14(リサ視点)
これ以上ない笑顔で私を見ているラクと、今にも倒れそうなジュリエンナ。叔父様の心境を考えるとこの状況は回避したい内容の一番目に当たる気がしますが私にはもうどうすることも出来ないと半ば諦めの境地に達していました。
この国の貴族に生まれた女性が人生で一番楽しみにしている日、それは社交会のデビューです。
デビューの夜会で二番目のダンスを思っている方に申し込まれる。その日を夢見て私達は自分自身を磨くのです。
デビューの日、私達はデビューの夜会の為にあつらえた新しいドレスに身を包み、美しくけ化粧し装います。幼い頃からダンスを習い礼儀作法を身に付けて、勉強に勤しむ事も自分自身を磨き上げる事もすべてこの日の為、幼かった子供時代に別れを告げ大人の貴族の仲間入りをするのです。
それまでは許されなかった髪型である大人の女性の象徴結い上げた髪はデビューの夜会に出席した次の日から許されます、いつもはおろしている髪をすべて結い上げ大人の女性として過ごす日々が始まるのです。
私もジュリエンナも、他の貴族令嬢もデビュー間近となった日々をそわそわ、わくわくと過ごしました。
ラクが私に二番目のダンスを申し込みたいと告白してくれたのは、今から三ヶ月程前でした。
私の了承を得た後ラクは両親にその旨を伝え、困った様なでも嬉しさを含んだ顔で頷く両親の前で私を抱きしめてくれました。この国の男性の愛情表現はわかりやすいものではありませんが獣人の国で生まれ育ったラクにとって妻となる女性に愛情表現をしない事はありえない事なのだそうだです。
ラクから二番目のダンスの打診を受けてから三ヶ月、私達はひっそりと想いを伝え合ってきました。
両親からの許可を得たとはいえ、叔父様は獣人を嫌っています。
ラクからの想いはデビューのその日まで叔父様に知られるわけにはいきません。この国の習慣を知らないラクが私の両親の承諾無しに二番目のダンスを申し込んで、私は周囲の目を気にしそれを断ることが出来なかった。二番目のダンスの申し出を受ける事はそのまま婚約成立に繋がる。だから私はラクに嫁ぐのだ。それが両親の出した結論でした。
私の後見人は叔父様です。私の父の妹の夫である叔父様は、父の義理の弟にあたりますが爵位が父よりも上なので私の婚姻の発言権は後見人である叔父様の方が上なのです。
両親が健在であるのに後見人とはおかしな習慣ですが、爵位の階級で価値を見るこの国では両親の爵位より上の後見人を持つ事で嫁ぐ際に自分の価値が上がるという習慣があり私は生まれた時から叔父様を後見人として育ちました。ですから結婚の許可も両親の承諾の他に本来であれば後見人である叔父様の許可を得なければならないのですが、獣人を嫌っている叔父様がラクと私の結婚を許すはずが無く、両親は苦肉の策として叔父様にはラクの申し出を知らせず、当日ラクが(両親に許可を得ないと二番目のダンスを申し込んではいけない)暗黙の了解を知らず私にダンスを申し込んだ事にしようと言い出したのです。
「仕方ないよな。自分で招いた結果だ、あんたが短慮を起こさなければ状況はあんたに見方しただろうに」
ラクは悲しみに打ちひしがれるジュリエンナに追い打ちを掛けるようにそう言うと、挑発的に叔父様に視線を向けました。
「なんですって」
「この国は政略結婚はさせてはいけないと、表だっては言われているみたいだけど実際はそうじゃない。フィオリーナ嬢の兄君の結婚相手はあんたになる可能性が十分にあったのに、あんたが短慮をおこしたせいで風向きが変わったんだよ」
「どういう事なのラク」
「どういう事って、そのままだよ。ジュリエンナ嬢の兄であるロバート様のお相手はこの国の王女だろ、ジュリエンナ嬢の家とフィオリーナ嬢の家は同等の立場で、その力関係を崩すわけにはいかない。他の侯爵家は年齢的に釣り合う相手がいないし、公爵家も同様。王家はちょうど皆婚約者を確定する時期だというのにね。ペンナリユン侯爵家もクラウビィン侯爵家も王家に娘を嫁がせる気が無いから家柄と釣り合う婚約者を早々に見つける事は重要な課題だった。だから、ジュリエンナ嬢はフィオリーナ嬢の兄であるブラン様と婚約出来る条件は整っていたんだよ」
ラクの説明は私には理解しがたいものでした。この国では政略結婚は回避するべきものとして認識されています。ですから、いくら条件があってもブラン様とジュリエンナの婚約は成立しないだろうというのが、周囲の認識だったのです。
「私とブラン様は結ばれる運命なのよ、なのに何故あんな女がブラン様と」
ラクの説明はジュリエンナにも理解しがたい、いいえ理解したくない話だったのでしょう。
ブラン様のご両親が揃っているこの場で、ジュリエンナは暴言とも言える事を言い出しました。
「ジュ、ジュリエンナ落ち着いて」
「落ち着けるわけがないわ。格下の相手に負けるなんて許されるわけないわ。ブラン様の妻になるのは私なのよっ」
「その機会をあんたは自ら潰したんだから仕方ないだろ。それにしてもそろそろ呼び出しがあっても良さそうなのに、なにをのろのろしてんだろうな。男爵位の令嬢は入場を始めてたのにそんなに時間が掛かるもんかな」
「今年は男爵位のデビューが多いから時間が掛かっているのでしょう。一人一人名前を呼ばれて経歴とかを紹介されるのだから人数が多ければ時間が掛かって当然だわ」
これは説明を受けただけですが、デビューする令嬢は大階段の上で名前を読み上げられ、階下に降りる間に経歴や簡単な紹介をされるのです。一人で大階段を降り、エスコートする男性は階段の下で待っています。紹介が終わる頃、やっと階段を降りきった令嬢はエスコートする男性に手をとられ、ゆっくりと淑女の礼をするのです。未成年の女性の礼と成人女性のそれは少し異なります。デビューの夜会で行うこの礼が、貴族の令嬢が公の場で行う最初の大人の女性の礼となるのです。
慣れない場で緊張しながら一人で大階段を降りるのですから、時間が掛かってしまうのは仕方のない事なのです。
「ふうん。そうなんだ」
「そうなのよ。私無事に階段を降りて礼が出来るかしら、色々あって疲れてしまったから何か失敗しそうで怖いわ」
私のつぶやきにラクは「リサが万が一転びそうになっても、俺が必ず助けるから心配するな」と囁いてくれました。
本当に私のラクは、なんて素敵なんでしょう。叔父様の前で露骨な態度は避けなくてはいけないのに、きゅんきゅんと心がときめいてしまいました。
体調不良の為更新があいてしまい申し訳ありませんでした。
リサ視点、残り一回のつもりが長くなってしまったので分けることにしました。残り一回リサ視点を書いたらフィオリーナ視点に戻ります。
最後までお付き合い頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。




