第29話:日本政府の苦悩と水面下の交渉
連邦の異常な復興の報は、永田町の地下深くにある内閣緊急会議室を、深い緊張で満たしていた。私は総理の真正面に座り、事態収拾を命じられていた。
「なぜだ!なぜ、真波悠人の行動を予見できなかった!?」総理の声が響き渡った。「今や世界中が連邦の異常な変化に気づき始めている。このまま真波悠人の存在が公になれば、我が国が負う外交的な責任、情報隠蔽の失敗――日本の国際的地位は地に堕ちる!」
初期の情報隠蔽を担当した責任者への追及が続いた後、私は冷静に口を開いた。
「総理、報告の通り、真波悠人の技術、マナのエネルギー出力には、依然として兵器転用の可能性という最大の懸念が残ります。彼の非軍事性が証明されない限り、国際社会は彼を排除する大義名分を常に持ちます」
議論は、「真波悠人の秘密を開示するか、対立するか」という究極の選択に集中した。
「どちらの道を選んでも、我が国は大きな外交的リスクを負います」私は報告した。「しかし、マナ技術の真の危険性を確認しない限り、我々は打つ手がありません。そして――その兵器転用リスクについて、真波悠人本人に直接会う以外に真偽を確かめる術がないのが、我々の究極の課題です」
内閣は、この事実上の詰み状態を前に、冴木綾音を通じた秘密裏の接触を、最優先事項として決定した。
内閣の決定を受け、私は直ちに情報機関に対し、綾音との秘密裏の接触の獲得を指示した。接触担当は私自身が務めると決定した。
「あらゆるルートを使え!連邦側の情報統制を破れ!冴木綾音にコンタクトを取れ!」
しかし、真波悠人側の情報統制は、私たちが想像する遥か上を行っていた。数時間、情報機関の全てのリソースを費やしたが、連邦政府内や国際機関のルートを通じた綾音へのアプローチは、まるで透明な障壁に阻まれたかのように全て失敗した。
「副長官、ダメです。我々のコードネームを使った連絡も、全て連邦側でシャットアウトされているようです。まるで、我々の全ての動きを真波悠人に見透かされているかのように……」報告を聞きながら、私は冷や汗が背中を伝うのを感じた。
旧秩序側からの水面下の問い合わせや圧力の兆候も高まり、もはや一刻の猶予もない。このままでは、真波悠人に会う前に日本が国際的な窮地に立たされる。
「くそっ、無力だ。我々の情報技術が、まるで太古の遺物ではないか……」私は唇を噛みしめ、最後の手段として国際的な中立機関のルートへのアプローチを指示しようとした。
日本側が奔走し、内閣全体が焦燥の極みに達した、その時だった。
私のいる極秘通信ブース内のランプが点滅した。どの国のプロトコルにも該当しない、完全に秘匿された回線の接続を示すサインだった。
「副長官!向こうからです!コンタクトは、冴木綾音です!」
私はブースに飛び込んだ。画面に映る綾音は、数週間前と変わらない、しかし遥かに毅然とした表情をしていた。
「ご無沙汰しております、副長官」
「綾音君!なぜ、君が我々のブースに……」私は動揺を隠せなかった。
綾音は私の言葉を遮り、冷静に切り出した。「副長官。貴方がたが私との接触を試み、そのためにどのような論理と戦略を策定したのか。そして、貴方がたが私の身の安全をちらつかせようとしたことも含め、全て、真波悠人さんは承知しております」
私の心臓は止まった。我々の内閣の極秘議論が、行動の全てが、真波悠人には筒抜けだったという、絶対的な力の差を目の当たりにしたのだ。
「真波悠人さんからのメッセージを伝えます」綾音は続けた。
「真波悠人は、旧時代に固執するのではなく、日本の技術力と知性を、新しい世界平和の秩序構築に役立てることを望んでいます。対立ではなく、協調の道を選べば、日本は指導的な役割を果たすことができます」
画面の向こうの綾音は、日本の未来を賭けた協力の提案と警告を同時に突きつけた。私は、自分たちの情報支配が完全に無力化されているという事実に戦慄し、これが日本の存亡をかけた瀬戸際だと痛感した。
「わ、分かった。我々は……協調の道を探る。次のアポイントメントを、取り付けてくれ!」私は絞り出すように言った。
日本の未来を賭けた外交戦は、真波悠人の先制攻撃によって、極度の緊張感と共に始まったのだ。




