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10(リサ視点)

 外に出てラクが来ていないか確認した方がいいのか、それともこのままここにいた方がいいのか、やきもきしながら扉を見つめました。

 フィオリーナ様のお兄様が向かっているのですからドレスの件は既に解決に向かっていると考えて良いと思いますが、ラクの口からそれを確認するまでは安心は出来ません。

 ラクの足なら東門まで往復してもそう時間は掛からない筈なのに、どうしてこんなに遅いのでしょう。

 何か困った事が起きているのでは、と不安になったその時でした。

 ノックも無く、いきなり扉が開いたのです。


「も、申し訳ございません。ジュリエンナ・ペンナリユン様ご到着です」


 扉を開きつかつかと部屋の中に入ってきたジュリエンナのその後からついて来た案内係の男性が、慌てた様に告げました。

 どうしてジュリエンナはどこまでもジュリエンナなのでしょう。

 あまりの事に私は思わず天井を見上げて、現実逃避してしまいました。


「御苦労、まだ下がっていていい」

「畏まりました。現在男爵位ご令嬢の御入場始まったところでございます。お時間になりましたらお知らせにあがります」

「分かった」


 ジュリエンナの暴挙に呆れているでしょうに、流石宮殿に勤める方だけあって冷静です。

 深々と頭を下げ部屋を出ていく男性の姿に感心しながら、私はまだまだ勉強が足りないと自分が情けなくなりました。


「リサ」


 なぜここで最初に出るのが私の名前なのでしょう。

 先程のジュリエンナの言葉が尾を引いている私は、ジュリエンナに返事もせず視線をそらしました。


「リサごめんなさいっ。本気じゃないの。私が悪かったのよ」


 何に対して謝っているのか、謝る相手は私ではないでしょう。

 謝罪を無視する姿に焦ったのか、ヒールをカツカツと鳴らしながら私に近づくとジュリエンナがいきなり抱きついて来ました。


「何をしてるのジュリエンナ、離して。あなたが謝る相手は私ではないでしょう」


 ジュリエンナの腕を振りほどき、距離を取ろうとしましたがジュリエンナは私の両手を掴んだまま離そうとしません。


「ごめんなさい。あなたがあの方の肩を持つから悔しかったの」

「肩を持つって、あなたが悪いことするからでしょ。自分が何をしたかまだ理解していないの」


 まさかこの場で身勝手な発言はしないと思いたいですが、心配です。


「分かっている……と思うけれど、私の気持ちだって理解して欲しかったんですもの」

「ジュリエンナ。まだ理解していないのね」


 この期に及んでまだ自分勝手な事を言うのかと、ジュリエンナを諌めます。後で叔父様達に叱られるのは覚悟の上です。


「あなたがどんな悪いことをしたのか、それすらも理解していないというなら、デビューする資格はないのじゃなくて」


 今夜デビューしてしまえば、これからは成人の扱いになります。

 そうしたら子供の悪戯では済まされませんし、誰もが侯爵夫妻の様に寛容な態度を取ってくださるわけではないのですから、私が言うのは僭越ですが、言うしかありません。


「あなたを連れて寮に戻るべきかしら」


 叔父様達は何も言わず、その沈黙が怖くて周りを見る余裕がありません。

 そんな中、ジュリエンナだけはわが道を行くというか、なんというかです。


「怒らないで、リサに嫌われたら私どうしたらいいの」

「ジュリエンナの好きにしたら。私はもう知らないわ」

「ごめんなさい。許してリサ。私が悪かったの、ずっと仲良くしてあげたのになんて本気じゃないの、ごめんなさいっ」


 ジュリエンナは私の両手を掴みながら、ポロポロと涙をこぼし始めました。


「ごめんなさい。嫌いにならないで、リサ」

「ジュリエンナ、子供みたいに泣かないで」


 厳しく言わなければ、そう思うのに言葉が続きません。

 あぁ、全く。どうしてジュリエンナはこうなんでしょう。子供の頃から変わりません。そうです変わっていないのです。


「ごめんなさい。リサ、ごめんなさい」


 小さい頃から、ジュリエンナが何かしでかす度に私は彼女の尻拭いをしてきました。

 従姉妹と言っても私の家は格下、ジュリエンナが何をしても両親は傍にいた私が悪いと叱りました。

 尻拭いをした挙げ句両親に怒られて、面白くないのは当然の心理です。子供だった私は不満を隠す事は出来ませんでした。


『ごめんなさい』


 その度にジュリエンナは、わんわん泣いて私に許しを乞うのです。


『リサごめんなさい。私が悪かったの。怒らないで、嫌いにならないで』


 プライドが高いジュリエンナは、私以外の誰にも謝ることはせず。私に謝る時も人目を避けてでした。

 それでも、ポロポロと涙をこぼし、真っ赤に目を腫らし、私がいくら怒っても冷たくしても泣きながら後ろを付いてきて何度も頭を下げるので、私はその姿に『しかたないわね』と受け入れて来ました。

 ですから、いくら両親にも周囲にも私は格下なのだと言われても、そして私もそれを理解していても尚、私とジュリエンナはそんな関係では無いのだと思っていました。

 いいえ、誰もが私は格下なのだと言ってもジュリエンナだけは違うと思っていると、そう信じていたのです。

 だから『ずっと仲良くしてあげた』と言われて悔しかったのです。


「じゃあ許してくれる?」

「フィオリーナ様があなたを許すなら、考えてもいいわ」


 既に許す気持ちになっていても、今回ばかりは簡単にそうするわけにはいきません。

 フィオリーナ様にしたことは冗談ではすまされない事ですし、ラクと結婚したら私は遠くの国に行ってしまうのです。

 そうしたら私はもうジュリエンナの尻拭いをすることは出来ません。

 ですからちゃんと反省させて、二度とこんな馬鹿な事をしないと誓わせなければなりません。


「それは許さないって事?」


 へにゃりと眉を下げた情けない顔で言ったジュリエンナに、私は大きなため息を付きました。

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