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第3話:核の無害化とアフリカへの視線

 大沢教授との衝突は、私たちに猶予がないことを知らせた。悠人はもはや、この研究室の規律に従うつもりはなかったし、教授も彼の存在を許さないだろう。私たちは時間との戦いを強いられた。


 私が担当したのは、彼の膨大な知識を、現代科学が理解できる形に「翻訳」することだった。徹夜で取り組んだのは、試作型デバイスの計測データと、悠人が口頭で説明したマナ制御の基本理論を組み合わせた、たった一枚の予備的な論文だった。タイトルは、保守的な査読者を欺くため、あえて地味にした。


 一方、悠人は次の段階に進んでいた。


「綾音さん、このH大学には、核関連の研究施設が確かありますね。私は、そこで最初の本格的な実験をしたい」


 彼の言葉に、私は息を呑んだ。悠人は、エネルギー問題の本質的な解決には、クリーンな生成だけでなく、既に存在する負の遺産の処理も不可欠だと主張した。彼が異世界で確立した錬金術は、放射性物質を安定同位体へと再構築する技術も内包しているのだという。





 深夜。私たちは、大沢教授が管理する、厳重に施錠された核関連の研究施設の一角にいた。悠人がデバイスから発する微弱なマナの波動をドアの電子ロックに干渉させ、セキュリティシステムを「一瞬だけ」停止させた。私には、それはただの魔法に見えた。


 悠人が取り出したのは、研究用の極低レベルの放射性物質を封入した小さなカプセルだった。彼は台に乗せたカプセルに掌をかざし、透明な光の波を流し込んだ。光が消えると、カプセルの周囲に設置した高感度の放射線測定器の数値が、ゼロを示した。


「完全に、消滅した…」


 私は測定器を何度も確認したが、数値は不動のゼロだった。物質を破壊したわけではない。構造を組み替え、無害な物質へと「昇華」させたのだ。


「これで、エネルギーも環境も、一気に解決できますね。あとは、その技術を誰に、どこから提供するかだ」


 悠人はそう言って、研究室の壁に貼られた世界地図に目をやった。





「技術を渡すなら、既存の権益に汚染されておらず、最も必要としている場所からだ」


 悠人が指さしたのは、地球上で最も貧しく、最もエネルギーと食糧に飢えた大陸、アフリカだった。彼は、核廃棄物処理とクリーンエネルギー提供を初期パッケージとして提供すれば、欧米列強や資源大国の介入を最小限に抑え、彼らが自立して技術を受け入れることができると計算していた。


「H大学の、日本の助教であるあなたが、どうやってアフリカの国家と直接交渉を?」


 私が尋ねると、悠人は初めて、私の目をまっすぐに見た。


「あなたは私の協力者であり、科学的な代弁者だ。そして、私たちはこの技術を『個人所有』の特許として扱う。最初は、国際的な組織ではなく、あなたが知っている、信頼できるコネクションを利用させてもらう」


 私の過去の小さなボランティア活動を、彼はなぜ知っているのか。彼の膨大な情報収集能力に驚くと同時に、私の中に、この途方もない計画に加わる熱い覚悟が湧き上がった。


「分かりました。私が、最初の扉を開きます。中央アフリカ連邦。私が知っているのは、そこです」


「結構。では、次のステップは『旅行の手配』ですね、冴木助教」


 悠人の静かな言葉に、私たちの、そして世界の未来をかけた、最初のアフリカ行きが決定した。

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