#8『対峙』
強風吹きさらすビルの屋上で、真っ白な少女は問う。
「さて、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
対峙するのは、白い髪を長く伸ばし、黒い外套を纏う少女。
にこやかに笑っている様でいて、どこか感情の抜け落ちた様なそんな表情をしている。
「目的は何?」
黄色に輝く瞳に赤色を差して、頭上の環もまた、赤く淀んでいる。
その手に握られた黒々しい槍は、まるであの化け物を彷彿とさせる。
「あの娘はどこ?」
表情は変わらない。
感情の読めない異様な雰囲気。
人として、何か、決定的に欠けている。
「あの娘?誰の事かな」
張り詰めた空気が心拍を加速させていく。
「あなたも知らないの?うーん……」
人差し指を立て、唇に当てる。
首を傾げて、何やら考え込んでいるようだ。
見開かれた目は少女を見たまま外れない。
「まぁ、いっか。それじゃあ……」
吊り上がっていく口角。
まるで獲物を見る様なその視線が徐々に緩んでいく。
瞬間、耳元を何かが通り過ぎる。
限界まで引き延ばされた感覚の中、まるで目で追うことが叶わない圧倒的な速さ。
数瞬の間を置いて、漸く異形の槍が耳を翳めた、そう理解する。
視界に赤い飛沫が舞っていく。
臨戦態勢を取り、万全の準備をした状態での攻撃だった。
避けられないはずがない。少女は思う。
現世代最強と謳われた精霊術師を置き去りにし、次撃が脇腹を薙ぎ払う。
おかしい。そんなはずはない。少女は思う。
外壁に身体がめり込んでいく。
まるで、攻撃を放つその前、既に攻撃が命中しているかの様なそんな可笑しな感覚。
壁を突き破り、建物の中に転がり入る。
強力な亡霊と対峙した時、似たような感覚に陥ることがあるが。
「あれ?まだ生きてるんだ」
粉塵の中に赤色が伸びる。
「他の子は皆———」
内臓を幾らかやられたようだ。まるで声が出ない。
「丁度いいや。君も連れて帰ろうかな」
赤みを増していく瞳が少女を見下げる。
身体から漏れ出す光が勢いを落としていき、まるで灯の様に揺らぐ。
槍を床に突き刺して、表情一つ変えずに、手を伸ばす。
「君も奇跡を宿しているみたいだから」
黄色に輝く瞳をじっと見つめる。
伸ばされた手が少女に触れようとしたその瞬間、視界から少女が消える。
空中には幾重にも分断された腕が舞っている。
見開かれた赤い瞳が、漸く感情の様なものを覗かせる。
見据えるは、一層白く、まるで燃える炎のような光を纏う少女の姿。
満身創痍だったはずの少女が己の腕を切り刻み、その爪は既に自分の命を奪える距離まで迫っている。
おかしい。そんなはずはない。少女は思う。
私に追いつけるはずがない。だって———。
瞬間、凄まじい閃光が世界を塗りつぶす。
放たれた斬撃は、周囲のビル群諸共すべてを引き裂いていく。