0.オープニング
世紀末を過ぎ、新世紀に入って十余年。
世紀が変わったからといって、劇的に世の中が変わるわけではないと知った頃。
確かにネットの広がりはすさまじいし、スマホはいずれガラケーを駆逐するかもしれない。未来を感じるものは出てきていても、それらは広まるのに時間がかかるし、古い町並みが一瞬で近代化されるわけでもない。
ただ、まぁ……
(引っ越しってのは、未来に行くってのに近いんかね)
地方から都市部への引っ越しは。
日立優馬は胸の中で感想を言葉にし、辺りを見回した。
物心ついた時から住んでいた町を離れ、関東のそれなりに発展した町へ。これは、優馬の感覚としてはちょっとしたタイムトラベルに近い。
なにせ舗装されていない道が見当たらない。視界のどこにも畑はなく、稜線も見えない。見回せばビル、人、店。
忘れ物をした母のために駅前へと来たせいもあるが、それでも見上げるほどの建物ばかりというのはちょっと感動だ。
なにせ、高い建物といえば役場か学校だったわけで。
学校といえば、転校先の『三国高校』には“がくしょく”があるらしい。購買の他、近くにコンビニもあるらしいし、パン屋や弁当屋の出張販売に駆ける日々から解放される。といっても、高校に入ってからだから『駆ける日々』は一年だけだったが。
階段を上がり、駅前のデッキへと出る。春休みだが平日の昼間。人通りは絶えないし自動改札の音も響くというのは、やっぱり都会だとしみじみと感じながら。設置されている案内板を見て、メモしてきた母の勤務先を探した。
目指すは『オルタービル』四階、『ユニバーサル・リサーチ』という雑誌社。そこへの転勤で、この町へと越してきた。ヘッドハンティングのような形で、地元広報誌と比べれば破格の待遇と喜んでいたし………なにより都会のマンション暮らし。祖父母の家にいたが、母子二人、越してくる事に異論はなかった。
ビルまでの目印を書き足して、メモをボディバッグに戻す。案内板の前に長々といると田舎モンと思われるかもしれない、などと思ったのだが………
トレーナーとジーンズ。それに薄汚れたスニーカー。すべて元地元でそろえた物。
ダサくて浮く………むしろ沈んでるんじゃないとか思えて、そそくさと駅前を去る。学校が始まれば、新しい出会いがあるかもしれない。その前に、この町に馴染む服の一着でも用意せねば。
車の多さ、信号の多さ、そしてすれ違う人にときおり目を奪われながら目的のビルへ。肩を縮めて窮屈そうに建つ雑居ビルを想像していたのだが………。
植え込み、階段、上がった一階はカフェ。カルチャースクールやクリニックも入る、大規模とは言えないが立派な複合ビルだった。
はえぇ~…と、ついバカみたいに口を上げて見上げてしまう。何階建てだろうか?ここに来るまでにもっと高いビルもあったと思うが、一応ここは母の職場。無関係とは言えないし、これからここに入るわけだし。
いち、にぃ、さん……と、田舎モン丸出しで数えていたせいだろう。何か圧みたいなものを感じ、そちらを見た時には……───
(あ、これは死────




