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幕間 III:スコーピオン発射、絶望の180秒

 夜明けの空。ムアンバ大臣は、ムサ村を一望できる前線指揮所のコンテナの中で、苛立ちに満ちた怒号を上げていた。


 数えきれないほどの通常兵器が、あの見せかけの防御壁に吸い込まれるように消滅した。爆発も衝撃も一切ない。通信士の青白い顔と、「全てゼロです」という報告だけが、彼の屈辱を証明していた。


「技術的な敗北だと? 認められるか!」


 あの技術者の傲慢なメッセージが、いまだ指揮モニターの隅に焼き付いている。


    武力の行使を即座に停止せよ


 連邦の国防大臣に向かって!


 ムアンバの脳裏に閃光が走った。あの技術は、マナの演算に依存している。電子制御の停止が、必ずや防御壁に致命的な隙を作る。


「スコーピオンを搭載しろ! 直ちに発射だ!」彼は通信士の制止を怒鳴りつけ、独断でEMP特殊砲弾の発射を命じた。軍の最高評議会との通信を遮断し、自身のプライドとキャリア、そして連邦の威信の全てを、この最後の切り札に賭けた。


 EMP弾「スコーピオン」の発射音が響く。それは、通常兵器の発射音とは違う、不気味な、乾いた音だった。ムサ村の防御壁へ向かっていく弾道を目で追いながら、ムアンバは興奮と焦燥が混ざった高揚感に包まれた。


 待機時間は、わずか180秒。


 しかし、カウントダウンがゼロに達した。


 一瞬の静寂。予想されていたはずの閃光も、電子機器の沈黙も、何もなかった。通信士が震える声で告げた。「大臣! スコーピオン弾体、目標上空で霧散しました! EMPパルス発生、確認できません!」


 ムアンバの頭の中で、何かが音を立てて崩れ落ちた。通常兵器に続き、極秘の非通常兵器まで、あの技術者に、爆発という形すら与えられずに無力化されたのだ。


 彼は正気を失い、通信機に向かって叫んだ。「通信を特殊部隊に切り替えろ! 計画を変更する。もはや技術は問わん! 突入せよ! 奴を……生きたまま引きずり出せ!」


 通信が特殊部隊専用チャンネルに切り替わる。ムアンバの目の前のモニターには、特殊部隊員たちのヘルメットカメラ映像が映し出された。彼らは、瓦礫の中を走り抜け、防御壁の隙間を突き、村の内部に侵入していく。


「進め! コアの制御室を叩け!」ムアンバは歯を食いしばる。人間の意志だけは、マナなどという曖昧な力で止められないはずだ。


 特殊部隊員たちが、悠人が仕掛けたダミーの入口と視覚トラップによって誘導される様子が、ヘルメットカメラ越しに確認できる。彼らは目標の通路へと迷いなく飛び込んだ。


 その瞬間、全ての映像が、一斉に、砂嵐を伴うノイズへと切り替わった。


「どうした!? 報告しろ!」ムアンバは怒鳴るが、返答はない。ノイズの向こうから、隊員たちの苦悶の声さえも聞こえない。


 数秒後、通信士が絶望的な声を上げた。「だ、大臣! 特殊部隊の生体信号が、一斉に停止しました! 物理的な損傷はありません。ですが、全隊員、意識不明、または行動不能... 完全に沈黙しました!」


 ムアンバ大臣は、映像が途絶したモニターを、虚ろな目で見つめた。彼の顔には、怒りさえも消え失せ、ただの空虚な敗北感が残った。


 兵器、戦略、そして人間という最後の暴力さえも、彼は、たった一人の技術者によって、静かに、無抵抗に、そして完全に無力化されたのだ。


 ムアンバの全身から力が抜け、その場で崩れ落ちた。彼の視線の先に、遠くムサ村の防御壁が、朝日に照らされて静かに輝いていた。

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