#9『雷光』
白色の閃光が世界を照らす。
半円を幾つも伸ばしながらに広がるそれは、まるで紙でも切るかのように、聳えるビル群を容易く切断していく。
あまりに現実離れした光景に、少女たちはその足を止めて、呆然と立ち尽くす。
状況を理解するまでに、それほどの時間は必要なかった。
「テトか———」
和服を身に纏い、猫耳を生やした少女が驚愕を隠しきれないといった顔をして、身構える。
あんなものが地面に落ちれば市街地であるここは甚大な被害を免れないだろう。
崩れ出したビルの残骸が地上に落ちるまで、あと数秒。
もはや、間に合うはずがない。
現在地からは凡そ十数キロメートルの距離。
まして、間に合ったとしても、あれ程巨大な残骸を落下途中にどうにかするなど、無謀にも等しい。だが———
瞬間、少女を中心に光が集まり出す。
それは次第に頭上へと浮かび上がり、一つの環を作り出す。
「雷光———」
少女が呟くとほぼ同時、空気を裂くような、そう、雷鳴が轟く。
地面より伸びたそれは、音を置き去りにして、まるで流れるように空気を走る。
稲妻に姿を変えた少女は、瞬く間に目的地へと足を運ぶ。
刀に手を掛けて眼を瞑る。
「鳴る神———」
引き抜かれたはずの刀が次第に鞘に納められていく。
目にも止まらぬ抜刀。
開かれていく視界に映るは迅雷。
灰燼に帰していく残骸を見送って、少女は完全に刀を納刀してみせる。
引き延ばされた時間が、次第に本来の流れを取り戻していく。
「流石に全部は切れないか」
重力に攫われて、残骸と共に少女は地面へと引き寄せられていく。
態勢を整えようと身体を捩ったその瞬間だった。
「見つけた」
聞き覚えの無い声が無線に入る。
眼前のビル。
その切れ目から赤黒い光がどんよりと広がるのが見える。
気が付くと、それは目前まで迫っていた。
黒々しい、異形の化け物を彷彿とさせる長槍。
再び間延びし始めた時間が、避けることなど、もはや叶わないだろうと教えてくれる。
脇腹を穿っていく槍が、肉を裂き、肋骨を削り取っていく。
視界が揺らぐ。
「あれ——人違い?」
知らない声。
「まぁ、いいか」
まるで感情の抜け落ちたような声。
見据える敵は、片腕を失い、肩口から脇腹にかけて深い切り傷が伸びる少女。
満身創痍であるはずのその顔は穏やかに笑っているように映る。
限界まで引き延ばされた感覚が、迫りくる二の槍を辛うじて捕捉する。
目で追えたとて、やはりそれを避けることは叶わない。
千切れかかる意識、纏まらない思考。
重力に囚われた身体は次第に、下へ下へと落ちていく。




