読書/鈴木輝一郎 『狂気の父を敬え』 ノート20170316
鈴木輝一郎 『狂気の父を敬え』 感想文
物語は、織田家による伊賀攻略作戦にスポットが当てられている。その指揮を執ったのが織田信雄だ。他の作家様による織田信雄像は、概してお馬鹿ちゃんという描かれ方だが、正反対に描かれているところがツボ。
実父・織田信長の政略により、物心もつかぬうちに、伊勢国主・北畠氏の養子に送り出されるのだが、実父の命により、プロローグから、養父を暗殺することになる。
本編。
初陣、内政、どれをとっても年齢の割りにそつがない。問題はといえば、兵一万を擁する太守であるのに、信長の統制から、能臣を配下に加えられなかったことだ。信長の子息は、信忠、信雄、信孝の三子があり、膨張してゆく織田家内部での実績づくりをして、跡目を競っていた。長子信忠は冷酷な信長のコピー、三子信孝は短期、唯一信雄だけが人の心を持っている。
自分を生かすために敢えて暗殺を受け入れた義父、世継ぎをもうけるための寝室での手ほどき役をする愛妾、不運な人々に愛された。そして、人として成長してゆく。信長は肉親だが接点はない。それゆえに愛情がない。性格的に近い、明智光秀に接近し、父子の関係を結ぶ関係に至る。
他方、付け家老の献策で、信雄は実績をつくるため伊賀攻略をしたのだが、敵の軍師百地三太夫の策略で失敗。実父に激しく折檻された。そして、織田の総力をもって伊勢一国の焦土作戦が敢行され指揮を執る。
そしてエピローグでの本能寺の変。――そのあたりの真相が物語では信雄の殺意を動機としている。
主人公が、北畠信雄→伊賀攻略戦→織田信雄となる人生の転機は、歴史ものというジャンルに、純文学的な要素とサスペンス的な要素とが加味された作品だった。
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目次
零、北畠信雄7……プロローグに相当
壱、初陣19 ……起
弐、戮莪65 ……床
参、旧離143 ……転
肆、根絶209 ……結
伍、織田信雄289 ……エピローグに相当
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鈴木輝一郎『狂気の父を敬え』 新潮社1998
ノート20170316




