第29話:孤独
少しづつ終わりに近付いています。こんな小説を読んでいただき本当に有り難うございます。
「じゃあ、プエルさんは【里崎 鈴】。ガイル君は【里崎 翔太】ね」
3時間かけて名前が決まった。俺はそのままの【里崎 蓮崩】になった。
「そういえば聖ちゃん」
プエル……いや鈴が口を開いた。
「なに?」
この二人はすっかり打ち解けたらしい。ガイル……翔太は人見知りが激しいのか打ち解けることはない。
「魔導を覚えてみない?痛みを伴うけどね」
「う〜ん……。やってみようかな?」
「ダメだ!!」
聖には教える必要がない。その気持ちが口を開かせた。
「な・なんで?」
「何でもだ。お前が知る必要がない。下手に覚えてついてきても邪魔だ」
冷たいようだが仕方がない。お前には傷ついてほしくない。
「どうしても覚えたいなら俺と闘え」
「何を言い出すのじゃ!?無理に決まっておる」
ガイルが胸ぐらを掴み俺を怒鳴りつける。
「……わかった。闘う」
聖は俺を見てはっきりそう言い放った。
「じゃあ、あそこに行くぞ。あそこなら広いし、誰も来ない」
聖は小さく頷き俺達はある場所へと向かった。プエルとガイルはあわててついてきていた。
「あたしが勝ったら魔導を教えてもらうよ!」
「あぁ……。【勝てたら】な」
これからは誰とも関わらない。 なぜかその考えが頭をよぎった。
「待って!能力変換〈癒し〉ブルー・レスト」
プエルは聖に近づき左足を癒した。元々、聖にあった持病を治してくれた。確かにこのままでは聖が不利だ。
「あ、ありがと」
「どういたしまして。(身体強化もかけておいたから。絶対勝ってね)」
プエルは小さく呟いた。その声は聖だけに聞こえるほどだった。
「(うん。絶対勝つよ。ありがと)いくよ!蓮崩」
そう言うと聖は飛び込んで来た。ちなみにここは昔、公開処刑場でかなりの広さだ。俺と聖は間合いを結構空けていたにもかかわらずすぐに間合いを消してきた。なぜかこの時俺は冷静だった。
彼女は顔に拳、次は右足で足払い。最後に俺が浮かんだところに蹴りを入れてくる。つもりだった。
俺はすべてを避け後ろに跳び間合いを空けた、がまた間合いを詰められ離れることが出来ない。
「攻撃してこなかったら勝てないよ!」
「プエル!」
俺は聖の攻撃を避け、ときには捌きながらプエルを呼んだ。
「な・なに?」
「〈癒し〉の準備をしておいてくれ。この勝負はもう、【終わらせる】……」
そう言って俺は攻撃に移った。聖の腹に衝撃を当て、吹き飛ばされた彼女をすぐに追いこし背中に衝撃を当てた。
「ぐっ!」
聖を襲う痛みはかなりのものだろう。後ろに跳ばされながら後ろに衝撃を当てられれば内臓にもダメージが届く。
聖は腹を抑え、うずくまった。本来なら勝負はついている。
「聖。俺は【終わらせる】と言ったんだ。その言葉の意味、わかるな…?」
「嘘でしょ……?ねぇ!レン
メキッ!
彼女の骨が悲鳴をあげた。そして彼女自身は白目をむき痙攣している。それを見た二人は聖のもとへと駆け寄った。
「ブルー・レスト!!!」
必死に魔導をかけるプエル。ときより、俺を恨めしそうに見るが俺は気にはならなかった。
「なんで……」
?
「なんでここまでする必要があるの!?聖ちゃんは幼なじみでしょ?あなたには【いたわり】の気持ちや【可愛そう】という心はないの!!?」
プエルは顔を大粒の涙で濡らしながら問いかけてきた。
「じゃあ、可愛そうだから手加減しろと?手加減してもこいつは諦めない。だから…、だから【絶対的な力】を見せつけたほうがいいんだよ」
俺は冷たく言い放った。プエルは聖を癒しながらまた聞いてきた。
「こんなの…、こんなの!レンホウらしくない!!」
「らしくない?はっ!そうか…?俺は俺だ。みんな俺の本性を知らないんだからな……」
もはや俺を縛り付ける物は何もない。俺は不思議と冷静だった。
突然ガイルが俺の胸ぐらを掴み飛びついてきた。もちろん俺は後ろに倒れた。
そして次の瞬間ガイルが拳で頬を殴った。口の中に血の味が広がる。口内を切ったのだろう。
「お主は…!それでも人間か……」
「当たり前のことを聞くな。魔界に行くことができない俺が人間以外の何に見える?」
掴んでいる腕を払いのけガイルは後ろに跳んだ。俺はゆっくりと体を持ち上げた。
「わしと戦え!レンホウ。ただし【勝負】ではなく【死合】だ。どちらかが死ぬまでじゃ!!」
今まで見たことのない眼、強い意志。憎しみの眼ともいえる。
「……わかった」
両手を合わせ中空に曲刀を出し、それを手に取り構えた。
「強くなったな……。合剣を変えた状態で出せるとは」
ガイルは合剣を大剣に変化させた。
「行くぞ……」
「あぁ……」
死合が始まる!