第26-4話
霧に包まれた瞬間、目の前が虹色に光った。そこにいたのは……神であった。
長く清らかな黒髪に、慈愛に満ちた微笑み。手を広げ、私を温かく抱いて下さろうとしている。……何という至上の幸福!!
ああ、ようやくお会いできた。涙が溢れそうになる。
それと共に、強烈な違和感を覚えた。
……何故私は、神にお会いできたのだ?
一途な祈りが通じたのか?それとも、たゆまぬ修練の成果か?
否、この程度で神は私を「お許しにならない」。
私は、一度だけ手を血に染めている。その罪は、一生かけてようやく贖えるものだ。
だからこそ、私は一念に神にその身を捧げ続けた。神の教えを広めるために、ありとあらゆることをやった。
しかし、まだ足りぬ。
足りぬ足りぬ足りぬ足りぬ……!!!
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「うおおおおおっっっっ!!!!」
裂帛の気合いと共に、私は幻想の神を打ち破った。そして代わりに目の前にあったのは……銃口。
「……まだ殺しはしません」
ゴウッッ!!!!
「グロンド」を握っていた右腕の先が、消し飛んだ。
「ぐあああっっっっ!!!じゃ、邪教徒風情がっっっ!!!!」
「……自分に背く者は、全て邪教徒なのですか?……哀れですね」
眼鏡の女……プルミエール・レミューが憐憫の目で私を見た。……何と言う屈辱……!!
「お前たちは、自分たちが、何をしようとしているのか……分かっているのかっ!!?その行いは、神に背き、世界を破滅へと導くものだぞっ!!?」
「分かりません。1つ言えるのは、多くの関係のない人々の命を奪った貴方こそ、神に背く邪教徒であるということです」
「笑止っ!!邪教徒は人に非ずっ!!何より、命を奪ったのはあの邪教徒の成れの果てだっ!!」
「……詭弁も、いいところにゃ」
ゆらりと、亜人の少年が立ち上がった。疲弊しているのか、大分ふらついている。
「お前は、生きてはいけない存在にゃ。……デボラさんには悪いけど、代わりに仇、取らせてもらうにゃ」
レミューが私の額に銃口を向ける。……その手は震えていた。
「……プルミエールさん」
「ええ、分かってる」
……予定外、それも最悪の予定外だ。ここで終わるとは……
もはや「グロンド」も使えない。ここで、神に召されるのか……
刹那、視界の端にエストラーダの触手が見えた。
……否。まだ、神は私を見捨ててはいない。
「『騎士』よ、我が身を守りたまえッッッ!!!」
叫ぶと一瞬のうちに、私の身体は樹の枝で覆われた。
エストラーダは、エリック・ベナビデスに決定打を打ち込めないでいた。こちらの援護に少し回ったことで、徐々に劣勢にもなっていたようだ。
このままでは、どちらにしても終わりだろう。だとすれば……これしかない……!!
意識が、身体が溶けていく。……エストラーダに、生命を吸われているのだ。そして、魔力も、意識も……
その行き着く先は。
……
…………
視界が切り替わった。見下ろす先には、魔王エリックがいる。
全て、予定通りだ。私は満足して、新たな身体の口の端を上げた。
『さあ、神にその身を捧げなさい』
キャラクター紹介
「エストラーダ」
メディアの血の摂取で怪物となったエストラーダ候。既に自我はほとんど失われ、血を与えたミカエル・アヴァロンを護り、奉仕する存在へと成り果てている。
基本的にはアヴァロンの意のままに動き、無数の枝の「触手」で攻撃、「補食」する。
枝に捕まった者は生命を吸われ、息絶える。それが「エストラーダ」の養分となるのである。
勢い、その身体の維持には相当数の「養分」が必要である。このため、「完成体」となってもその寿命は基本的に短い。
本文の描写で対エリックはまだ省かれているが、手数こそ多いもの速度は遅く、2倍速で対応できる程度ではある。
また、アヴァロンの意識と切り離された場合、自我が薄いため十全な能力は発揮できない。アヴァロンの呼び掛けに応じた時に速度が速まったのは、再びリンクが張られたからである。
とはいえ、圧倒的な手数と防御能力に対しエリックも決め手を欠いており、「音速剣」の使用を検討している最中に今回の「同化」が発生してしまった。
なお、プルミエールは殺害を一瞬躊躇っていたが、アヴァロンの「同化」は反応不可能な速度で行われたため、彼女を責めるのは酷というものだろう。
同化後にエストラーダ候の自我がまだあるかは不明。




