読書/辻仁成 『グラウウールの城』 ノート20161108
辻仁成 『グラウウールの城』 感想文
辻仁成『グラウウールの城』横浜録音図書1993年
【概略】
グラウウールとは、防音効果をもったガラス繊維のことで、音楽関係者が仕事場につかう密室だ。主要登場人物は、音楽会社プロデューサーの「僕」、凄腕のミキサー鹿島、そして「僕」の恋人亜希子だ。自分探しがテーマで、恋愛ものではないため、三角関係にはなならい。
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【プロット】
第一章
01 主人公「僕」は幻聴と共棲していた。そろそろ40になろうというころだ。音楽制作会社社員でプロデューサーをしている。もともとはミュージシャンを狙っていたのだが、それは断念して安定した給料をもらう今の地位についた。恋人・亜希子がいる。一回り年下、28歳。もともとは本屋の店員で、取り置きの本があるというのでいった。何に惹かれたかといえば声だ。電話がかかってきた。
02 「僕」が鹿島に出会ったのはスタジオでだ。半年かけた自信作、癒しの音をもとめたものだ。しかし鹿島は人間が聞こえない音も脳段階ではとらえている。レコード時代はそうでもなかったのだが、CDは20キロヘルツだ。これでは癒されない。本当の癒しは40キロヘルツないと駄目だといった。
03 マスタリング作業は昼過ぎにまで及んだ。そういう不規則な生活をしていた。幻聴はそのために起きたのだろう。知り合いの医者にみてもらったこともあったが一度みてもらったきりだ。特に害もないので、上手く共棲できるようになってしまったのだ。恋人・亜希子が連絡をよこしてくれといった。彼女に落ち度はない。嫌ってもいない。ほかにつきあっている相手がいたわけでもない。やたらに結婚をせまってくるのでウザくなった。それで別居を切りだしたのだ。
04 定例会議で発表したヒーリングシリーズの企画は上司たちに好評だった。早速仕事にとりかかる。しかし鹿島にヘルツ数の限界から本当の癒しは得られないだろうという意見が耳に残り、モヤモヤが残った。他方で亜希子から電話がかかってきた。明日会わないかという。いよいよ切羽詰った口調で、別れるにしても直接顔をあわせねばならないと考えた。受話器のむこうから「メトロノーム」の音がした。
第二章
01 レコードのヒーリングが深夜に及んだ。バンドがもめていたので、脳科学を熟知している鹿島が、ギターのミューズを左に移して、右脳に訴えかけるようにしたら、問題は一気に解決した。そこで意気投合した鹿島と「僕」は呑みにいこうという話になった。鹿島は特殊な機械をそろえていて、独自に癒しの音をつくっている。一緒に仕事をやろうと誘ってきた。北海道の流氷の音をとりにゆくというのだ。
02 仕事を終えたのは深夜未明。亜希子のマンションにむかった。亜希子は音楽用「メトロノーム」を部屋に置いていた。高校時代に、部活で、手を叩いて機械の音を消す所作をしていた。その話題をすると、気まずさがなくなって話がはずむ。それから二人は同衾してしまった。半ば別れようと考えていたのだが、これではだめだ。
03 目が覚めると亜希子がベッドの横にいた。昨日の逢瀬で、実質的に結婚を承諾したような感じになった。そのまま出勤。しかし会社にゆくと、プロデューサーから別な部署に転属するようにと上司からのお達しがあった。
04 翌日、会社を欠勤して「僕」と鹿島は北海道流氷の音源を録りに行った。当日は風が強くて駄目だった。晩に宿で二人して飲む。鹿島に辞めるのか? と聞かれて、実はそこまで考えてなかったと答えた。それで結局辞めると決断。(※亜希子とも結婚すると決断)。翌朝、一人で流氷の上を歩ききしむ音をきく。
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【所見】
物語のテーマは「癒し」だ。コンテンツは音楽である。レコード会社プロデューサーをやっていた「僕」はすべてについて飽和状態になり、弾ける寸前になっていた。そんなときに運命を変える友・鹿島が現れた。――音に宿る神に会わないか? そう誘われていた矢先に、会社内での配置転換を機に独立(と結婚を)指向するときになり、まさに一歩を踏み出そうとするところで終わる。本当の自分探しの旅だった。短編。
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