。
それでも………
授業を受け、ぎこちないながらもクラスメートと話をしたりすれば、異常な力の事など忘れてしまいそうになる。ともすれば『シヴァルリー』の話をしたくなるほどに。
そのたびに切り取られたような孤独を感じる。自分だけが置き去りにされたような、まったく別の視点で物を見ているような、そんな隔絶。
「どうかしたか?」
昼休み。教科書をしまう手を止め、ついぼんやりしていたら物部に声をかけられた。
「いや………なに食べようかと」
「それだけどな。学食行こうぜ、学食」
授業が一日になって数日。思えば食事の選択ができるのは初めてだった。
学食……興味はあった。味、値段、食券というシステム。そしてその騒がしさ。
「そうだな」
これも経験と立ち上がったところで。ざわついた教室の中に響いた声………
「日立くーん、半井さんが呼んでるよー」
「「……」」
一瞬、時を止めたかのような静寂。
すぐに喧騒が戻るが、ちくちくとした視線が優馬に刺さる。とりわけ鋭いのが、正面から。
それを避けるように廊下へと目を向ければ、確かに冬華と………声をかけたらしき、こちらをニヤつきながら見る女生徒。
「……なんの用カナ~、彼女は」
同じく廊下の方へと目を向けて笑顔を作りつつ。こちらにだけ聞こえる物部のその声には、ある感情がこもっていた。たぶん“ヘイト”と呼ばれるものだろうな、と思いつつ優馬も表情は変えず、物部にだけ聞こえるよう答える。
「いつぞやの“お礼”を要求されるんじゃないかな~」
「そうか、お礼か~。このタイミングだと昼メシかな~」
「かもな~。いやぁ、おごらなきゃいけないのはキツいな~」
「なら代わってやろうか」
「…………」
「……………」
「あんまり待たせるのも悪いから、もう行ないとな~」
「そうか~。ところでそのお礼ってのは学食でもいいよな」
「…………」
疑問符を感じない問いかけに、逃げ道がない事を知る。
おそらく冬華はG.O.の話があって来たのだろうが………まぁ絶対にこのタイミングでなければいけないわけでもないだろう。
「な。」
念を押す、というより脅迫めいた物部の圧に、
「わかった。話つけてくるから待ってろ」
屈する形で優馬は歩き出す。
ローグ相手に戦えても、クラスメートひとりの圧に負けるとは。
(というか……)
冬華に説明しながら、ちらりと物部を振り返る。
ゲームならば間違いなく“クラスメートA”というNPCだが………それを言うなら目の前の冬華だって、“プレイヤーB”という事になる。
そうとは思えない以上、そうとは思わずに接するしかできないが。
(そんで、間違いなくここが“エンディング”だよな)
日常の騒がしさを演出して『今回のセッションはここで終了』と言う場面だ。話の続きがあるかは、わからない。
もし終わりなら、きっとどこかの病院で目を覚まし、夢だったのかと………冬華も物部もいない学校生活が始まるに違いない。
でも、もし………
「…………」
「……ユウマ?」
なんでもない、と首を振って物部を呼んだ。
冬華も、物部も。ハルやアラシも“存在”していて、現実に『シヴァルリー』が混じったこの世界が、明日からも続いて行くとしたら。
その“明日”とは、どういったシナリオだろうか……?




