↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『最強暗殺公爵の異世界定食屋〜『ネット通販』と現代兵器でスローライフを満喫してたら伝説の種族が常連客になった件〜 』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/167

第二章 マンドラ人参とルチアナ

「爆走! ニンジン・マンドラ収穫祭(物理)」

「リアン君~! 手伝ってぇ~!!」

 ポポロ屋の2階、住居スペース。

 洗面台で歯磨きをしていた俺の背中に、キャルルの切羽詰まった声が突き刺さった。

「あ? 何だ、こんな朝から……」

 俺は口をゆすぎ、眠い目をこすりながら窓を開けた。

 眼下に広がる、のどかなはずの村の畑。しかしそこでは、信じられない光景が繰り広げられていた。

「今日はポポロ村のニンジンマンドラ収穫祭なの! でも、今年のニンジンたちが……!」

『ギャアアアアアアアアアアアアッ!!』

 鼓膜をつんざくような悲鳴。

 畑の土煙の中から飛び出してきたのは、通常の三倍……いや、十倍の速度で疾走する『ニンジンマンドラ』たちだった。

 しかも、全身に緑色のオーラを纏い、足(根っこ)の筋肉がボディビルダーのようにムキムキにパンプアップしている。

「なんだあれは。魔界の陸上選手か?」

「違うの! ルナちゃんが!」

 視線を移すと、畑の隅でポンポンを持って応援しているエルフのルナと、必死にニンジンを追いかける赤い竜人、イグニスの姿があった。

「待てェェ! ゴラアアア!! 俺様の朝飯ィィィ!!」

 イグニスが四つん這いになり、野生の本能全開で追いかけるが、ニンジンたちは残像を残すほどの『高速反復横跳び』で魔法のような回避を見せている。

「フレー☆ フレー☆ ニンジンさ~ん♡ 逃げ切ったら勝ちですよぉ~!」

「お前が元凶じゃねぇか!! ルナァ!!」

 イグニスが走りながらブチ切れた。

「世界樹の杖でドーピングしやがって! ただの野菜が音速超えてるぞ!」

「え~? 収穫前にしっかり運動した方が、身が引き締まって美味しくなるかと思ってぇ♡」

 ルナは悪びれもせず、キラキラした笑顔で国宝級の杖を振っている。

 あの杖の加護を受けた植物は、問答無用でモンスター化するのだ。完全に忘れていた。

「やれやれ……。朝飯前の運動にしてはハードだな」

 俺は深いため息をつき、パジャマから着替えるのも面倒なので、そのままで窓枠に足をかけた。

 腰には愛用の『銃口剣』。

「イグニス! そのままだと村中走り回って被害が出る! ニンジンをこっち(広場)に誘導しろ!」

 俺が叫ぶと、イグニスが凶悪にニヤリと笑った。

「へっ! 任せろおお! まとめてウェルダンにしてやるぜ! ――『大火炎イグニス・ブレス』!!」

 ドゴォォォォォン!!

 イグニスの口から、紅蓮の火炎放射が放たれた。

 それはニンジンたちの退路を断つ完璧な壁となるが――いかんせん、火力が強すぎる。

「ひゃああっ! む、村がああ! 燃えるううぅ!!」

 キャルルが長い耳を押さえて絶叫する。

 民家の屋根に火が移りそうだ。

「チッ、あのバカ竜……加減を知らんのか」

 俺は窓から飛び降り、空中で銃口剣の撃鉄を起こした。

 カシャッ。

 刀身がスライドし、真紅の魔力が充填される。

「銃口剣――『スラッシュモード・起動』」

 キィィィィィン……!

 刀身が超高周波振動を起こし、摩擦熱で数千度の赤熱を帯びる。

 俺は着地と同時に、炎に追われてパニックになり、一直線に向かってくるニンジンマンドラの群れ(約50匹)を見据え、低く構えた。

「調理開始だ」

 俺は一息に踏み込んだ。

「必殺・『焦熱灼刃ヒート・ブレイズ・エッジ』!!」

 ズバァァァァン!!

 横一文字の閃光。

 俺が通り過ぎた後、世界が一瞬静止した。

『ギャ……』

 悲鳴が途切れる。

 次の瞬間。

 ジュワァァァァァ……!

 ニンジンマンドラたちの胴体が、空中で鮮やかに両断された。

 だが、野菜の汁は一滴も地に落ちない。

 数千度の刃が、切断と同時に断面を瞬時に焼き固め(カウタライズ)、旨味と水分を内部に完全に封じ込めたのだ。

 ボトボトボトッ。

 地面に落ちたのは、香ばしい網目状の焼き目がついた『ニンジンステーキ』の山。

 辺りに漂うのは、焦がしキャラメルのような甘く芳醇な香りだった。

「ふぅ……」

 俺は刀身の熱を冷ましながら、カチャリと剣を納めた。

「す、すごい……一瞬で、全部下ごしらえが終わった……」

 キャルルが呆然と呟く。

 イグニスが消化活動(自分の足で慌てて火を踏み消す)を終えて、ゼェゼェと走ってきた。

「お、おいリアン! これ食っていいのか!?」

「ああ。ルナの魔法のおかげで糖度が限界まで上がってる上に、俺の剣で瞬間グリルしたからな。味は保証する」

 イグニスとキャルルが、焼きあがったニンジンに恐る恐る手を伸ばし、口に入れた。

 カリッ、ジュワッ。

「「あまーーーーーーい!!」」

 二人の絶叫が朝のポポロ村に響き渡った。

「なんだこれ!? 砂糖菓子か!? 外はカリッとしてるのに、中がトロトロのスープみたいだぜ!」

「運動したおかげで身が限界まで締まってるのに、火の通りが完璧……! おいしぃぃ!」

「んふふ~♡ やっぱり私の魔法のおかげですねっ☆」

 ルナが得意げに胸を張る。

 俺はすかさず彼女の頭に、軽めのチョップを落とした。

「痛っ!?」

「結果オーライだが、次はやる前に言え。村が火の海になるところだったぞ」

 俺が呆れて説教していると、足元から奇妙な声が聞こえた。

『い、痛たたた……』

 見下ろすと、俺の剣で切り落とされたニンジンマンドラの「葉っぱ」の部分が、まだピクピクと動きながら、器用に口を動かして喋っていた。魔界野菜の生命力は異常だ。

『お、おい、そこの白い服の兄ちゃん……わては知っとるで。あんたのその剣術、ただの料理人やあらへん!』

「あ?」

『あんた……ルナミス帝国の裏社会を牛耳ってた、クライン家の死神やろ!? 帝都では今、あんたが消えたせいで大パニックになっとるでぇ! 残された狂犬みたいな弟が、勘違いして裏社会の連中を片っ端から焼き尽くしとるらしいわ!』

 喋る葉っぱの言葉に、キャルルたちが「えっ?」と顔を見合わせる。

「……興味ないな」

 ポイッ。

『アアアアーーーッ!?』

 俺は無表情のまま、喋る葉っぱを掴んで、横にあった生ゴミ用のコンポストへ放り投げ、きっちりと蓋を閉めた。

「帝都の事なんて知ったことか。俺はただの定食屋だ」

「り、リアン君? 今の葉っぱ、何か物騒なこと言ってなかった?」

「気のせいだ。鮮度が良すぎて寝言を言ったんだろう」

 俺はパンパンと手を払い、満面の笑みで振り返った。

「さて、これだけ大量の極上ニンジンがあるんだ。今日の朝飯は『濃厚ニンジンポタージュ』と『キャロットケーキ』の食べ放題だな」

「やったー!!」

「俺様、ケーキ10個食うぜ!」

「私もお腹ぺこぺこですぅ♡」

 帝都の裏社会が血の海になっていることなど露知らず。

 こうして、ポポロ村の騒がしい収穫祭は、極上の朝食と共に平和な幕を閉じたのだった。

(なお、イグニスのブレスで焦げた村の柵の修繕費は、今月の彼の給料から全額天引きされた)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。