表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

似合わないスーツ4

よろしければ、お読み下さい。

「こんにちは。少しお話いいですか?」

 涼太君が、塚本さんに声を掛ける。

「ど、どなたですか?……あれ、久住先生まで!」

 塚本さんは、動揺した様子で言葉を発した。

「僕は、こういう者です」

 涼太君が、鞄から警察手帳を取り出し塚本さんに向けた。涼太君の勤務する交番では、休日でも手帳を持ち歩くよう指導する方針らしい。

「警察!?」

 塚本さんが目を丸くした。久住さんも驚いた様子だ。そういえば、涼太君が警官だと紹介していなかった。


「何かトラブルですか?封筒を押し付け合っているようでしたが」

「あ、あの、俺……」

「しょうちゃん、早くこれを持って行きなさい」

 塚本さんの言葉を、女性が遮った。焦って塚本さんに封筒を渡そうとしている。『しょうちゃん』とは、誰の事だろう?塚本さん本人も、違う人物の名で呼びかけられて目を丸くしている。

「どうしたの、ばあちゃん。翔太の名前なんて口にして。翔太はばあちゃんの孫でしょう?俺は……健一だよ」

「まあ、誤魔化さなくたっていいのよ、しょうちゃん。私がしょうちゃんから借りていたお金、ちゃんと返すからね」

「え……」

 塚本さんが、訳が分からないといった表情をしている。

 今の話を聞くと、「翔太」がこの方のお孫さんの名前のはず。どうして孫でもない塚本健一さんを「しょうちゃん」と呼ぶのだろう。


「とにかく、俺は刑事さんに話さないといけない事があるから、一旦落ち着いて、ばあちゃん」

 塚本さんが女性を宥めてから、涼太君の方に向き直る。

「あの、刑事さん、俺……」

 言いかけた時、「うっ」という呻き声が聞こえたかと思うと、女性が胸を押さえて、その場で蹲ってしまった。

「ばあちゃん!!」

 塚本さんが叫んだ。

「どうしたの?また胸が苦しくなったの?」

 塚本さんの問いに、女性が苦しそうに頷く。塚本さんは、女性のズボンの前方に付いているポケットから薬らしきものを取り出すと、女性に手渡した。

 女性は薬を口に含んだ。舌下錠というタイプの薬らしい。数分して少し落ち着いたようだが、まだ息が荒い。

「念の為、病院に連れて行った方がいいんじゃないか?」

 久住さんが、心配そうに言った。

「そうですね。……ばあちゃん、病院に行こう?」

 塚本さんが優しく微笑んで女性に話しかける。

「……大丈夫よ、これくらい。少し休めば良くなるわ」

「いいから、病院に行くよ!」

 塚本さんが、険しい顔になって言うと、女性は渋々といった様子で頷いた。


 しばらくして、塚本さん、久住先生、涼太君、私の四人は公園の近くにある病院の待合室にいた。あの高齢の女性は今診察室にいる。

「……君は、あのおばあさんの孫じゃないんだよね?どういう事か、説明してくれないかな」

 涼太君が、塚本さんに話しかけた。

「僕……僕は……あの人を、騙していたんです」

 塚本さんは、悲痛な表情で告白した。


よろしければ、ブックマークやいいね等の評価をお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ