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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第6章(ム=カイ遺跡編)
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第35-2話


「まだ昼前だし、軽くでいいな」


そう言うと、ランダムさんはコーヒーと薄い肉をパンで挟んだものを出してくれた。正直、さっきから色々あり過ぎて頭が混乱してて、食欲どころじゃないのだけど。


「あ、ありがとうございます……」


「おう。お前さんたち3人……あそこで転がってる皇帝陛下を入れれば4人か。とにかくお前さんたちを連れてきた理由は、『ム=カイ遺跡』についてちゃんと知ってもらう必要があるからだ」


ナイトハルトが、不機嫌そうにコーヒーを飲む。


「失われた古代文明の遺跡、だろう?そもそも、お前は何者だ?『神』という戯言など、私は信じていない」


「なかなか頑固なヤツだなあ。エリック、プルミエール。お前さんたちはどうよ」


エリックは考え込んでいる。私にも、答えはすぐに出なかった。

確かに、この人は普通の人じゃない。それは最初に会った時から感じていた。でも、いきなり神だなんだと言われても……


エリックが口を開いた。


「分からない。そもそも、どうして記憶が戻った?」


「……いい質問だ。それはお前さんの名前だよ」


「名前?」


「そう。エリックってのは、俺の兄貴の一人の名前なのさ。そいつも『魔王』を名乗っててな。

もう存在自体消えちまったが……多分、どこかで血を引いてるんだろうな。それが俺の記憶を呼び起こした。多分」


「さっき、『一族』がどうとか言っていたな。それは、そいつもそうなのか」


どこからかお酒の入った小瓶を取り出すと、ランダムさんはそれを一口飲んだ。


「そうだ。全員で9人。うち長兄を除いた8人で、500年前の災厄を封じた。自分たちの存在と引き換えにな。

俺は、何かあった時の保険として、1人眠っていたのさ」


「分からないことが多過ぎる。そもそも『旧文明』とは何だ?そして、何で500年前から先の歴史が、全て消えている?」


「まあまあ待て待て。訊きたいことが山ほどあるのは分かるが、順を追って説明させてくれ」


苦笑しながら、ランダムさんは話し始めた。


「まず、これから先話すことは、基本的にここだけにしてくれ。理由はすぐ分かるが、要は『世界の真実』がばら撒かれることは、この世界にとって碌な結末を生まない、ということだ。

つーかもう手遅れになりかかってる。もう『1人起きている』からな」


「……??」


「まあ、それはおいおい、な。で、まず『旧文明』とは何か、だ。これ、どのぐらい前のものだと思う?」


「……1000年ぐらい前、ですか」


私の言葉に、ランダムさんは首を振った。


「残念。約5万年前だ。その頃、地球は高度な文明が花開いていてな。神も何もいなかった。

ところが、世界規模の戦争が起こった。……親父が引き起こしたものだった。そして世界は滅亡した」


「……え??じゃあ今のこの世界って……!!?」


「話は最後まで聞いてくれ。そして、生き残った少数の人間を、親父とおふくろ、そして俺ら9人の子供が導く形で文明は再建された。

俺たちは遺伝子を色々組み替えられていてね。ほぼ不老不死なんだよ。それで、数万年かけて大分土壌の浄化と人口の増加が見られるようになってきた。これが『新文明』だ。

つまり、『旧文明』とは……最初の世界崩壊の前に存在した文明ってわけさ。その施設は、あちらこちらに一部が残っている。

お前さんたちが行こうとしている『ム=カイ遺跡』もその一つだな」


……到底信じられない。しかし、ランダムさんの表情は至って真剣だ。


「誇大妄想狂の物語にしては、随分と壮大なことだな。だが、それを裏付ける証拠は、どこにある?」


訝し気なままのナイトハルトに、ランダムさんが肩を竦めてみせた。


「生憎それは『まだ』ねえな。俺自身は、兄貴たちと違って超常の力をあまり持ち合わせていないしな。

話を続けていいか?ここからが本題だ」


「……好きにしろ」


「OK、じゃあ続けさせてもらうぜ。で、そもそも『旧文明』を滅ぼしたのは、俺の親父だけじゃねえ。

世界大戦で暴れまわった、究極の兵士……超人的身体能力を以って殺戮の限りを尽くした『ターミネート・ソルジャー』の存在も大きかった。

そいつらは俺たちの手にもなかなか負えなくてな。何とか封じるので手一杯だった。そんなのが、何体か世界に存在する。そのうちの一人が、『ム=カイ遺跡』に眠っている、というわけだ」



……!!教授の言っていた「2人目」って……!!?



「教授は、それを知っていた……??」


「アリス・ローエングリン、って奴か。クロエたちの話から察するにそうだろうな。

どうやって今の事実を彼女が知ったかは分からねえ。ただ、とにかく『ターミネート・ソルジャー』を起こすのを防ごうと戦術核をぶち込んだのは間違いねえな」


「もし起こしたら、どうなるんですか」


「武器がなければ、まあ……一国が滅ぶぐらいまでになったら、活動限界が訪れるだろうな。

オルディニウムの定期摂取ができないなら、そのぐらいで済む。ただ、問題は武器、それもオルディニウムを内蔵した専用の武器を手にした場合だ。

あれは『破壊するためだけに存在する』代物だ。理性も何もありゃしねえ。止めるのは至難の業だ。

500年前に、俺の兄貴の一人が人為的に『ターミネート・ソルジャー』を作り出した時は、世界は2度目の崩壊の瀬戸際まで行ったからな」


「それで、500年前から先の歴史は……」


「そう。一度リセットされた。そして、二度とこういうことがないよう、その元凶たる自分たち自身と親父が眠る『穴』を封じることにしたんだよ。

万一の事態が起きた場合に対処できるよう、俺だけを残してな」


あまりの衝撃に、口の中がカラカラに乾いていた。しかし、コーヒーでそれを潤す気分にもなれない。

どう考えても、ランダムさんの言っていることが嘘とは思えない。嘘にしては、出来過ぎている。


身体の震えは、止まる気配がなかった。こんなことに、首を突っ込んでいたなんて……!!



「……落ち着け」



エリックが、小さく言った。膝のあたりに、彼の掌の感触がある。


「エリック……」


「済まない、話を続けてくれ」


ランダムさんが、ニッと笑った。


「了解だ。俺がお前さんたちに伝えたいのは、『ム=カイ遺跡』を無力化してほしいということだ」


「……!?手を出すな、ではないのか?」


「本来はそうなんだがね。だが、もう遅かれ早かれあそこには手が伸びる。たとえそこの金髪の兄ちゃんが手を引いたとしても。そして、その生体鍵であるプルミエールがいなかったとしても。

探索の結果、何かのはずみで『アレ』が起きないとも限らねえ。だったら、今のうちにその禍根を断ってしまえ、ってわけだ」


「どうやって無力化しろと?」


「『あいつ』は生命維持装置に繋げられている。その動力源を断ってしまえば、起きることはねえよ」


「動力源?」


「それは俺が指示する。『ム=カイ遺跡』自体は元々『あいつ』の維持のために存在していた施設の一つだからな。

『ターミネート・ソルジャー』として『あいつ』が活動することはなかった。つまり、『旧文明』からずっと眠りっぱなしなのさ。まさに『眠れる森の美女』……いや怪物だな。

そして、そのまま永遠に眠らせてしまえばいい。少しかわいそうだが、しゃあねえな」


美女……その人は女の人なのか。エリックの額の皺が、少し深くなった気がした。


「分かった。やるだけやって……」


「『聖棺』はどうなる」


ナイトハルトが、ランダムさんを鋭く見据えた。


「何だそれ?」


「使った者に、永遠の生命を与えるという『秘宝』だ。私には、そしてこの国にはそれが必要なのだ」


「不老不死を望むってのか?やめとけやめとけ。そんなもの碌なもんじゃ……」


「違う!!不老不死になるのは、私ではない」


ナイトハルトの目が、皇帝ゲオルグに向いた。



「不老不死にするのは、兄上だ」




用語紹介


「旧文明」


作中世界から5万年ほど前に栄えた文明。「秘宝」は基本的にその多くが旧文明産である。「遺物」にも一部そういったものがある(こちらはランダムらの親兄弟による作が多い)。

文明レベルは2021年時点より高い。詳細はまだ明かさないが強力な新エネルギー源に基づく高度な機械化・自動化が為されていた。遺伝子組み換え技術もはるかに発展している。なお、「遺跡」の多くは旧文明時代のものである。


超大国同士の戦争により滅んだが、その原因となったのがランダムの父親である。世界滅亡後、彼は「新世界の神」として君臨。妻と9人の息子たちと共に世界を再建した……ということになっているが、その真実は不明。

なお、ランダム一家の全員が遺伝子寿命(テロメア限界)を異常に長くする処置を受けており不老長寿である。


旧文明は核に近い別種の大量破壊兵器によって滅んだ面が大きいが、「ターミネート・ソルジャー」と呼ばれる特殊兵士の暗躍も一因である。

彼らが全員で何人いるのか、現状どうなっているかは不明。ただ少なくとも1人は既に目覚めているようだ。

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