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第1話「消えたクラスメイト」

海風が教室のカーテンを揺らす。午後の光が机の上に斑点のような影を落とす中、藤原あかねは自分の席に座っていた。


「……ん?」


隣の席が、いつも笑顔を見せていた宮原結衣の席が、空っぽだった。いや、空っぽというよりも、まるで最初からそこにはいなかったかのように、クラスメイトたちの目が何事もなかったかのように結衣を避けている。


――消えた?


あかねの心臓が少しだけ跳ねた。彼女には、この現象がわかるのだ。誰かが“忘れられる”と、世界はそれをなかったことにする。でも、あかねだけは覚えている。


体育祭の練習中、結衣はリレーの順番を間違え、転んだ。誰も助けに行かない。誰も振り返らない。


「結衣……?」あかねは小さく呼んだ。


しかし返事はない。

廊下を歩くクラスメイトたちの視線は、結衣を避け、無視している。


あかねはそっと自分の鞄から手帳を取り出す。表紙はシンプルで、紙の匂いがほんのり香る。「忘却帳」と名付けたその手帳に、結衣の名前を書き込む。


【宮原結衣 体育祭で転ぶ 笑顔が可愛い リレー好き】


書き込むと、ふわりと空気が震えるような感覚が走った。あかねの中で、結衣の存在が少しだけ鮮やかに戻る。


放課後、あかねは校庭の隅で結衣を呼んだ。

「結衣、来て……」


視線を上げた結衣の瞳に、あかねの顔が映る。ほんの一瞬、クラスにいなかった時間が帳消しになるかのように、二人だけの空間が戻った。


「……あかね?」


微かに震える声に、あかねは手帳を胸に抱きしめる。

忘れられた人を、覚えていること。それが、あかねの小さな奇跡。


だが、この町に流れる“忘れの季節”の秘密は、まだ始まったばかりだった。

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