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 祈りの甲斐も無く馬車は私のすぐ近くに停車したらしい、ドアを開ける音と低い話し声が聞こえてきた。

 足音が近付いてくる、もっと影に隠れなければ見つかってしまう。


「っ!」


 門の方には行けない、建物の方にも行けるわけがない。

 私ははしたない格好だとは自覚しながらも、しゃがみこんだ状態でドレスの裾をたくしあげジリジリと後退り、あっけなく失敗してしまった。

 カサッ、植え込みに肘が触れた瞬間小さな音が響く。小さな音の筈なのに、それは大砲の音の様に私の耳に届いた。


「誰だっ!」


 どうしよう。

 咄嗟に頭に浮かんだのは、魔法でドレスの汚れを消してしまうことだった。

 でもそんなことしたら、お父様やお兄様に迷惑が掛かる。

 どうせ迷惑を掛けるのなら、罪よりも恥の方が良い。そう思うしかない。


 ごめんなさいラビニア、折角私のために走ってくれたのに。

 心の中で謝りながら、せめて見苦しくないようにドレスの裾を直し立ち上がった。


「こんなところで、何を。き、君は」

「ロバート様、どうしてこちらに」

「それは」


 どうして東門から? そんな疑問は私の顔に出ていたのか、ロバート様は「ピアジュ殿下に届け物をね」と小さなブーケを見せながら照れた様に微笑んだ。

 この国の第三王女、ピアジュ殿下はロバート様と今回のパーティーで二番目のダンスを踊られるのではと噂されていたけれど、どうやらそれは正しい様だった。


「そうでしたか」


 ロバート様はジュリエンナ様のお兄様で、私の兄とも仲が良いのは知っている。

 妹同士の仲はもはや修復出来ない程だと、あぁ。私達の場合は仲が良かったことが無いのだから、修復とは言わないのかもしれない。


「君はどうして。す、すまない。そのドレスは一体、まさか妹じゃないよね」


 少しでも隠そうと、胸のところで手を組んでいたけれど全く隠せてはいなかったようだ。

 勘が良いのか、それとも妹であるジュリエンナ様を生まれた時から見てきたせいなのか素晴らしい観察眼だけど、当てられてもちっとも嬉しくない。


「否定できなくて申し訳ありません」

「まさか、なんで」

「ドレスの色が似ているのが不快だった様ですね」


 お兄様の贈り物なのに、真っ赤に汚れてしまった。

 例え汚れは落とせても、もうパーティーには間に合わないかもしれない。


「まさか、そんな。いくら妹が考え無しだとしてもそんな」

「実のお兄様にすらそう評価されるとは。さすがジュリエンナ様ですわ、私めにはとても真似出来かねます」


 これぐらいの嫌味は許されるだろう。いいえ、許して欲しい。

 八つ当たりはみっともないけれど、この人は当事者の兄だ。


「キツいな。まあ、これが事実なら仕方ない」

「申し訳ありません」


 このまま話していたら、更に事態が悪くなる。

 暗がりに男女が、しかも汚れたドレスでなんて醜聞としてはこれ以上の悪条件は無いかもしれない。

 何をやっても悪手の様な気がして、どうしたらいいのか判断が付けられなかった。


「フィオリーナ」

「お兄様っ」


 やっと安心できる声を聞いて、私の視界は急に歪んできてしまった。

 ぽとりぽとりと、涙の粒が落ちてくる。


「フィオリーナ、遅くなってごめんなさい」

「ラビニア、ごめんなさい。あなたに迷惑を掛けて、私どうしたら」


 兄の後ろからラビニアの姿も見え、今度は膝の力が抜けてしまった。


「おっと。大丈夫か、フィオリーナ」

「二人の顔を見たら安心して、体の力が抜けてしまったの」

「不安だったのね。私が遅くなってしまったから」

「そんなことないわ。ラビニア」


 兄とラビニアに支えられ、何とか立ち上がり息を整えようとしたけれど、上手くいかない。

 一度緊張が途切れてしまったから、中々立ち直れないのだ。

 情けなくて、また涙がこぼれてしまう。


「ほら、深呼吸」

「そうね。フィオリーナ、目を瞑って息を吐いて」


 ラビニアに背中を撫でて貰いながら、私はゆっくりと息を吐いていく。


「大丈夫よ、フィオリーナ。もう私達が側にいるわ、安心して」

「ところで、なんでお前がいるんだ。まさか兄妹で家の可愛い末っ子を」


 お兄様が喧嘩腰でロバート様を問い詰める。


「いやいや、ほらこれだよ。ピアジュ殿下に細やかな贈り物。彼女にこっそり渡す為に目立たないように東門から入ってきたら、可愛いお嬢さんの気配がしたってわけ」

「何をふざけて、原因はお前の妹だ。分かって言っているなら覚悟してもらうぞ」

「お、お兄様っ」


 緊張感のないロバート様の言葉に触発されて、兄は腰に吊るした剣に手を掛け、そして。


「私闘は処罰の対象だよ、わかってるのかな」


 突然聞こえてきた冷静な声に、兄の動きは停止したのだった。

ブクマが急に増えてびっくりです。

ありがとうございます。

四人はこんな性格のつもりで書いています。

お話の最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。


フィオリーナ:大人しいお嬢様、わりと棚ぼたな人生を歩んでいる。

ラビニア:元気と明るさが取り柄。綺麗な見た目で豪快に魔物を倒す。

リサ:同い年の従姉妹が後先考えずに色々やらかすので、文句を言いつつ毎回尻拭いをしてきた苦労人。

ジュリエンナ:両親は厳しく育てた筈なのに、我が儘気儘に後先考えずに動き回るが、実は気が小さい悪役令嬢

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