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9(リサ視点)

「申し訳ない」


 突然叔父様が侯爵に頭を下げ、叔母様も同様に謝罪し始めました。クラウビィン侯爵は、この謝罪を受けて下さるでしょうか。


「情けない話ではあるが、あの子、ジュリエンナは考えが足りないというか幼いというか、いやこれは言い訳だな。だがデビューを妨害しようとして行ったわけでは無い。あれにそこまでの知恵は無い」


 ジュリエンナがフィオリーナ様に行った行為は、例えその理由が『ドレスの色が似ていたのが嫌だったから』という情けない物でも、端から見れば立派なデビューの妨害です。

 第一王子であるアステール殿下は、私達より二つ年上でそろそろ婚約者選定の時期と言われており、その候補にはジュリエンナとフィオリーナ様が上がっています。

 フィオリーナ様に醜聞が出れば、アステール殿下が強く望んだところで周囲は未来の王妃として認めない可能性が出てきます。今回の事がそれを狙った妨害行為だと思われても、叔父様には釈明できません。

 実際には、ジュリエンナの兄であるロバート兄様と第三王女のピアジュ様との婚約が内々に決まっている為ジュリエンナはすでに候補から外れていますし、そもそもジュリエンナ本人はアステール殿下ではなくブラン様を慕っていますが、こんなとんでもない出来事の前には些末事と言われるでしょう。  


「さきほどから何度も謝罪は受けている」

「だがな」

「お前はしつこい。だいたい本人が居ない場所で親だけが何度頭を下げても無意味だろうが」


 侯爵の返答に違和感があり、内心首を傾げながら成り行きを見守ります。今までお二人の仲は、良くはないが悪くも無い程度の付き合いだと認識していましたが、クラウビィン侯爵の口振りはそれよりももう少しだけ気安い感じがしました。


「宮殿の敷地内は魔法が使えないこと位、いくらあの子でも理解していると考えていたのは甘かったのかな、リサ」

「申し上げにくいのですが、逆上のあまり失念していた様です」


 プライドが高い叔父様は普段感情を表に出すことはありませんが、今日は余程困惑しているのかいつもの叔父様ではありません。そんな叔父様に気の効いた嘘を考え付く事も出来ず、私は正直に話す事しか出来ませんでした。


「失念、そうか。私達はあの子への教育が足りなかったらしい」


 脱力する私の答えに、部屋の中がなんとも言えない雰囲気になりました。

 確かに叔父様達は、ジュリエンナに対して厳しい教育をしてきました。けれど、器にどれだけ水を注いでも、底に穴が開いていたら水は全て流れてしまうのと同じで、ジュリエンナの頭は自分に都合の悪いものは、器用にすべて聞き流してしまうのです。

 それは教育不足でも、周囲の甘やかしでもなくジュリエンナの罪でしょう。


「それにしてもなぜ同じドレスを。リサちゃん、そんなに二人のドレスは似ていたのかしら」

「そうですね。飾りは全て同じではありませんが似てはいたかと」


 ジュリエンナはドレスを受け取っても、当日まで内緒と言ってドレスを見せてくれませんでしたが、フィオリーナ様は私に見せて下さいました。ですから、ジュリエンナのドレスを見た時にフィオリーナ様のドレスに似ているとは感じていました。


「ジュリエンナのドレスを見た時に、以前見せていただいたフィオリーナ様のドレスに似ているとは思いました。でも、フィオリーナ様のドレスは白色と紫色の布を重ねた物であるのに対し、ジュリエンナのドレスは薄い紫色一色でしたから、雰囲気が似ているだけと言えない事もなく、そっくりだと気にする程ではなかったかと」


 こういう言い方はジュリエンナが気の毒ですが、フィオリーナ様のドレスは彼女の良さを十分理解した方が作成したドレスでした。

 白色と紫色の重なりは大輪の花のようで、フィオリーナ様の華奢なお体をふわりと包んでいて、彼女のもつ華やかで優しい雰囲気にぴったりのドレスでした。

 片やジュリエンナのドレスは、なぜか借り着の様に感じるものでした。思うにジュリエンナの雰囲気にも体型にも合っていないドレスだったのだと思います。


「ジュリエンナはフィオリーナ様がドレスを真似たと勘違いしていましたが、仮に真似たとしたらジュリエンナの方ではないかと」


 私は一ヶ月前にフィオリーナ様のドレスを見せていただいたことと、ジュリエンナのドレスが届いた時期を説明しました。


「薄い紫色はジュリエンナが好んで着る色では無いわね。あの子は赤や黄色の鮮やかな色が好きですもの」


 確かにそうです。そういうドレスがジュリエンナにはよく似合います。フィオリーナ様を百合の花とするなら、ジュリエンナは大輪の赤い薔薇。二人は全く違う個性を持っているのです。


「ロバートは妹の好みも考えずドレスを作ったのか」

「デビューのドレスは皆淡い色を選びますから、そちらを優先したのかもしれないわね」

「なんにせよ、勘違いでとんでもないことを仕出かしてくれたものだ。何度詫びても足りそうにないな」


 叔父様がまた侯爵に頭を下げました。繰り返し何度も。こんな叔父様を見るのは、最初で最後かもしれません。


「あ、鐘の音が」


 まだラクは戻ってこないというのに、パーティー開始を知らせる鐘の音が無情にも聞こえて来てしまいました。


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