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朱雀院  作者: 夢野ユーマ
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未来への伏線

ある年。その年、多くの者の運命が大きく狂った。

世を去るものも出た。


しかし、その始まりの日は、夏だが、穏やかな日だった。


午餐の後、一条御息所が落葉の宮の部屋を訪ねると、落葉の宮はしどけなく昼寝をしていた。

長く美事な黒髪を豊かに乱れさせ、仰向きで落葉の宮は寝ていらした。そこには、ある種の「美」があり、一条はドキリとしたが、一応、皇族の品位、尊厳を守るため、扇で落葉の宮の手の甲を打った。


「きゃっ」

「何です。みっともない。嫁ぎ先でも、そんなにだらけているのですか?」

「いいえ。嫁いで、この御所がいかに気楽だったか分かりました。太政大臣家はすごく窮屈ですもの・・・」


一条も言葉に詰まった。


落葉の宮によると、太政大臣家では食事の時は皇女である落葉の宮が家長の席に座り、太政大臣、四の君、柏木、紅梅『柏木の弟』が順々に座っているらしかった。

また、落葉の宮には、おみそ汁とあつものが出されたが、太政大臣家の人々はあつものだけをいただいていた。


一方、六条院『源氏の君の宮殿』では、源氏の君は「俺は太上天皇」と家長の席に座り、難しいところだったが、左に女三の宮、右に紫の女王さんを座らせていた。

そして、夕霧、雲居の雁、花散里夫人が順々に座っていた。

明石の君は、ほとんど御所に、末摘花女王さんは二条東院で過ごされていたが、六条院にうかがったときは、花散里夫人の次に座っていた。

六条院では、女三の宮、夕霧、雲居の雁、花散里夫人の四人はおみそ汁をいただいていた。『明石の君も、おみそ汁派だった。』


一条と落葉の宮に話が戻るが、「早くややこが出来ぬかのう」と一条は呟いた。

落葉の宮はドキリとした。

落葉の宮と女三の宮は他人に言えぬ秘密を共有していた。


落葉の宮は御所で夕霧に会うことが出来た。

しかし、女三の宮は六条院にいるため、おいそれとは柏木に会えなかった。


そんな若い恋人たちの運命が動こうとしていた。


その日の午後、朱雀院には二人の来客があった。

一人は明石の君だった。

今上の御代、政治は髭黒と明石の君が動かしていた。


もう一人は珍しい客。院の弟宮、八の宮だった。


明石の君は長くなるので、と八の宮に先を譲った。


八の宮は、かつて藤壺の宮『薄雲女院』が冷泉院に代えて擁立しようとした皇族で、仏教に篤く傾倒していた。


八の宮は、特別な献上品もなく、三人の姫宮を連れて『乳母たちが抱いて』、朱雀院に対面した。源氏の君や、冷泉院のような破格な美男子では無かったが、知的で、清潔感のある宮であらせられた。

「陛下、今日はお願いの儀があり、参内いたしました」

「ほう、何であろうか?」

「はい、実は家族で都を離れ、宇治の山荘にまかでようと『退出しようと』思うのです」

「何と!!」


朱雀は、この時代の迷信や偏見からはかなり自由だったが、貴族は都に暮らすと言う常識があったので、宇治で暮らすと言うのは、さみしく感じた。


「宮たちの生活には不自由ないよう、食糧や金銀は配っていると思うのじゃが・・・」

「はい、物質的な不自由がある訳ではございません。兄上様、陛下も、ご存知のように、僕は仏教を篤く信仰しています。しかし、皇族として簡単に出家する訳には参りませぬ。そこで、都を離れ、宇治で仏道修行をして過ごそうと思うのです」

「大隠は朝市に隠れ、小隠は山野に隠る、と言う言葉を知っていますか?」


大きく悟ったものは、朝廷や市場で人にまみれて暮らし、小さく悟ったものは世をすてると言う意味だった。

八の宮は破顔一笑した。


「もちろん知っております。しかし、私は兄上のように、大きく悟ることは出来ませぬ」


院も少しさみしく微笑んだ。


「しばらく会えぬかもしれぬ。姫宮さまたちを抱かせてたも」

朱雀は箱崎に支えてもらいながら、八の宮の三人の姫宮、大君、中君、浮舟を抱き、健やかであるように、幸多かれと祈った。


食糧などは宇治に十分に送ることを約束し、院は弟宮と別れた。




朱雀は茶を一杯飲み、明石の君を迎えたが、困ったことに、金銀の飾りもの、震旦や安南『ヴェトナム』のやきものなど豪華な品々が、次々と運び込まれて来た。

院は体をちょっと硬くした。こういうことは、今まで3回あった。親王二人、内親王一人の懐妊の時がそうだった。


明石の君がひらりと入ってきた。


「陛下、おめでとうございます。皇后さまがまた、ご懐妊となりました」


『やはり』と院は思し召された。髭黒も入ってきた。


「今度は、三の皇子がお生まれになります。二の皇子は祖父に似て・・・源氏の君の方でございます。きらきらしくも、御身体が弱く、帝王の徳にはやや欠けます。しかし、三の皇子は東宮さまと並び、帝王の徳をお持ちであり、順々に即位なされば、皇統はますます安定するでしょう」


院は予言や占いの類はお好きでなかった。それでも、明石の君の予言は全て当たっていることは認めざるを得なかった。


明石の君は平伏した。


「この度は、お願いの儀あり」

「ほう?」

「皇后が国母になられること、めでたきこと限りなし。源氏の君は住吉大社に感謝の参拝にうかがいたいと。皇后と私はもちろん、紫の女王さんや、花散里夫人も連れていきたいと・・・」


そこで、明石の君は顔を上げた。


「女三の宮さまもお誘いしたのですが、里下がり、参内をしたいと・・・」


院の表情は少し曇った。女三の宮はやはり、年齢もあり、六条院になかなかとけこめぬのか、と思し召された。明石の君に先回りされた。


「お嘆きになることはございませぬ。女三の宮さまも、羽根をのばされたいのでしょう」


明石の君はもう一つの願いを奏上した。


「陛下は、来年、五十の賀でございます。源氏の君はそれを祝って、六条院の女君たちで、音楽の合奏をやりたいと申しています。そして、女三の宮さまは御所で十分、琴の練習をしたいと・・・」

「左様であったか」


院は了承しつつ、「派手な賀などすることはありませんよ」と、釘をさしておいた。

今日は更新出来ないと思っていたのですが、いろいろ用事が早めに終わったので、投稿します。いつも、ありがとうございます。(・・;

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