表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アニマる☆エンジェル  作者: けしごむ
11/11

#10『寂しかったんだ』

「反射神経の値が基準値を大幅に超えています」

 正方形をした室内、ガラス張りの窓が一つ。

 室内には無数の弾痕があり、地面には同様に薬莢が散乱している。

 ガラス越し、白衣を着た女性が、タブレットを操作しながら何かを言っている。

「精霊の加護も無しに、凄いですね」

 正方形の中心、病衣に身を包んだ真っ白な少女が一人。

「彼女が宿しているのは、自然そのものだよ」

 白衣を着た長身の男性が何かを言っている。

 見つめる少女を中心に、光が集まり円を描く。

「急激な精霊値の上昇を確認!これは……どのメーターも次々と振り切っていきます!」

 空気を揺らす。

 ガラスに亀裂が入っていき、壁には幾つもの歪な焦げ付きが広がっていく。

「まさかな。いや、やはり彼女自身が———」

 藤色の双眸が一層その輝きを増していく。




 私の家は代々、剣術の道場を継いできた。

 気が付けば私も剣術の修行をしていて、物心がつく頃にはもう私の相手を出来るような人は一握りしか残っていなかった。

 天才だ。

 皆、私の事をそう褒めてくれた。

 私はそんな期待に応えようと、より一層の努力を重ねた。

 そんなある日の事だった。

 私の剣の才覚を耳にしたある機関が道場に訪ねてきた。

 その才能を世界のために生かさないか。そう言うのだった。

 家のものは皆、もちろんそうした方がいい。そう言った。

 私も嬉々として快諾した。

 こんな私の剣術が世界のためになるのなら、それはとても良いことだと、そう思った。




 あれから一体どれだけの時間が過ぎたのだろう。

 もはや数えることも諦められるほどの年月をここで過ごしていた。

 外の世界とは隔絶された塀の中。

 無機質な白で統一された建物。

 沢山いたはずの旧人類(オリジナル)はもう見る影も無くなってしまった。

 私に良くしてくれたあの人も、私に嫌なことばかりしてきたあの人も。

 代わりに、私と同じような女の子たちが次々と施設に入って来ていた。

 最初は数人しかいなかったここも、気が付けば賑やかになっていた。

「アカネは今日も訓練なのか?」

 真っ赤な目をした女の子。

 薄紫色をした綺麗な長い髪を二つに結った女の子。

「うん。リュウは?」

 いつもどこか元気のない女の子。

「私は今日ないみたい」

「そっか」

「うん」

 何故か、いつも私と一緒にいてくれる女の子。

「私、そろそろ行かなきゃ」

 ふわりと立ち上がって、背中を向けながら軽く手を振る女の子。

「また」

「うん。またね」

 長い髪を揺らして、長い廊下をゆっくりと歩む女の子。

 そして、もう二度と帰ってくる事の無かった女の子。




「アカネちゃん。正式に配属が決まったらしいよ」

 壁のディスプレイには、『第三期 正式配属者名簿』と映し出されている。

「テト小隊って確か前線部隊じゃなかった?」

「少数精鋭のエリート部隊だって話だよ」

 テト小隊——分隊長——アカネ。

 何となく、ずっと一緒にいられる様なそんな気がしていた。

 でも、違ったようだ。

 私たちは所詮、寄せ集められただけの希薄な関係。

 分かっていたはずだ。

 理解していたはずだろう。

 なのに、どうしてこんなにも。

 私は———。




 あれから一体どれだけの時間が過ぎたのだろう。

「それじゃあ、いいかな、リュウくん。これが配属前の最終試験になるから」

 ガラス越しに、誰かが何かを言っている。

「実践を想定したものになっている。自由にやってくれていい」

 床を見れば、そこには黒い絵具をぶちまけた様な歪な円形状の紋様が広がっている。

 そこからジリジリと音を立てて這い出てくる其れは、紛うことなき異形の化けもの。

 今までに、幾度となく繰り返されてきた行為。

 今回も何も変わりはしない。

 光を集める。

 それは次第に頭上へ浮かび、一つの環に姿を変える。

 思えば手には刀があって、それは私を私たらしめるもの。

 眼を瞑る。

 もう何も見なくて済むように。

 握る刀に、力を籠める。

 引き抜かれた刀は、過たず、その異形を両断して見せる。

 悲しかったんだ。

 置いていかれてしまったのが。

 寂しかったんだ。

 私はただ———一緒にいたかっただけなんだ———。


 風の音が鳴っている。

 浮遊感に包まれる身体はどうやら落下している様だ。

 腹部が酷く傷んだ。

 何かに突き刺された様なそんな感覚。

 そう——確か私は——。

 瞬間、視界が白色に塗り潰される。

 それはまるで揺らぐ炎の様に温かい。

 光の中、薄れゆく意識の端で、朧げに黄色を見る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ