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「フィオリーナ」
優しく微笑むアステール殿下のお顔を直視することが出来ず、兄に助けを求める。
ドレスを用意して頂けるのはありがたいお話だけど、素直にそれを喜んでいいのだろうか。
「殿下にご迷惑をお掛けするわけにはまいりません。私は」
「君のせいでラビニアのデビューも来年にするの」
断ろうと口を開いた、その瞬間掛けられた言葉に私の動きは止まった。私だって本音を言えばパーティーに出たい。それはラビニアも同じ筈だ。
「いいのよ。私は来年あなたと一緒にデビューするわ。それに、こんな事で殿下にご迷惑をお掛けしたと父に知れたらどんな叱責を受ける事か分からないわ」
「ラビニア、いいの?」
「いいのよ。そもそも私はデビューなんていつでもいいと思ってるの。デビューして夜会に出る様になるのも面倒だし、あと一年あなたとのんびり過ごすのも悪くはないわ」
これはラビニア流の慰めで、本当は今日のパーティーを楽しみにしていた事は私が一番良く知っている。
ラビニアはずっと兄の事が好きで一目惚れだったのだと、話してくれたのは随分昔の事だ。
このパーティーで兄と一度でもダンスが出来たらと、ずっと夢見ていたのだ。
「ククク、君は噂通りの女性だねえ。これは君を思う人間は大変だ」
「本当に大変です。あ、開始の合図だ」
兄が大きなため息をついたのを見ていたかのように、パーティーの開始を知らせる鐘の音が聞こえてきた。
「急がないと間に合わなくなるよ。さあ行こう」
「殿下、私達は」
「ドレスを見てから決めても遅くないだろう? それともジュリエンナ同様二人も自分と同じドレスを他の人が着るのは嫌なのかな」
「そんな事はありません。ラビニアと一緒ならむしろ嬉しいです」
「フィオリーナと同じドレスが嫌な筈ありません」
二人同時に返事をして、同時に顔を見合わせる。
殿下に上手く乗せられてしまった。これではもう断れない。
「じゃあ異存はないね。これで決まりだ。用意に時間が掛かるだろうし、フィオリーナは兎も角、君の入場は遅らせないといけないかな」
「え、それは」
「うん。ブランがエスコートすればいいな。そうしたら侯爵の順番で入場出来る」
「侯爵、でもあの」
意味がわからず、ラビニアは戸惑っている。
「殿下、それは」
「ブランが不服なら、他の者に任せるがいいのかそれで」
「いえ、それは困ります。ではフィオリーナのエスコートは父に頼むことにします。それでいいかフィオリーナ」
すでにドレスは殿下に用意して頂く事に、兄の中では決まってしまったのか。
パーティーに出られるなら、ラビニアと一緒に出たい。その気持ちはあるから、仕方ない。
「ラビニア。あなたは伯爵の順で入場するには時間が足りないかもしれないの」
ただ、兄がエスコートするということは。
「そうね。でも、どうしてブラン様にエスコートされたら侯爵の順になるの?」
「デビューする女性よりエスコートする人間の爵位が高い場合はそちらを優先するからだよ。ラビニア、こんなところで申し訳ないけれど、君をエスコートする栄誉と二番目のダンスを申し込む幸福を俺に与えてくれませんか」
ラビニアの前に跪き、兄は右手を差し出した。
「え」
「ずっと君の事が好きだった。どうかこの手を取って欲しい、無謀な願いだろうか」
「あ、あの。私は冒険者として魔物退治をする貴族の娘としてはいささか変わり者で」
「そんな事障りにもなりはしない。君が嫌じゃなければ一緒に魔物退治に行きたいと思っている」
兄が強いのは良く知っている。公にはしていないけれど、兄はAランクの冒険者だ。
父は良い顔はしていないけれど。
「でも、あの。私」
「ラビニアがお姉さんになってくれたら、私とても嬉しいわ」
大好きな親友が家族になるのだ。こんな嬉しい話はない。
「あの、私。あの、私もずっと思っていました。フィオリーナに紹介された時からずっと」
兄の手を取るラビニアの顔はとても、綺麗だった。




